一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『猫は逃げた』 ……山本奈衣瑠、手島実優、猫(オセロ)が魅力的な佳作……

2022年03月26日 | 映画


先日、このブログで紹介した映画『愛なのに』(2022年2月25日公開)は、


脚本は、『愛がなんだ』『街の上で』の今泉力哉、
監督は、『アルプススタンドのはしの方』の城定秀夫で、
今泉力哉監督と、城定秀夫監督が、互いに脚本を提供しあった、
R15+指定のラブストーリー映画を製作するコラボレーション企画「L/R15」の1本目であった。
……河合優実、さとうほなみ、向里祐香が魅力的な傑作ラブコメ……
とのサブタイトルを付してレビューを書いたのだが、(レビューはコチラから)
稀に見る傑作で、


〈コラボレーション企画「L/R15」の2本目となる『猫は逃げた』も絶対見なければ……〉
と思った。
『猫は逃げた』(2022年3月18日公開)の方は、
『愛なのに』とは二人の立場が逆転して、
脚本は城定秀夫で、


監督は今泉力哉。


離婚寸前の夫婦と、それぞれの恋人の、計4人の男女を描いたラブコメディとのことで、
〈『愛なのに』のワクワクをもう一度!〉
と、上映館であるシアターシエマへ向かったのだった。



漫画家・町田亜子(山本奈衣瑠)と、週刊誌記者の広重(毎熊克哉)の夫婦。


広重は同僚の真実子(手島実優)と浮気中で、


亜子も編集者の松山(井之脇海)と体の関係を持っており、


夫婦関係は冷え切っていた。
離婚間近の2人は、
飼い猫のカンタをどちらが引き取るかで揉めていた。
そんな矢先、カンタが家からいなくなってしまう……




『愛なのに』があまりにも素晴らしい作品であったこと、
それ故に『猫は逃げた』への私の期待があまりにも大き過ぎた所為か、
正直、ちょっと物足りなく感じてしまった。
特に、序盤から中盤にかけては、物語の展開が平板で、寝落ちしそうになった。
それでも、終盤、猫が逃げてから(というか猫の行先が判明してから)、
やっとエンジンがかかったという感じで、物語が動き出し、面白くなった。
序盤からあの(終盤の)テンションで物語が進行したならば、
『愛なのに』と同等の傑作になりえていたかもしれない。
惜しいと思った。

「ちょっと物足りなく感じてしまった」要因を考えてみるに、
私が猫に(というかペットに)興味がないこと……があったかもしれない。
(なので、猫好きの人が見たならば、私とは違った感想をもつかもしれない)
私は人間ドラマが見たいのであって、人間以外の動物を見たいわけではない。
動物に癒されたいとも思っていない。
それに、猫が主人公、または重要なキャラクターとして登場する映画は無数にあって、
食傷気味であったし、
どこかで見たシーン、どこかで見た会話が繰り返され、新鮮味がなかった。
そういえば、最近、
『猫、かえる Cat's Home』(2020年1月18日公開)という短編映画をネット配信で見た。


リナ(モトーラ世理奈)は元恋人の浩の部屋に、2人で飼っていた猫のイブを引き取りにいく。
2人が別れた時、浩がイブを引き取ったのだが、
浩が猫アレルギーになってしまったことから、リナがイブを引き取ることになったのだ。
しかし、ちょっとした合間にイブがベランダから逃げ出してしまい……

というストーリーであったのだが、




『猫は逃げた』と『猫、かえる Cat's Home』という(真逆の)タイトルの違いはあれど、
逃げた猫が帰ってくるというストーリー展開、
猫を介した男女の物語、
猫アレルギーの登場人物がいる……などの共通点があり、
『猫は逃げた』は『猫、かえる Cat's Home』の長編版という感じであった。



「ちょっと物足りなく感じてしまった」要因の二つ目。
『愛なのに』の方は、
今泉力哉が、自身らしい(今泉力哉監督らしい)脚本を書き、
城定秀夫が、自身らしい(城定秀夫監督らしい)演出で、
成功していたと思うのだが、
『猫は逃げた』の方は、
城定秀夫が、自身らしくない(今泉力哉監督作品に寄せ過ぎた)脚本を書いていたために、
コラボレーション企画の意味合いが薄れ、
面白味が減少していたような気がした。
〈もっと城定秀夫監督らしい脚本であったならば……〉
と、残念に思ったことであった。



漫画家・町田亜子を演じた山本奈衣瑠。



モデル出身で、女優経験(2019年から)も浅く、


〈大丈夫か?〉
と心配していたが、
既存の女優にはない、女優女優していない風貌、容姿、
それに、クセのない自然な演技が新鮮で、
今泉力哉監督のキャスティングの妙を感じた。


終盤の、山本奈衣瑠を含めた主要キャスト4人が横並びで繰り広げる会話劇は、
森田芳光監督作品『家族ゲーム』での名シーンを彷彿させるほど素晴らしく、
本作でも名シーンとなっていたと思う。



広重の同僚で、広重と不倫をしている真実子を演じた手島実優。



ウェブドラマ「東京ラブストーリー」(2020年4月29日~6月3日、FOD・Amazon Prime Video)で、関口さとみ(石井杏奈)が働く保育園での同僚・北川トキコを演じているのを観て、手島実優という女優を知ってはいたが、




本作『猫は逃げた』のように、彼女の演技をしっかり見たのは初めてで、
全裸も、濡れ場も、「体当たり」というような大袈裟な表現を使う必要もなく、
(いい意味で)軽々とこなしているようにも見え、感心した。


亜子の夫・広重(毎熊克哉)も、


亜子の編集担当者・松山(井之脇海)も、


どちらかというと草食系男子のような感じだったし、(あくまでも映画での印象)
町田亜子(山本奈衣瑠)も性に関しては淡泊な印象であったので、(あくまでも映画での印象)


本作『猫は逃げた』でのベッドシーンは、
『愛なのに』ほどには必要性を感じなかったが、
唯一、手島実優だけは肉食系のように見えたし、(あくまでも映画での印象)
色気があったし、特にお尻は魅力的であった。(コラコラ)


劇中、彼女がいつも食べていたのは「ハリボー」というグミで、


見ているうちに私も食べたくなったりしたものだが、(笑)
本作において、手島実優は、この「ハリボー」のように、
ほかのグミに比べて噛み応えがあり、カラフルで、フルーツの香りがして、甘く、柔らかく、美味しい存在だったような気がした。



その他、
映画監督・味澤忠太郎を演じた伊藤俊介(オズワルド)、


編集部の上司・竹原を演じた(今泉力哉監督作品ではお馴染みの)芹澤興人、


近所のおばさん(おばあさん?)を演じていた中村久美が、


さすがの演技で作品を盛り上げていた。
それにしても、あの中村久美が……光陰矢の如し。



普通の猫には興味はないが、
町田家の猫・カンタを演じた俳優猫オセロは可愛かったし、
演技も上手かったと思う。
特徴的な模様と、あまり活発に動き回らないゆったり感のある雰囲気も良かった。
『愛なのに』にも出演していたが、


『愛なのに』では脇役であったのに、


本作『猫は逃げた』では主役を務めているのも凄い。



そういえば、(『愛なのに』のパンフレットで明かされていたのだけれど)
脚本完成時のそれぞれのタイトルは、
『愛なのに』は、『遊びと私生活』(脚本・今泉力哉)で、
『猫は逃げた』は、『猫なのに』(脚本・城定秀夫)であったらしい。
それぞれの監督が脚本のタイトルが気に入らず、
『遊びと私生活』は、「なのに」に愛着があった城定秀夫監督が『愛なのに』に変え、
『猫なのに』の方は、今泉力哉監督が「猫」だけ残して『猫は逃げた』に変えたとのこと。


R15+指定のラブストーリー映画を製作するコラボレーション企画「L/R15」は、
面白い企画だったと思うし、(『愛なのに』は傑作だったし、『猫は逃げた』も佳作)
また、いろんな監督の組み合わせで見ることができれば……と思った。

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