一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

海抜0mから海抜0mへ・屋久島単独完全縦走①(楠川歩道~大株歩道)

2012年04月16日 | 海抜0mからの屋久島完全縦走・単独行


小学生の頃、地図帳を見るのが好きだった。
九州で一番高い山はどこだろうと探していて、
鹿児島県の南に位置する屋久島に、それ(宮之浦岳)を発見したときの驚き。
それは、子供ながらに凄い衝撃であった。
〈こんな小さな島になぜ2000m近い山があるんだろう?〉
なんだか「宝島」を発見したような喜びだった。

山に興味をもつようになってから、
再び屋久島が私の心の内で重要な位置を占めるようになってきた。
調べれば調べるほど、不思議の島であり、
ワンダーランドであった。
九州最南端の佐多岬から南南西60kmに位置し、
周囲は132km。
島の中心には、九州最高峰の宮之浦岳(1936m)があり、
しかも、九州の上位8位までの山々がそれに連なる。
1000m以上の山が実に46峰。
島自体がひとつの山塊ともいえる独特の地形なのだ。
まさに洋上アルプス。

屋久島を初めて訪れたのは、2008年5月。
当時所属していた山岳会の仲間8人と、
白谷雲水峡から入り、
縄文杉、永田岳、宮之浦岳、黒味岳を経て、淀川に抜けるという、
いいとこ取りの縦走をした。
素晴らしい縦走で、そのとき私は、
《これ以上望むべきものなどない旅》
と、屋久島を歩くことができたことの喜びを表現した。

あれから4年。
私の屋久島に対する思いは衰えることなく続いている。
そして、再訪したいという思いが強くなってきていた。

屋久島再訪にあたり、私は次のように考えた。

①【屋久島を一人で歩きたい】
前回は8人で行動し、サブリーダーだったということもあって、やや窮屈であった。
今度は一人で、自分のペースで、思うままに歩きたいと思った。

②【人のいない時期に歩きたい】
前回は、8人全員の休みが重なるゴールデンウィークでの山行であった。
縦走は素晴らしかったが、人の多さにはウンザリした。
今度は、あまり人のいない時期に歩きたいと思った。

③【雨の日に屋久杉の森を歩きたい】
前回は、最終日に少し雨が降ったが、晴天での山行だった。
晴れた日の「屋久杉の森」は、やや生命力に欠けていた。
緑に迫力がなく、屋久杉も干涸らびているように見えた。
今度「屋久杉の森」を歩くときは、雨の日がいいなと思った。

④【花山歩道を歩きたい】
花山一帯は、全国で5箇所しかない「原生自然環境保全地域」のひとつ。
屋久島にはたくさんのトレッキングルートがあるが、
島の山岳ガイドが絶賛するのがこの花山歩道。
他の有名なルートのように整備されていないが、
それ故に手つかずの自然が残っている貴重なルート。
ただし、ヤマビルがいるので、要注意。

⑤【九州最高峰の山(宮之浦岳)に海抜0mから登りたい】
これまで、佐賀県最高峰の「経ヶ岳」や、
日本最高峰の「富士山」には、
海抜0mから登った。
九州最高峰にも、ぜひ海抜0mから登りたい。
屋久島の海抜0mから2000m近い峰まで歩くと、
亜熱帯から亜寒帯までを体験することができる。
宮之浦岳山頂付近の年間平均気温は約5℃で、札幌よりも低いのだ。
誰かが「屋久島には日本列島の気候が凝縮されている」と言っていたが、
言い得て妙。
海抜0mから宮之浦岳に登れば、それが体感できる。

⑥【できれば「ゼロ to ゼロ」(海抜0nから海抜0mへ)も達成したい】
嬉しいことに九州最高峰は島にあるので、
「ゼロ to ゼロ」(海抜0nから海抜0mへ)が達成可能。
佐賀県最高峰の経ヶ岳や、
日本最高峰の富士山でも「ゼロ to ゼロ」ができたので、
九州最高峰でも「ゼロ to ゼロ」を達成したい。


屋久島を特集した雑誌で、
当地の山岳ガイドの話を紹介していたが、
混雑する時期は、
3月、5月、7月、8月、9月と言っていた。
6月は梅雨だし、秋は台風のシーズン。
花山歩道のヤマビルも高温多湿になると活動が活発になるようなので、
4月がイイかなと思った。

だが、会社に連休の申請をするものの、
取得できたのは、4月16日(月)、17日(火)、18日(水)の3日間のみ。
私の公休日である日曜日を月曜日に、
木曜日を水曜日にずらし、
火曜日のみを有給休暇にして、ようやく3日間を確保。
佐賀からの往復の時間を含めた3日間なので、
果たして屋久島「ゼロ to ゼロ」ができるのか?

綿密に計画を練る。
屋久島には避難小屋しかなく、
寝袋やマットはもちろん、
満員で泊まれないこともあるので、
ツエルトかテントも必要。
雨が多いので、雨具や着替えも必携。
それに食料などを詰め込むと、ザックも当然重くなる。
その重いザックを背負って、コースタイムよりも早く歩くことが求められる。
計画を練るだけではなくて、
脚力、体力も鍛え直した。

そして、出発前日を迎えた。
4月15日は日曜日だったが、もちろん仕事。
夜遅くに帰宅し、すぐに出発準備。
深夜、車で家を出る。
これから高速基山PAにある高速バス乗り場に向かうのだ。

4月16日(月)午前0時30分発の「桜島号」を待つ。


定刻にバスが到着し、乗り込む。
バスの中で、少しの間、仮眠。
疲れている筈なのに、なかなか眠れず。

7:45
鹿児島本港・高速船ターミナルより、トッピーに乗り込む。


屋久島が見えてきた。


9:45
屋久島・宮之浦港に到着。
空はどんより曇り、今にも雨が降り出しそう。


10:00
島の外周路線バスに乗り込む。
10:15
「楠川」バス停で下車。
海へ向かう。

海に着いた。
体は疲れている。
睡眠不足。
果たして歩けるのか?


いつもの儀式。


10:29
出発。
今日はこれから、縄文杉まで歩く予定。
ガイドブックのコースタイムでは約8時間の行程。
休憩を取らずに歩き続ければ、18時半頃には着く筈。(やれるのか?)
今日の「日の入り」は18時47分だからギリギリだ。


10:38
県道77号線を横切り、ここから入って行く。


前方には、山の連なり。
まだ雨は降っていない。


道端にキケマンが咲いていた。


楠川の集落を抜けると、羊歯植物の生い茂る道になる。


葉は羊歯のようだが、樹木のように大きい。
亜熱帯の雰囲気。


11:15
楠川登山道入口に到着。
ここから先もしばらく林道が続くが……


11:26
車が通れそうな道は、ここでおしまい。
本格的な登山道となる。


植林された杉林の道。
雨が降ってきた。
でも木々が傘になり、あまり濡れない。
レインウェアは着ずに歩く。


ここら辺りは、多良山系を歩いている感じ。


つづら折りのガレ場の急登が続く。
けっこうキツイ。


等高線の目が詰まっている所。


急登を終えると、美しい沢が……


この辺りから、雰囲気がガラリと変化する。


12:32
「三本杉」を通過。


サクラツツジを発見。


美しい!


白谷雲水峡が近づいてきたことを実感する。


倒木さえも美しい。


12:51
広い道に出る。


12:59
白谷雲水峡入口に到着。
ここで「森林環境整備推進協力金」300円を払って中に入る。


「白谷雲水峡は観光地化していてつまらない」
という人もいるけれど、
どんな人にも楽しめる素敵な場所だと思う。


ダイナミックな水の流れ。


木々たちのパフォーマンス。


苔を纏った生き物がいるみたい。


13:42
「くぐり杉」を通過。
この写真をセルフタイマーで撮っていたら、
後ろからやってきた青年が、
「そうやって撮ると杉の大きさが判ってイイですね~」
としきりに感心していた。
もっといろいろなカットを撮ろうと思っていたのだが、
照れくさくなってやめた。


13:46
白谷小屋横を通過。


13:47
ヤマグルマ、ナナカマド、サクラツツジなどが着生している「七本杉」を通過。


ここから先は、素晴らしい自然の造形美。


霧雨の降る森は、緑の生き物たちが躍動している。
雨は森の血液であることを実感。


雨の日の屋久杉の森を存分に楽しむことができた。


14:13
「辻峠」を通過。
ここからは坂道を下って行く。


遠くからヤクシカがこちらを見ていた。


雨の日に歩ける幸せ。


14:44
「楠川分かれ」に到着。


ここからは、トロッコ道だ。


トロッコ道は滑るので歩きにくいが、
今の私は歩ける喜びが躰に満ちている。


前回屋久島を訪れたときに感じた最大の問題点はトイレであった。
今回、5年振りに訪れて感じたのは、トイレが増えたこと。


時折、「日帰り縄文杉ツアー」の団体とすれ違う。
一人、反対方向へ向かって歩いて行く快感。(笑)


橋からみる沢には、新緑が増えてきている。


15:41
「大株歩道入口」に到着。
ここで行動食を食べ、小休止。


15:49
「大株歩道入口」を出発。
ここからキツイ登りなので、気合いを入れて歩き出す。


16:04
「翁杉」を通過。
2010年9月に幹折れした翁杉。
屋久島では縄文杉に次いで幹部(胸高周囲)が太い(樹高23.7m、胸高周囲12.6m、推定樹齢2000年)と言われていたのだが……残念。


16:09
「ウィルソン株」に到着。
この頃から雨が激しく降ってきた。
株の中に入り、お約束のハート。(笑)


この登山道で、同じようなハート型の30cmくらいの石を何度か見かけた。
意図して置かれたものなのか?
それとも自然の造型?


16:55
「大王杉」を通過。
まさに大王の存在感。


16:59
「夫婦杉」を通過。
手をつないでいるね~


夫婦杉を通過してからが長かった。
縄文杉になかなか着かない。
同じ所をぐるぐる回っているような錯覚をおぼえ、クラクラした。
疲れがピークに達していたのだろう。

17:28
「縄文杉」に到着。
楠川の海から、約7時間。
まだ明るいうちに到着できて嬉しかった。


「大株歩道入口」からずっと誰にも会わなかった。
そして今、誰もいない森で、
縄文杉と対峙している。
たかが縄文杉、されど縄文杉。


5年前にこの縄文杉を見たとき、
私はこのブログに次のように記している。

展望台がなかった昔は、この縄文杉の根っこで一夜を明かした人も多いと聞く。
もはや、縄文杉の下で眠ることはできないが、屋久島の山奥の無名の杉だったら、それは可能だろう。
いつの日か、一人で屋久島に来て、一本の巨大な杉の下で眠りにつけたら……と、私は思った。


今夜、私は、巨大な屋久杉の下で眠ることにしよう。

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