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住野よるの同名小説を、
吉沢亮と杉咲花主演で映画化したものである。
監督は『映画 妖怪人間ベム』の狩山俊輔。
住野よる原作の映画『君の膵臓をたべたい』(2017年7月28日公開)のレビューを書いたとき、私は次のように記している。
『君の膵臓をたべたい』という本が出版されたのは、
2015年6月19日のことだった。
その刺激的なタイトルとは裏腹に、
「美しい物語の展開」
「泣ける小説」
として若い女性層を中心に口コミで広がり、
「2016年 本屋大賞」第2位、
「2016年 ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR 」2位、
「読書メーター読みたい本ランキング」1位、
「第3回Yahoo!検索大賞 カルチャーカテゴリ 小説部門賞」受賞など、
瞬く間にベストセラー小説となった。
(2017年3月時点で累計発行部数は75万部)
〈どんな小説なんだろう?〉
と思った私は、図書館に予約し、
昨年末に、ようやく読むことができた。
読んだ感想はというと……
これが、甚だ良くなかった。
題材は、よくある難病もので、ありふれたストーリーであったし、
なによりも文体が村上春樹風(村上春樹の文体でライトノベルを書いたような……)で、
使われている比喩などがキザったらしく、
〈おいおい、高校生がそんな風に思考するかよ!〉
というようなツッコミどころ満載で、
余計なことを考え過ぎた所為もあるかもしれないが、
まったく感動することができなかった。
だから、小説『君の膵臓をたべたい』の印象は頗る悪かった。
(中略)
映画を見た感想はというと……
これが案外良かった。
やはり吉田智子の脚本が優れており、
原作の小説よりも数段良くなっていた。
原作にはない12年後の描き方も悪くなく、
“過去”と“現在”の出し入れもスムーズで、
まったく違和感なく見ることができた。
この“過去”と“現在”の2つの時間軸が交錯させる手法は、
大ヒットした映画『世界の中心で、愛をさけぶ』の真似であろうが、
文字通り絶叫型の『世界の中心で、愛をさけぶ』に対し、
真逆とも言える「内に秘めた想い」を軸として静かに描いた『君の膵臓をたべたい』は、
いかにも今風で、なかなかのものであった。
映画化された『君の膵臓をたべたい』は評価したものの、
原作の住野よるの小説はまったく評価できなかった。
なので、
同じ住野よる原作の『青くて痛くて脆い』が映画化される聞いたときも、
原作を読む気はなかったし、
映画の方も見るか見ないか迷った。
それでも、
このブログで俳優として高く評価してきた、
吉沢亮(『リバーズ・エッジ』『キングダム』)
杉咲花(『湯を沸かすほどの熱い愛』『楽園』『弥生、三月-君を愛した30年-』)
のW主演だし、
私の好きな女優の松本穂香、森七菜も出演しているので、
〈見たい!〉
と思う気持ちが勝った。
で、公開(2020年8月28日公開)直後に、映画館に駆けつけたのだった。
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田端楓(吉沢亮)の自らの人生におけるテーマは、
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「人に不用意に近づきすぎないことと、誰かの意見に反する意見を出来るだけ口に出さないこと。そうしていれば少なくとも自分から誰かを不快にさせる機会は減らせるし、そうして不快になった誰かから傷つけられる機会も減らせる」
というもの。
そんなコミュニケーションが苦手で他人と距離を置いてしまう楓と、
理想を目指すあまり空気の読めない発言を連発して周囲から浮いている秋好寿乃(杉咲花)。
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ひとりぼっち同士の大学生2人は、
「世界を変える」という大それた目標を掲げる秘密結社サークル「モアイ」を立ち上げる。
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周囲から変人扱いされながらも、二人だけの楽しい日々が続くが、
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大学院生・脇坂(柄本佑)が支援を申し出てくれた頃から「モアイ」は変貌し、
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そして秋好は「この世界」から突然いなくなってしまった。
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その後の「モアイ」は、
当初の理想とはかけ離れた、コネ作りや企業への媚売りを目的とした意識高い系の就活サークルへ成り下がってしまう。
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そして、取り残されてしまった田端の怒りや憎しみが暴走する。
どんな手段を使っても「モアイ」を破壊し、
秋好が叶えたかった夢を取り戻すため、
田端は親友や後輩と手を組んで「モアイ奪還計画」を企てるのだった……
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原作は読まずに、予告編だけを見て映画を鑑賞したのだが、
前半は、予告編のイメージ通りであったのだが、
後半は、見事に予想を裏切られた。
それも、良い方に……
本作のキャッチコピーに、
「この青春には嘘がある。」
とあったが、
〈そういうことだったのか……〉
と、妙に納得させられた。
ストーリーはまったく違うのだが、
映画『イニシエーション・ラブ』(2015年)級の驚きがあった。
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映画の後半、
物語は予想だにしない展開へと変貌するのだが、
ここに至って、初めて、本作のタイトル、
『青くて痛くて脆い』
が身に染みて解ることになる。
青春時代に誰しも経験したであろう「痛み」が蘇ってくる。
この感覚は新鮮であった。
前期高齢者の私にも、まだその感覚が残っていたのだと、嬉しくもなった。
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こんなまわりくどい言い方しかできないのは、
『イニシエーション・ラブ』同様、ネタバレ厳禁だからだ。
そういう意味では、原作を読まずに映画を見たのは正解であった。
もし、映画が先か、原作の読書が先かと迷っている人がいたら、
私は「映画を見てから原作を読む」ことをオススメする。
実際、私は、映画鑑賞後に、原作を読んだ。
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そのことによって、この映画をもっと深く理解することができた。
住野よるの小説自体も、
『君の膵臓をたべたい』のときよりも数段進歩していたし、
読み応えがあった。
「『キミスイ』の価値観をぶっ壊すために書いた」
と作者自身が語る通り、
『君の膵臓をたべたい』とは真逆の物語なのだが、
『君の膵臓をたべたい』が青春の表の顔とすれば、
本作『青くて痛くて脆い』が青春の裏の顔とも言え、
2作(表裏一体)で“青春”を表現しているように感じた。
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主人公の田端楓を演じた吉沢亮。
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映画『リバーズ・エッジ』(2018年)のレビューを書いたとき、
ハルナの同級生の山田一郎を演じた吉沢亮。
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本作が傑作に成り得ているのは、吉沢亮がいたからこそである。
もっとも重要な役なので、彼以外では成功しなかったのではないか……
そう思わせるほどの演技をしていた。
時々、高良健吾ではないか……と思わせるほど似ているシーンがあり、
高良健吾のような素晴らしい男優に成長していくのではないかと期待を抱かせる。
これまでは仮面ライダーや学園ものに出演しているイメージであったが、
これからは、『リバーズ・エッジ』の吉沢亮と記憶されるだろう。
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と彼のことを絶賛したが、
その後、
『キングダム』(2019年)で、
第43回日本アカデミー賞・最優秀助演男優賞を受賞するほどの演技を見せ、
吉沢亮という俳優の進化は止まらない。
本作『青くて痛くて脆い』では、
前半と後半ではイメージがガラリと違うという難役を見事に演じており、
感心させられた。
来年(2021年)の大河ドラマ「青天を衝け」(NHK)の主演・渋沢栄一役も決まっており、
これからも吉沢亮から目が離せない。
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もう一人の主人公・秋好寿乃を演じた杉咲花。
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『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)のレビューを書いたとき、
……宮沢りえと杉咲花の火傷するほどの熱演光る傑作……
とのサブタイトルを付して、
私は杉咲花について次のように記している。
双葉(宮沢りえ)の娘・安澄を演じた杉咲花。
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味の素 Cook DoのCMで回鍋肉を食べる美少女として有名な彼女だが、
今年(2016年)見た『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』(4月29日公開)では、
女子高生ピアニストを好演していたものの、「強く印象に残る」というほどではなかった。
だが、本作『湯を沸かすほどの熱い愛』では、
彼女の(現時点での)代表作になるのではないかと思わされるほどに優れた演技をしていて驚かされた。
宮沢りえ同様、相当の覚悟で演じていたことと思われる。
その「衝撃的であり象徴的なシーン」は、ぜひ映画館で確かめてもらいたい。
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その後も、このブログでレビューを書いている、
『無限の住人』(2017年)
『楽園』(2019年)
『弥生、三月-君を愛した30年-』(2020年)
などで素晴らしい演技を見せ、
私を楽しませてくれた。
本作『青くて痛くて脆い』では、吉沢亮と同様、
前半と後半ではイメージがガラリと違うという難役を見事に演じており、
純粋さ、したたかさ、明るさ、暗さ、強さ、弱さ、優しさ、恐さなど、
若い女性のあらゆる感情表現を披露しており、秀逸であった。
この女優は本当に演技が上手いし、いつも唸らされる。
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「モアイ」の幽霊部員・本田朝美(通称ポン)を演じた松本穂香。
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昨年(2019年)の「くまもと復興映画祭2019」に参加した際、
……松本穂香と有村架純に逢いたくて……
とのサブタイトルを付して、
私は次のように松本穂香のことを記している。
招待作品『アストラル・アブノーマル鈴木さん』
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若手人気女優・松本穂香の主演作。
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全17話がYouTubeで配信されたドラマの再編集となるディレクターズカットの劇場版で、
田舎でYouTuberとして生きる女性が、周囲の人々を翻弄する話。
大野大輔監督の即興性の高い演出が、
松本穂香の魅力を引き出し、とても面白い作品になっていた。

上映後のティーチインでは、大野大輔監督と、主演の松本穂香が登場。
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一人二役でのエピソードや、なぜ眼帯をしているのかなど、
面白い話をたくさん聞くことができた。
即興長回し的な演出なので、やっているうちに段々過激になっていったとのこと。
でも、松本穂香が本当に可愛かった。(コラコラ)

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映画祭の会場では、松本穂香の写真集も販売されていた。
かつては、単なる、
可愛くて、明るくて、面白い女の子……というイメージであったが、
TVドラマ「この世界の片隅に」(2018年7月15日~9月16日、TBS)の主演・北條(浦野)すずの役に大抜擢された頃から演技派女優としての一面も見られるようになり、
『チワワちゃん』(2019年)
『おいしい家族』(2019年)
『わたしは光をにぎっている』(2019年)
などの映画で重要な役を得、一気に評価を高めてきた。
本作『青くて痛くて脆い』では脇役ではあるものの、
一見ヘラヘラしているように見えるが、
楓や秋好にはない強さを持ち、
良識的で、他人と適切な距離感で接することができるポンちゃんを、
実に巧く演じていた。
彼女がいたからこそ、楓や秋好の特性が引き立ち、
面白い作品になったのだと思う。
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楓や秋好が「モアイ」の活動を通して知り合う不登校の少女・西山瑞希を演じた森七菜。
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新海誠のアニメーション映画『天気の子』のヒロイン天野陽菜役に、
2,000人以上のオーディション参加者の中から抜擢され一躍有名になり、
岩井俊二監督作品『ラストレター』(2020年)での演技で、
一気に女優としての評価を高めた。
この作品のレビューで、私は、森七菜のことを次のように記している。
松たか子や広瀬すずに負けないほど存在感を示したのが、
新人の森七菜。

自然体のナチュラルな演技で、
見る者をほんわかとした気分にさせてくれた。
彼女を見ているだけで楽しくなるし、
なにか良いことが起こりそうな気分になる。
広瀬すずとは違った意味での“凄い女優”になりそうな予感がした。
エンドロールで流れる主題歌も担当しているので、
その透明感のある歌声も楽しんでもらいたい。

「広瀬すずとは違った意味での“凄い女優”になりそうな」予感通り、
連続テレビ小説「エール」(2020年3月30日~、NHK)での関内梅役、
来年(2021年)公開予定の映画『ライアー×ライアー』で主演(松村北斗とW主演)など、
次々と良い役が舞い込んでおり、
将来性が感じられる女優No.1の座を勝ち得ているのではないかと思われる。
本作『青くて痛くて脆い』では、
出演シーンは短いものの、抜群の存在感を示しており、
特に、瑞希(森七菜)を連れ戻しに来た担任教師・大橋(光石研)との凄まじいやりとりは、
鬼気迫るものがあった。
広瀬すずのときもそうであったが、
森七菜が出演しているだけで、その作品は「見る価値あり」である。
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楓のバイト先の後輩で、「モアイ」に参加する女子大生・川原理沙を演じた茅島みずき。
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2017年に芸能プロダクション「アミューズ」が開催したオーディション、
「アミューズ 全県全員面接オーディション2017 〜九州・沖縄編〜」で、
3224名の中からグランプリを獲得し、芸能界入りした逸材。
2019年3月30日に開催された「第28回 東京ガールズコレクション 2019 SPRING / SUMMER」でモデルデビュー。
2019年4月、ブレイク女優の登竜門としても注目される「ポカリスエット」のCMに起用される。
2004年7月6日生まれなので、現在16歳(2020年9月現在)
撮影時はまだ15歳くらいだったと思うのだが、
その年齢で女子大生を演じるということにも驚かされるが、
その大人びた風貌に魅了された。
本作が映画デビュー作ということで、
演技の方はまだこれからといった感じであったが、
存在感と目力が抜群で、森七菜に負けないほどの将来性が感じられた。
長崎県出身というのも(同じ長崎県出身の私としては)嬉しいし、
同じ長崎県出身の女優、原田知世、仲里依紗、川口春奈などと同様、
これからも応援していきたい。
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この他、
楓の親友・前川董介を演じた岡山天音、
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「モアイ」の幹部・天野巧(テン)を演じた清水尋也、
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「モアイ」を外部から支援し、その発展に寄与する脇坂を演じた柄本佑、
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瑞希(森七菜)を連れ戻しに来た担任教師・大橋を演じた光石研などが、
素晴らしい演技で作品を盛り立てていた。
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正直、これほど面白い作品とは思わなかった。
意外性では、本年度随一かもしれない。
ぜひぜひ。
吉沢亮と杉咲花主演で映画化したものである。
監督は『映画 妖怪人間ベム』の狩山俊輔。
住野よる原作の映画『君の膵臓をたべたい』(2017年7月28日公開)のレビューを書いたとき、私は次のように記している。
『君の膵臓をたべたい』という本が出版されたのは、
2015年6月19日のことだった。
その刺激的なタイトルとは裏腹に、
「美しい物語の展開」
「泣ける小説」
として若い女性層を中心に口コミで広がり、
「2016年 本屋大賞」第2位、
「2016年 ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR 」2位、
「読書メーター読みたい本ランキング」1位、
「第3回Yahoo!検索大賞 カルチャーカテゴリ 小説部門賞」受賞など、
瞬く間にベストセラー小説となった。
(2017年3月時点で累計発行部数は75万部)
〈どんな小説なんだろう?〉
と思った私は、図書館に予約し、
昨年末に、ようやく読むことができた。
読んだ感想はというと……
これが、甚だ良くなかった。
題材は、よくある難病もので、ありふれたストーリーであったし、
なによりも文体が村上春樹風(村上春樹の文体でライトノベルを書いたような……)で、
使われている比喩などがキザったらしく、
〈おいおい、高校生がそんな風に思考するかよ!〉
というようなツッコミどころ満載で、
余計なことを考え過ぎた所為もあるかもしれないが、
まったく感動することができなかった。
だから、小説『君の膵臓をたべたい』の印象は頗る悪かった。
(中略)
映画を見た感想はというと……
これが案外良かった。
やはり吉田智子の脚本が優れており、
原作の小説よりも数段良くなっていた。
原作にはない12年後の描き方も悪くなく、
“過去”と“現在”の出し入れもスムーズで、
まったく違和感なく見ることができた。
この“過去”と“現在”の2つの時間軸が交錯させる手法は、
大ヒットした映画『世界の中心で、愛をさけぶ』の真似であろうが、
文字通り絶叫型の『世界の中心で、愛をさけぶ』に対し、
真逆とも言える「内に秘めた想い」を軸として静かに描いた『君の膵臓をたべたい』は、
いかにも今風で、なかなかのものであった。
映画化された『君の膵臓をたべたい』は評価したものの、
原作の住野よるの小説はまったく評価できなかった。
なので、
同じ住野よる原作の『青くて痛くて脆い』が映画化される聞いたときも、
原作を読む気はなかったし、
映画の方も見るか見ないか迷った。
それでも、
このブログで俳優として高く評価してきた、
吉沢亮(『リバーズ・エッジ』『キングダム』)
杉咲花(『湯を沸かすほどの熱い愛』『楽園』『弥生、三月-君を愛した30年-』)
のW主演だし、
私の好きな女優の松本穂香、森七菜も出演しているので、
〈見たい!〉
と思う気持ちが勝った。
で、公開(2020年8月28日公開)直後に、映画館に駆けつけたのだった。

田端楓(吉沢亮)の自らの人生におけるテーマは、

「人に不用意に近づきすぎないことと、誰かの意見に反する意見を出来るだけ口に出さないこと。そうしていれば少なくとも自分から誰かを不快にさせる機会は減らせるし、そうして不快になった誰かから傷つけられる機会も減らせる」
というもの。
そんなコミュニケーションが苦手で他人と距離を置いてしまう楓と、
理想を目指すあまり空気の読めない発言を連発して周囲から浮いている秋好寿乃(杉咲花)。

ひとりぼっち同士の大学生2人は、
「世界を変える」という大それた目標を掲げる秘密結社サークル「モアイ」を立ち上げる。
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周囲から変人扱いされながらも、二人だけの楽しい日々が続くが、
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大学院生・脇坂(柄本佑)が支援を申し出てくれた頃から「モアイ」は変貌し、
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そして秋好は「この世界」から突然いなくなってしまった。
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その後の「モアイ」は、
当初の理想とはかけ離れた、コネ作りや企業への媚売りを目的とした意識高い系の就活サークルへ成り下がってしまう。
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そして、取り残されてしまった田端の怒りや憎しみが暴走する。
どんな手段を使っても「モアイ」を破壊し、
秋好が叶えたかった夢を取り戻すため、
田端は親友や後輩と手を組んで「モアイ奪還計画」を企てるのだった……
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原作は読まずに、予告編だけを見て映画を鑑賞したのだが、
前半は、予告編のイメージ通りであったのだが、
後半は、見事に予想を裏切られた。
それも、良い方に……
本作のキャッチコピーに、
「この青春には嘘がある。」
とあったが、
〈そういうことだったのか……〉
と、妙に納得させられた。
ストーリーはまったく違うのだが、
映画『イニシエーション・ラブ』(2015年)級の驚きがあった。
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映画の後半、
物語は予想だにしない展開へと変貌するのだが、
ここに至って、初めて、本作のタイトル、
『青くて痛くて脆い』
が身に染みて解ることになる。
青春時代に誰しも経験したであろう「痛み」が蘇ってくる。
この感覚は新鮮であった。
前期高齢者の私にも、まだその感覚が残っていたのだと、嬉しくもなった。
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こんなまわりくどい言い方しかできないのは、
『イニシエーション・ラブ』同様、ネタバレ厳禁だからだ。
そういう意味では、原作を読まずに映画を見たのは正解であった。
もし、映画が先か、原作の読書が先かと迷っている人がいたら、
私は「映画を見てから原作を読む」ことをオススメする。
実際、私は、映画鑑賞後に、原作を読んだ。
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そのことによって、この映画をもっと深く理解することができた。
住野よるの小説自体も、
『君の膵臓をたべたい』のときよりも数段進歩していたし、
読み応えがあった。
「『キミスイ』の価値観をぶっ壊すために書いた」
と作者自身が語る通り、
『君の膵臓をたべたい』とは真逆の物語なのだが、
『君の膵臓をたべたい』が青春の表の顔とすれば、
本作『青くて痛くて脆い』が青春の裏の顔とも言え、
2作(表裏一体)で“青春”を表現しているように感じた。
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主人公の田端楓を演じた吉沢亮。
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映画『リバーズ・エッジ』(2018年)のレビューを書いたとき、
ハルナの同級生の山田一郎を演じた吉沢亮。
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本作が傑作に成り得ているのは、吉沢亮がいたからこそである。
もっとも重要な役なので、彼以外では成功しなかったのではないか……
そう思わせるほどの演技をしていた。
時々、高良健吾ではないか……と思わせるほど似ているシーンがあり、
高良健吾のような素晴らしい男優に成長していくのではないかと期待を抱かせる。
これまでは仮面ライダーや学園ものに出演しているイメージであったが、
これからは、『リバーズ・エッジ』の吉沢亮と記憶されるだろう。
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と彼のことを絶賛したが、
その後、
『キングダム』(2019年)で、
第43回日本アカデミー賞・最優秀助演男優賞を受賞するほどの演技を見せ、
吉沢亮という俳優の進化は止まらない。
本作『青くて痛くて脆い』では、
前半と後半ではイメージがガラリと違うという難役を見事に演じており、
感心させられた。
来年(2021年)の大河ドラマ「青天を衝け」(NHK)の主演・渋沢栄一役も決まっており、
これからも吉沢亮から目が離せない。
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もう一人の主人公・秋好寿乃を演じた杉咲花。
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『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)のレビューを書いたとき、
……宮沢りえと杉咲花の火傷するほどの熱演光る傑作……
とのサブタイトルを付して、
私は杉咲花について次のように記している。
双葉(宮沢りえ)の娘・安澄を演じた杉咲花。
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味の素 Cook DoのCMで回鍋肉を食べる美少女として有名な彼女だが、
今年(2016年)見た『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』(4月29日公開)では、
女子高生ピアニストを好演していたものの、「強く印象に残る」というほどではなかった。
だが、本作『湯を沸かすほどの熱い愛』では、
彼女の(現時点での)代表作になるのではないかと思わされるほどに優れた演技をしていて驚かされた。
宮沢りえ同様、相当の覚悟で演じていたことと思われる。
その「衝撃的であり象徴的なシーン」は、ぜひ映画館で確かめてもらいたい。
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その後も、このブログでレビューを書いている、
『無限の住人』(2017年)
『楽園』(2019年)
『弥生、三月-君を愛した30年-』(2020年)
などで素晴らしい演技を見せ、
私を楽しませてくれた。
本作『青くて痛くて脆い』では、吉沢亮と同様、
前半と後半ではイメージがガラリと違うという難役を見事に演じており、
純粋さ、したたかさ、明るさ、暗さ、強さ、弱さ、優しさ、恐さなど、
若い女性のあらゆる感情表現を披露しており、秀逸であった。
この女優は本当に演技が上手いし、いつも唸らされる。
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「モアイ」の幽霊部員・本田朝美(通称ポン)を演じた松本穂香。
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昨年(2019年)の「くまもと復興映画祭2019」に参加した際、
……松本穂香と有村架純に逢いたくて……
とのサブタイトルを付して、
私は次のように松本穂香のことを記している。
招待作品『アストラル・アブノーマル鈴木さん』
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若手人気女優・松本穂香の主演作。
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全17話がYouTubeで配信されたドラマの再編集となるディレクターズカットの劇場版で、
田舎でYouTuberとして生きる女性が、周囲の人々を翻弄する話。
大野大輔監督の即興性の高い演出が、
松本穂香の魅力を引き出し、とても面白い作品になっていた。
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上映後のティーチインでは、大野大輔監督と、主演の松本穂香が登場。
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一人二役でのエピソードや、なぜ眼帯をしているのかなど、
面白い話をたくさん聞くことができた。
即興長回し的な演出なので、やっているうちに段々過激になっていったとのこと。
でも、松本穂香が本当に可愛かった。(コラコラ)
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映画祭の会場では、松本穂香の写真集も販売されていた。
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かつては、単なる、
可愛くて、明るくて、面白い女の子……というイメージであったが、
TVドラマ「この世界の片隅に」(2018年7月15日~9月16日、TBS)の主演・北條(浦野)すずの役に大抜擢された頃から演技派女優としての一面も見られるようになり、
『チワワちゃん』(2019年)
『おいしい家族』(2019年)
『わたしは光をにぎっている』(2019年)
などの映画で重要な役を得、一気に評価を高めてきた。
本作『青くて痛くて脆い』では脇役ではあるものの、
一見ヘラヘラしているように見えるが、
楓や秋好にはない強さを持ち、
良識的で、他人と適切な距離感で接することができるポンちゃんを、
実に巧く演じていた。
彼女がいたからこそ、楓や秋好の特性が引き立ち、
面白い作品になったのだと思う。
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楓や秋好が「モアイ」の活動を通して知り合う不登校の少女・西山瑞希を演じた森七菜。
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新海誠のアニメーション映画『天気の子』のヒロイン天野陽菜役に、
2,000人以上のオーディション参加者の中から抜擢され一躍有名になり、
岩井俊二監督作品『ラストレター』(2020年)での演技で、
一気に女優としての評価を高めた。
この作品のレビューで、私は、森七菜のことを次のように記している。
松たか子や広瀬すずに負けないほど存在感を示したのが、
新人の森七菜。
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自然体のナチュラルな演技で、
見る者をほんわかとした気分にさせてくれた。
彼女を見ているだけで楽しくなるし、
なにか良いことが起こりそうな気分になる。
広瀬すずとは違った意味での“凄い女優”になりそうな予感がした。
エンドロールで流れる主題歌も担当しているので、
その透明感のある歌声も楽しんでもらいたい。
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「広瀬すずとは違った意味での“凄い女優”になりそうな」予感通り、
連続テレビ小説「エール」(2020年3月30日~、NHK)での関内梅役、
来年(2021年)公開予定の映画『ライアー×ライアー』で主演(松村北斗とW主演)など、
次々と良い役が舞い込んでおり、
将来性が感じられる女優No.1の座を勝ち得ているのではないかと思われる。
本作『青くて痛くて脆い』では、
出演シーンは短いものの、抜群の存在感を示しており、
特に、瑞希(森七菜)を連れ戻しに来た担任教師・大橋(光石研)との凄まじいやりとりは、
鬼気迫るものがあった。
広瀬すずのときもそうであったが、
森七菜が出演しているだけで、その作品は「見る価値あり」である。
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楓のバイト先の後輩で、「モアイ」に参加する女子大生・川原理沙を演じた茅島みずき。
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2017年に芸能プロダクション「アミューズ」が開催したオーディション、
「アミューズ 全県全員面接オーディション2017 〜九州・沖縄編〜」で、
3224名の中からグランプリを獲得し、芸能界入りした逸材。
2019年3月30日に開催された「第28回 東京ガールズコレクション 2019 SPRING / SUMMER」でモデルデビュー。
2019年4月、ブレイク女優の登竜門としても注目される「ポカリスエット」のCMに起用される。
2004年7月6日生まれなので、現在16歳(2020年9月現在)
撮影時はまだ15歳くらいだったと思うのだが、
その年齢で女子大生を演じるということにも驚かされるが、
その大人びた風貌に魅了された。
本作が映画デビュー作ということで、
演技の方はまだこれからといった感じであったが、
存在感と目力が抜群で、森七菜に負けないほどの将来性が感じられた。
長崎県出身というのも(同じ長崎県出身の私としては)嬉しいし、
同じ長崎県出身の女優、原田知世、仲里依紗、川口春奈などと同様、
これからも応援していきたい。
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この他、
楓の親友・前川董介を演じた岡山天音、
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「モアイ」の幹部・天野巧(テン)を演じた清水尋也、
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「モアイ」を外部から支援し、その発展に寄与する脇坂を演じた柄本佑、
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瑞希(森七菜)を連れ戻しに来た担任教師・大橋を演じた光石研などが、
素晴らしい演技で作品を盛り立てていた。
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正直、これほど面白い作品とは思わなかった。
意外性では、本年度随一かもしれない。
ぜひぜひ。