一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『私の叔父さん』 ……初恋の思い出のように心に残る佳作……

2012年03月09日 | 映画


最近、
『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』
『ヒューゴの不思議な発明』
『戦火の馬』
など、洋画の話題作が次々と公開されている。
アカデミー賞候補になった作品ばかりなのに、
そういった大作をあまり見たいと思わない私がいる。
3Dであったり、CGを多用したような作品は、
見ている時は楽しいのだが、
見終わって映画館を出ると、心が胸やけしたような状態になる。
先日も、映画館で、上記3作の内のどれかを見ようかと思ったのだが、
結局、私が選んだのは、3DともCGとも無縁な邦画『私の叔父さん』であった。

原作は、連城三紀彦。
直木賞受賞短篇集『恋文』に収められている作品。
私は、かつて、連城三紀彦の作品を集中して読んだ時期があり、
「私の叔父さん」は大好きな作品。
これまで映画化されなかったのが不思議なくらいの名作なのだ。


嬉しいことに、主要ロケ地は、福岡市や糸島市。
福岡フィルムコミッションの仲介で実現したもので、
前原名店街、食事処・前原古材の森、糸島市役所本庁舎などで撮影されている。



カメラマンの田原構治(高橋克典)は、
大学受験のために上京し自分のマンションに寝泊まりさせていた夕美子(松本望)の発言に言葉を失った。
「おじさん、私の母さんのこと愛していたんでしょ?」
18年前に夕美子を生んで間もなく死んだ夕季子(寺島咲)は、
構治の姉・郁代(松原智恵子)の一人娘で、構治とは叔父、姪に当たる関係だった。
夕美子が福岡に帰った後、郁代から構治に連絡があり、
夕美子は妊娠していて、しかもお腹の子の父親は構治だという。
福岡の実家で、構治を交え、郁代、そして夕美子の父・布美雄(鶴見辰吾)に対して、夕美子は、母夕季子と構治が愛しあっていたと言い張り、その証拠として構治が撮った、赤ん坊の自分を抱いた夕季子の5枚の写真を見せる。
執拗な夕美子の追及に構治の想いは18年前に遡っていった……。
構治と夕季子は兄妹のように育った6つ違いの叔父と姪。
ある日、東京でカメラマン修行をしている構治のもとに、
見違えるように綺麗になった夕季子が上京、7年ぶりの再会を果たした。
ひと月後、再度上京した夕季子は、一ヶ月間どこにも行かず献身的に構治の世話を始め、
お互いがお互いの気持ちを察しながら二人の恋愛模様が微かに回りはじめる。
そして、構治が世間や社会に抗ってまで辿り着いた真実の愛とは……。

(ストーリーはパンフレットより引用し構成)



『サラリーマン金太郎』シリーズ、
『特命係長・只野仁』シリーズなど、
コミック原作のTVドラマの主人公のイメージがある高橋克典は、
私の好きな俳優とは言えず、その点が心配だった。
だが、それは杞憂であった。
オーバーアクションを極力控え、
静かな演技で、
20代と40代の主人公をうまく演じ分けていた。



光っていたのは、夕季子を演じた寺島咲。


1990年9月23日生まれの23歳。
2004年に、大林宣彦監督に認められ映画『理由』で女優デビュー。
2008年『受験のシンデレラ』でモナコ国際映画祭最優秀主演女優賞を受賞。
『モノクロームの少女』(2009年)
『ハードライフ』(2010年)
などの出演作がある。
彼女が特に良かった。
愛してはいけない人を愛してしまった少女と、そして大人の女性を、
哀しげに、儚げに、巧く演じていた。



監督は、細野辰興。
原作に惚れ込み、助監督時代から構想を練り、
長年の夢をやっと結実させた作品は、
監督の想いがいっぱい詰まった佳作となっている。
過去と現在を交互に出し入れする手法は、
失敗すると悲惨な結果になるのだが、
本作は、その点でも、合格点が与えられると思う。



ハリウッド作品に比べれば、
本当に小さな小さな作品である。
だが、「愛すべき小品」ともいうべき、
そっと抱きしめたくなるようなこの作品は、
見る者の心に、
初恋の思い出のように、
いつまでも残ることだろう。

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