一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

海抜0メートルから登る富士山① ……田子の浦から村山浅間神社へ……

2011年07月31日 | 海抜0mから登る「富士山」単独行
シリーズ「麓から登ろう!」の夏休み特別企画は……
富士山(3776m)。(オイオイ)
「麓から登山家」(爆)としては、
やはり標高日本一の山にも麓から登っておくべきであろう。(コラコラ)

正直、これまで、個人的には富士山にはまったく興味がなかった。
毎年30万人以上の人々が訪れるという国民的人気の山。
TVに映し出される長い行列を見るたびに、
〈あんなに人で混雑している山に行って何が面白いんだろう〉
と思っていた。
だから、当然登ったことはなかったし、
これからも登るつもりはなかった。

その考えに変化が生じたのは、
数年前、
ある本を手にした時からだった。
その本とは、畠掘操八著『富士山・村山古道を歩く』(風濤社)。


村山古道とは、約1000年前(平安末期)に開かれた富士山最古の登山道で、
以来、900年ほどのあいだ利用されていたが、
1906年(明治39年)に大宮新道が切り開かれて、
村山古道の四合目(新六合目)で合流することになって以来、
約100年のあいだ廃道になったままだったという。

そのことを新聞記事で知った著者は、
村山古道を歩いてみたいという欲求に取り憑かれる。
資料を集め、登山仲間や地元有志に声をかけ、
その全ルート解明に取り組む。
藪漕ぎやビバークなどしながら、村山古道を探し回る。
そして、ついに村山浅間神社から新六合目に達するのである。

本書には、
田子の浦(海抜0メートル)から村山浅間神社を経て新六合目に至るルートを詳しく記してある。
著者は、
田子の浦から村山浅間神社までを「村山道」と呼び、
村山浅間神社から新六合目までを「村山古道」と使い分けている。
本書を読むと、いにしえ人の姿が目に浮かぶようであった。
海抜0メートルから登る富士山。
1000年の歴史がある道。
途中で水の補給も困難。
指導標もそれほど多くなく、ルートファインディングの力がないと難しいコース。
手垢のついてない素晴らしき山道。
〈このルートなら登ってみたい〉
と心底思った。

海抜0メートルからの登頂。
「SEA TO SUMMIT」
なんて魅力的な言葉だろう。
もうひとつ、
「ZERO TO ZERO」
という言葉もある。
「海抜0メートルから海抜0メートルへ」
これも同時に富士山で達成してみたい。
本書を読んでいて、夢はどんどんふくらんでいった。

往路は、田子の浦(海抜0メートル)を出発し、村山道、村山古道、富士宮ルートを歩いて、山頂へ。
お鉢巡りをした後、
復路は、御殿場ルートを使い、御殿場市まで下り、そこから沼津へ向かう。
最後は、千本浜(海抜0メートル)で登山靴を海水にひたす。


会社から得た夏休みは4日間(7月31日~8月3日)。
一日も無駄にはできないので、7月30日に仕事を終えた後に出発することにする。

7月30日(土)
19:26 特急かもめ42号で肥前山口発。
20:13 博多駅着。
新幹線ひかり582号に乗り換え。
20:33 博多駅発。
22:53 姫路駅に到着。
寝台特急サンライズ瀬戸に乗り換え。
7月31日(日)
5:09 富士駅に到着。
東海道本線・沼津行に乗り換え。
5:36 富士駅発。
5:40 吉原駅着。



5:55
吉原駅南口を出発。


6:08
田子の浦に到着。
浜は数千個の巨大なテトラポッドに覆われていた。
1個の高さは5m、重さ50トンとか。


どうやって登山靴を海水に浸そうかと思って近寄ってみると、


テトラポッドの隙間から海水が押し寄せていて、なんなく目的達成。
でも、干潮時は難しいかも……


6:16
田子の浦を出発。


6:23
ちょっと寄り道して、富士塚へ。
案内板に、
《ここに積み上げられた石は、むかし富士登山する人々が、登山の安全を祈って海水で水垢離(みずごり)をしたのち、海岸の石をひとつづつ置いていったものです》
とある。
昔の人が、田子の浦から出発していた証拠の場所といえるだろう。


踏切を横切り、吉原駅北口の前を通過し、河合橋を渡る。


6:51
河合橋を渡ってすぐところ辺りから、富士山が見えた。
今日の天気予報は「雨」だったし、富士山は見えないと思っていたので、嬉しい。


距離感が判断できなくなるので、なるべくカメラのズームは使わないようにしているが、ここはズームアップ。


富士山の麓にある街らしい風景。



7:05
名勝「左富士」を通過。
東海道を東から西に行くとき、富士山は右手に見えるのだが、この辺りは左手に見えることから「左富士」と呼ばれていたとか。


7:15
夜半、水鳥の羽音に驚いて平家軍が潰走し、頼朝が起死回生の大勝利を得たとされる歴史的な場所「平家越」の石碑前を通過。


自販機で水「富士山天然水」を購入。
ザックには予備用として2リットルの水を入れているが、行動中に飲む水は、自販機がある場所ではそのつど購入して飲んだ。


道をまっすぐ進めば近道なのだが、あえて遠回りするように旧吉原宿を歩く。


8:44
広見公園にさしかかる。


ここは複雑な三重立体交差になっているので、要注意。
公園内の地下道をくぐり、左に向かい、公園から出る。
GPS軌跡を見てもらえば、面白い動きをしているのが分かってもらえると思う。


9:14
石に彫られた道しるべに出合う。
富士山の絵と、「左」の文字が目立つ。
この村山道には、現在7基の道しるべが残っているという。
その一番目がこれ。


「東 三ツ倉
 左 むら山道」
と陰刻してある。
昔の道しるべに出合うとなんだか嬉しくなる。


茶畑の中に家々が点在する。
静岡らしい風景。


9:35
釈迦堂に到着。
ここで、しばし休憩。
雨が降るどころか太陽の光がキツイ。
グッタリとなる。


9:43
釈迦堂を出発。


出発前の数日間はトラブル続きで睡眠不足だった。
昨日は、出発間際まで仕事をしていたので、今日はけっこうキツイ。
でも歩いていれば、それだけで私は幸せなのだ。
歩ける幸せをかみしめながら、一歩一歩、歩いていく。


9:51
二番目の道しるべ前を通過。


9:56
このルート最後のコンビニに到着。
(コンビニではない普通の店が村山浅間神社の前に1軒だけある。ただし商品は少ない)
ここでおにぎりや調理パンなど食料を購入。
自販機はこの先にもあるので、水の確保は心配ない。


10:13
三番目の道しるべ前を通過。


10:19
このルート最後の食べ物屋さん。
何か食べようかと思ったが、まだ開店していなかった。


10:28
四番目の道しるべ前を通過。


10:43
五番目の道しるべ前を通過。


昔は、この道しるべがあるだけで、随分心強かったことであろうと思われる。


11:03
右手に石碑群を見ながら右折。


今日の目的地・村山浅間神社が近くなってきた。


11:09
突然、雨が降り出してきた。
ザックカバーをし、傘を差して歩き出す。
これまで暑かったので、私にとっては恵みの雨。


11:13
この分岐は左へ。


11:23
六番目の道しるべが見えてきた。
コンクリートの側壁にレリーフのように道しるべがはめこんである。
発見された道しるべを無造作に側壁にはめこんだ感じで、ちょっと雑な印象。
でも、捨てられたり、破壊された道しるべに比べれば、まだマシと言えるかもしれない。


11:29
この分岐を左へ。
実は、この分岐のちょうど真ん中に、七番目の道しるべがある。
中央に見える石碑がそれ。


11:45
村山浅間神社に到着。
吉原駅から6時間弱。
田子の浦からだと5時間半。
この田子の浦から村山浅間神社のあいだは、約7時間のコースタイムと言われているので、ちょっと早く着いた感じ。
ゆっくり歩いたつもりだったが、ついつい速歩になっていたかもしれない。


境内には、県指定の天然記念物「村山浅間神社の大スギ」があった。
樹高47メートル。
目通り9.9メートル。
樹齢1000年。
約1000年前(平安末期)に開かれた登山道の傍にある樹齢1000年の大スギ。
村山古道を歩く登山者を1000年のあいだずっと見続けてきたに違いない。


早くに着いたので、この先に進むという考えも浮かんだが、
この先には、本当になにもない。
人家も、水を補給できるところもないと本に書いてあった。
村山浅間神社から新六合目までは、約10時間の行程。
明日の早朝に出発し、昼下がりに新六合目に着くのが最善と思われる。
雨脚も強くなってきた。


村山浅間神社内の社務所のような建物の裏に、野宿できそうな場所を発見。
今夜はここで野宿することに決める。


ふとザックを見ると、ショルダーハーネスとショルダーストラップの繋ぎ目が切れかかっている。


もうビックリ。
首の皮一枚で繋がっている感じ。
オスプレーって、こんなにチャチだったのか?
ちょっとガッカリ。
応急処置として、ショルダーストラップの余っている部分を引っ張り上げて、ショルダーハーネスに結びつけた。
これで最後までもたせなくては……

村山に唯一ある店「山本商店」に買い出しに行く。
おにぎりや弁当などのご飯ものはなく、
バナナやスナック菓子などを買う。


野宿場所に戻り、それらを食べ、早々に横になる。
持ってきたのはシュラフカバーのみ。
夏ならこれで十分。
非常用として『Green Walk』誌でお馴染みの世界最軽量ピコ・シェルター「カブル」も持ってきているので、寒くなったらそれも身に纏うことにしよう。
久しぶりの野宿。
昨日の今頃はまだ仕事をしていた。
あれからそれほど時間は経過していないのに、
今はこうして富士山の麓で雨音を聴きながら野宿をしている。
不思議な感覚だった。
ケータイでパソコンにきたメッセージをチェックしていたら、
関西の若い女性からブログへの感想が届いていた。
この方からメッセージを頂くのは二度目で、本当に有り難い言葉が書いてあった。
私のブログの愛読者には、登山をしない人も少なからずおられるようだ。
様々な理由で、できない人も……
登山はしないけれど、私のブログで山歩きをした気分を味わっておられるとのこと。
今回は、海抜0メートルからの富士山登頂。
たっぷり楽しんでもらいたいと思う。
田子の浦から歩いて、
村山浅間神社で野宿して、
明日は、どんなことが待っているのだろうか?
あっ、そろそろ寝る時間だ。
では、また明日……
海抜0メートルから登る富士山② ……村山浅間神社から新六合目まで……(←クリック)

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