2013年9月21日に公開された白石和彌監督作品『凶悪』は、
リリー・フランキーが出演していたのでぜひ見たいと思ったのだが、
(いつものことではあるが)佐賀県での上映館はなく、
福岡へ行く機会を逸しているうちに、
福岡での上映が終わってしまった。
〈DVD待ちか……〉
と、諦めかけたとき、
小倉の昭和館で上映されることを知り、
2014年02月26日に、
わざわざ北九州(福岡県北九州市小倉北区魚町)まで見に行ったのだった。
栗原小巻さんもふらりと訪れたことがあるという昭和館は、
1939年(昭和14年)に開館した、
その名の通り、昭和の香りを残す(シネコンのような指定席ではなく“自由席”)、
素晴らしい映画館であった。
そして、小倉・昭和館で見た映画『凶悪』も傑作であったので、
白石和彌監督の名と共に、強く記憶されたのだった。
その白石和彌監督の新作『日本で一番悪い奴ら』が、6月25日に公開された。
本作は、『凶悪』とは違い、佐賀県でも上映館(109シネマズ佐賀)があったので、
さっそく見に行ったのだった。
柔道で鍛えた力を買われて、北海道警察の刑事になった諸星要一(綾野剛)。
強い正義感を持ちながらも、
毎日、調書ばかりを書かされ、
うだつの上がらない日々を過ごしていた。
ある日、
署内随一の敏腕刑事・村井(ピエール瀧)から、刑事の“イロハ”を叩き込まれる。
それは、
「刑事は点数。点数稼ぐには裏社会に飛び込み、S(スパイ)をつくれ」
というものであった。
猪突猛進型の体育会系な諸星は、それを真に受け、
名刺を配りまくり、
やがて、
暴力団幹部・黒岩(中村獅童)、
麻薬の運び屋・山辺(YOUNG DAIS)、
盗難車のバイヤー・ラシード(植野行雄)などと知り合い、
“S”になってもらう。
そして、その“S”を率い、
「正義の味方、悪を絶つ」の信念の元、
規格外の捜査に乗り出す。
次々と成果を上げた諸星は、署のエースとなり、
ススキノの高級ホステス・田里由貴(矢吹春奈)や、
婦人警官・廣田敏子(瀧内公美)にモテまくる。
こうして調子に乗り、
でっちあげ、やらせ逮捕、おとり捜査、拳銃購入、覚せい剤密輸など、
あらゆる悪事を重ねていく諸星だったが……
見た感想はというと……
とにかく面白く、
上映時間の2時間15分があっという間であった。
綾野剛の熱演につぐ熱演で、
『新宿スワン』(2015年5月30日公開)をも凌ぐほどの凄まじい演技であった。
綾野剛にとっての、
“静”の代表作が『そこのみにて光輝く』(2014年4月19日公開)であるならば、
『日本で一番悪い奴ら』は“動”の代表作ではないかと思った。
映画『日本で一番悪い奴ら』は、
『凶悪』と同じく、実在の事件をもとに描いた作品である。
その実在の事件とは、
2002年、北海道警察で起こり、
「日本警察史上最大の不祥事」とされた「稲葉事件」。
【稲葉事件】
2002年7月、
北海道警察の生活安全特別捜査隊班長である稲葉圭昭警部が、
覚せい剤取締法違反容疑と銃砲刀剣類所持等取締法違反容疑で逮捕され、
有罪判決を受けた。
公判において、
単純な犯罪ではなく、「やらせ捜査」や「銃刀法違反偽証」など、
北海道警察ぐるみによる不祥事が明るみに出るとともに、
北海道警裏金事件が2003年に発覚するきっかけともなった。
日本警察史上、最大の不祥事が明るみになった事件である。
(詳しくはコチラから)
稲葉圭昭氏は、
2011年9月に刑期を終え出所し、
同年10月に『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』を講談社から出版。
それが、映画『日本で一番悪い奴ら』の原作となっている。
“日本で一番悪い奴ら”とは、
もちろん、国家と国民を守る筈の警察官のことである。
この『日本で一番悪い奴ら』の内容を知ると、
最近見た映画『64‐ロクヨン‐』など、
お子様ランチのように思えてくる。
諸星要一役の綾野剛はもちろんのこと、
山辺太郎役のYOUNG DAIS、
アクラム・ラシード役の植野行雄、
黒岩勝典役の中村獅童、
村井定夫役のピエール瀧、
栗林健司役の青木崇高(優香と結婚したな~)、
加賀谷力役の木下隆行など、
すべてハマリ役で、
とくに芸人・植野行雄の演技力には感心した。
女優陣も頑張っていて、
ススキノの高級ホステス・田里由貴を演じた矢吹春奈、
婦人警官・廣田敏子を演じた瀧内公美が、
男優陣に負けない熱演を魅せていた。
白石和彌監督作品『凶悪』(2013年)に続いて、
本作『日本で一番悪い奴ら』にも出演していた私ご贔屓の松岡依都美。
ススキノのホステス役であったが、
諸星(綾野剛)が、村井(ピエール瀧)から、刑事の“イロハ”を教えられるシーンで、
村井がホステス(松岡依都美)の躰をまさぐりながら説教するのだが、
「私の躰を使ってレクチャーするの、やめてよ」
というシーンは秀逸であった。
是枝裕和監督作品『海よりもまだ深く』にも出演していたが、
傑作を創り出す監督にキャスティングされる松岡依都美という女優は、
彼女が出演しているだけで、
「見る価値あり」の作品といえるのではないだろうか……
北海道出身の白石和彌監督が、
北海道で実際に起こった、
“日本警察史上、最大の不祥事”と言われる「稲葉事件」をモチーフに、
相当の覚悟で撮った傑作『日本で一番悪い奴ら』。
映画館で、ぜひぜひ。