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※PCでご覧の方で、文字が小さく感じられる方は、左サイドバーの「文字サイズ変更」の「大」をクリックしてお読み下さい。
※ネタバレしています。
本作『ジョーカー』は、
「バットマン」の悪役として広く知られるジョーカーの誕生秘話を、
トッド・フィリップス監督が、
ホアキン・フェニックス主演で撮った作品である。
第79回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、
DCコミックスの映画化作品としては史上初めて最高賞の金獅子賞を受賞した作品で、
10月4日に日米同時公開後も、鑑賞者たちからは絶賛の嵐が続いており、
アカデミー賞の主演男優賞を始め、各部門でのノミネートも確実視されている。
〈それならば見ておかなければならないだろう……〉
と、仕事帰りに映画館へ向かったのだった。
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財政難に陥り、人心の荒むゴッサムシティ。
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そこに住む大道芸人のアーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)は、
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母・ペニー(フランセス・コンロイ)の介護をしながら、
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街頭でピエロの格好をして宣伝用の看板を持つという仕事をしていた。
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母から、常日頃、
「どんなときも笑顔で人々を楽しませなさい」
と言われ、
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努力はしているが、
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発作的に笑い出すという病気を患っていたので、
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自身もまた福祉センターでカウンセリングを受けながら毎日を過ごしていた。
同じアパートの住人・ソフィー(ザジー・ビーツ)にひそかに思いを寄せており、
彼女の姿を見ると心がなごんだ。
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アーサーはコメディアンを目指していたが、なかなか機会に恵まれず、
それどころか、仕事中に不良少年たちに看板を奪われ、追いかけると、路地裏で暴力を受け、
看板も壊されてしまった。
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なのに、看板を壊した責任を押し付けられなど、報われない人生を送っていた。
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ある日アーサーは、
大道芸人の派遣会社での同僚・ランダル(グレン・フレシュラー)から、
護身用にと拳銃を借り受ける。
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だが、小児病棟での仕事中にそれを落としてしまったことが原因で、会社を解雇される。
その帰り、
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アーサーは女性に絡んでいたウェイン産業の証券マンたちに暴行され、
発作的に彼らを拳銃で射殺してしまう。
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現場から逃走したアーサーは、言い知れぬ高揚感に満たされる。
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しばらくすると、
この事件は貧困層から富裕層への復讐として社会的に認知され、
ゴッサムの街では、犯行当時のアーサーのメイクにインスパイアされたピエロの格好でのデモ活動が活発化していくことになる。
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一方で市の財政難により社会福祉プログラムが削減されてしまい、
アーサーはカウンセリングを受けることができなくなってしまう。
コメディアンが夜毎ショーを行うバーで、
初めてコメディアンとして人前に出たアーサーは、
発作で笑いだしながらも、なんとかショーをやり遂げる。
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その晩、自宅へ戻ったアーサーは、
母がかつて家政婦として雇われていた実業家トーマス・ウェインへ宛てた手紙を読み、
自分がトーマスの隠し子であることを知る。
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真実を確かめにウェイン邸へ赴いたアーサーだが、
トーマスの息子・ブルースと執事のアルフレッドには会うことができたものの、
トーマス本人には会えなかった。
失意のまま自宅へ戻ると、
証券マンたちの殺人事件で調査に来た警察の訪問に驚いたペニーが脳卒中を起こし、
救急車で運ばれるところだった。
アーサーは、刑事たちの詰問をかわし、ペニーに付き添い病院へ向かう。
母が入院した病室でアーサーがテレビを観ていると、
マレー・フランクリン(ロバート・デ・ニーロ)が司会をする番組の中で、
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先日アーサーがバーで行なったショーの映像が流された。
番組の中で「ジョーカー」と紹介されたアーサーは、
自らの意図しないところで、一気に有名人となる。
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アーサーはデモ活動が門前で起こるウェイン・ホールに侵入し、
トーマス(ブレット・カレン)と対面する。
トーマスは、ペニーの手紙はすべて出鱈目だと言い切り、
アーサーはペニーの実子ではなく養子だと告げる。
アーサーは州立病院へ行き、ペニーの診断書を閲覧する。
そこには確かに、
ペニーが精神障害を患っていること、
アーサーが養子であること、
自身の障害はペニーの恋人による虐待によるものなどを示す書類が挟まれていた。
最後に信じていた母親からも裏切られたことを知ったアーサーは、
病室のペニーの顔に枕を押し付け、窒息死させる。
マレーの番組担当者から、次のゲストとしての出演を依頼されたアーサーは、
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フランクリン・ショーの生放送中に、
「証券マンたちを殺したのは自分だ」
と告白し、さらに、
「マレーが自分をテレビに出したのは笑いものにするためだ」
と主張し、
隠し持っていた拳銃でマレーを射殺する。
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駆け付けた警察に逮捕されるが、
アーサーの凶行が生放送されたゴッサムシティはデモが暴動と化し、
街のあちこちで火の手が上がる。
アーサーを護送していたパトカーに救急車がつっこみ、
アーサーは暴徒によって救出される。
意識を取り戻したアーサーは、パトカーのボンネットの上に立ち上がり、
口から出た血で裂けた口のようなメイクをして、
踊るように暴徒たちを見下ろす。
ここにジョーカーが誕生したのだった……
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ネタバレ気味に長々とストーリーを紹介したが、
アーサーがなぜジョーカーとなったのか、
少しは理解していただけただろうか?
ジョーカーになる前のアーサーは、
どこにでもいる普通の男である。
母を介護しながらコメディアンになることを夢見ている、
どちらかというと心優しい男なのである。
映画の前半は、そのアーサーの日常生活が淡々と描かれる。
〈どこが衝撃作なのだ!〉
と言いたくなるほどに……
だから、そのアーサーが、理不尽な暴力を受けたり、仕事をクビになったりすると、
映画を見ている観客は、アーサーに同情し、感情移入してしまう。
だから後半に次第に凶暴化していくアーサーに、
どこか爽快感さえ感じてしまう。
ウェイン産業の証券マンたちを発作的に拳銃で射殺したシーンも、
〈当然の報いだ。あの暴力をふるった不良少年たちにも仕返ししろよ!〉
などと思ってしまう。
ここに、この映画の危険性がある。
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「バットマン」の悪役として広く知られるジョーカーは、
これまで、ジャック・ニコルソンなどが演じてきたが、
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ジョーカーの白眉は、やはり、
クリストファー・ノーラン監督の傑作『ダークナイト』(2008)での、
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ヒース・レジャーであろう。
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だから、本作『ジョーカー』を見る前は、
『ダークナイト』のジョーカーがどのようにして誕生したのか……を描いているものと勝手に思っていた。
ヒース・レジャーが演じるジョーカーは、
まったく人間味の無いサタンであった。
とにかく人間(&バットマン)に敵対するものとして描かれている。
感情移入などできないし、最初から“悪”と捉えることができる。
だから観客は(言い方はオカシイが)安心して“悪”を楽しむことができるのだ。
ところが本作『ジョーカー』でのジョーカーは、
最初は人間味のある心優しい男なのである。
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それが社会の理不尽により次第に変貌していく。
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観客は感情移入してしまうし、
暴力でさえ正当化してしまいそうな感情に襲われる。
だから、『ジョーカー』と『ダークナイト』のジョーカーは別モノであるし、
関連性はない。
『ジョーカー』でのジョーカーには、
人間からジョーカーへ変貌した“理由”があるし、
その“理由”に、見る者は、共感はしないまでも同情してしまう恐れがある。
アーサーと似たような境遇の人はたくさんいるだろうし、
アーサーと同じように社会に不満を抱いている人も多いことと思う。
だからこそアーサーに感情移入し、
アーサーと同じような行動をしたくなる人も出てくるかもしれない。
アーサーが殺人を犯した後に、ゴッサムの街では、
この事件が貧困層から富裕層への復讐として社会的に認知され、
犯行当時のアーサーのメイクにインスパイアされたピエロの格好でのデモ活動が活発化していく。
そして、アーサーが生放送中にマレーを射殺した後には街で暴動が起き、
アーサーを英雄として讃えるようになる。
貧富の差が激しい現代社会を反映した設定になっているし、
無差別テロリストであるジョーカーに感情移入しやすい作品になっているのだ。
傑作と認めつつも、
割り切れないものを感じてしまう作品なのである。
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本作『ジョーカー』で、
ゴッサムシティの実業家・トーマス・ウェインの家で、
アーサーの母はかつて家政婦として働いたことがあり、
アーサーがトーマスの隠し子との疑いが生じたりするのだが、(後に養子であることが判明)
真実を確かめにウェイン邸へ赴いたアーサーが、
トーマスの息子・ブルースと会うシーンがある。
邸宅の門と思しき格子を挟んで、少年の口に指を押し込み、
ジョーカーの様な笑みを強いるシーンがあるのだが、
実は、この息子・ブルースが、後のバットマンになるのである。
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映画の後半、
トーマス一家は、暴動を避けるために犯罪横丁とよばれる裏道へ逃げるが、
それを観ていた暴徒によりトーマスと妻のマーサと共々射殺され、
息子のブルースだけが生き残る。
ブルースがバットマンという説明はないので、
このことはネタバレであっても知っておいた方がイイだろう。
本作『ジョーカー』は、
『タクシードライバー』(1976年) と、
『キング・オブ・コメディ』(1983年) に影響を受けて製作されており、
トッド・フィリップス監督は両作品の大ファンであることも公言しているが、
両作に主演しているロバート・デ・ニーロが『ジョーカー』に出演しているのも、
両作のファンやロバート・デ・ニーロのファンには嬉しいところ。
比較しながら見ると、楽しみも倍加するだろう。
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今回のレビューは、
……ジョーカーに感情移入してしまう危険性を孕んだ傑作……
というサブタイトルにしたが、
本当は、(長くなるのでスペースの関係で諦めたのだが)
……無差別テロリストであるジョーカーに“感情移入し正当化してしまう”危険性を孕んだ傑作……
と、したかった。
傑作とは思ったが、
何度も見たいとは思わなかった。
(正直に告白すると)あまり好きな映画ではなかったのだ。
そういう映画もたまにはある。
機会がありましたら、ぜひぜひ。
※ネタバレしています。
本作『ジョーカー』は、
「バットマン」の悪役として広く知られるジョーカーの誕生秘話を、
トッド・フィリップス監督が、
ホアキン・フェニックス主演で撮った作品である。
第79回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、
DCコミックスの映画化作品としては史上初めて最高賞の金獅子賞を受賞した作品で、
10月4日に日米同時公開後も、鑑賞者たちからは絶賛の嵐が続いており、
アカデミー賞の主演男優賞を始め、各部門でのノミネートも確実視されている。
〈それならば見ておかなければならないだろう……〉
と、仕事帰りに映画館へ向かったのだった。
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財政難に陥り、人心の荒むゴッサムシティ。
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そこに住む大道芸人のアーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)は、
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母・ペニー(フランセス・コンロイ)の介護をしながら、
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街頭でピエロの格好をして宣伝用の看板を持つという仕事をしていた。
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母から、常日頃、
「どんなときも笑顔で人々を楽しませなさい」
と言われ、
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努力はしているが、
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発作的に笑い出すという病気を患っていたので、
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自身もまた福祉センターでカウンセリングを受けながら毎日を過ごしていた。
同じアパートの住人・ソフィー(ザジー・ビーツ)にひそかに思いを寄せており、
彼女の姿を見ると心がなごんだ。
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アーサーはコメディアンを目指していたが、なかなか機会に恵まれず、
それどころか、仕事中に不良少年たちに看板を奪われ、追いかけると、路地裏で暴力を受け、
看板も壊されてしまった。
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なのに、看板を壊した責任を押し付けられなど、報われない人生を送っていた。
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ある日アーサーは、
大道芸人の派遣会社での同僚・ランダル(グレン・フレシュラー)から、
護身用にと拳銃を借り受ける。
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だが、小児病棟での仕事中にそれを落としてしまったことが原因で、会社を解雇される。
その帰り、
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アーサーは女性に絡んでいたウェイン産業の証券マンたちに暴行され、
発作的に彼らを拳銃で射殺してしまう。
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現場から逃走したアーサーは、言い知れぬ高揚感に満たされる。
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しばらくすると、
この事件は貧困層から富裕層への復讐として社会的に認知され、
ゴッサムの街では、犯行当時のアーサーのメイクにインスパイアされたピエロの格好でのデモ活動が活発化していくことになる。
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一方で市の財政難により社会福祉プログラムが削減されてしまい、
アーサーはカウンセリングを受けることができなくなってしまう。
コメディアンが夜毎ショーを行うバーで、
初めてコメディアンとして人前に出たアーサーは、
発作で笑いだしながらも、なんとかショーをやり遂げる。
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その晩、自宅へ戻ったアーサーは、
母がかつて家政婦として雇われていた実業家トーマス・ウェインへ宛てた手紙を読み、
自分がトーマスの隠し子であることを知る。
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真実を確かめにウェイン邸へ赴いたアーサーだが、
トーマスの息子・ブルースと執事のアルフレッドには会うことができたものの、
トーマス本人には会えなかった。
失意のまま自宅へ戻ると、
証券マンたちの殺人事件で調査に来た警察の訪問に驚いたペニーが脳卒中を起こし、
救急車で運ばれるところだった。
アーサーは、刑事たちの詰問をかわし、ペニーに付き添い病院へ向かう。
母が入院した病室でアーサーがテレビを観ていると、
マレー・フランクリン(ロバート・デ・ニーロ)が司会をする番組の中で、
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先日アーサーがバーで行なったショーの映像が流された。
番組の中で「ジョーカー」と紹介されたアーサーは、
自らの意図しないところで、一気に有名人となる。
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アーサーはデモ活動が門前で起こるウェイン・ホールに侵入し、
トーマス(ブレット・カレン)と対面する。
トーマスは、ペニーの手紙はすべて出鱈目だと言い切り、
アーサーはペニーの実子ではなく養子だと告げる。
アーサーは州立病院へ行き、ペニーの診断書を閲覧する。
そこには確かに、
ペニーが精神障害を患っていること、
アーサーが養子であること、
自身の障害はペニーの恋人による虐待によるものなどを示す書類が挟まれていた。
最後に信じていた母親からも裏切られたことを知ったアーサーは、
病室のペニーの顔に枕を押し付け、窒息死させる。
マレーの番組担当者から、次のゲストとしての出演を依頼されたアーサーは、
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フランクリン・ショーの生放送中に、
「証券マンたちを殺したのは自分だ」
と告白し、さらに、
「マレーが自分をテレビに出したのは笑いものにするためだ」
と主張し、
隠し持っていた拳銃でマレーを射殺する。
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駆け付けた警察に逮捕されるが、
アーサーの凶行が生放送されたゴッサムシティはデモが暴動と化し、
街のあちこちで火の手が上がる。
アーサーを護送していたパトカーに救急車がつっこみ、
アーサーは暴徒によって救出される。
意識を取り戻したアーサーは、パトカーのボンネットの上に立ち上がり、
口から出た血で裂けた口のようなメイクをして、
踊るように暴徒たちを見下ろす。
ここにジョーカーが誕生したのだった……
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ネタバレ気味に長々とストーリーを紹介したが、
アーサーがなぜジョーカーとなったのか、
少しは理解していただけただろうか?
ジョーカーになる前のアーサーは、
どこにでもいる普通の男である。
母を介護しながらコメディアンになることを夢見ている、
どちらかというと心優しい男なのである。
映画の前半は、そのアーサーの日常生活が淡々と描かれる。
〈どこが衝撃作なのだ!〉
と言いたくなるほどに……
だから、そのアーサーが、理不尽な暴力を受けたり、仕事をクビになったりすると、
映画を見ている観客は、アーサーに同情し、感情移入してしまう。
だから後半に次第に凶暴化していくアーサーに、
どこか爽快感さえ感じてしまう。
ウェイン産業の証券マンたちを発作的に拳銃で射殺したシーンも、
〈当然の報いだ。あの暴力をふるった不良少年たちにも仕返ししろよ!〉
などと思ってしまう。
ここに、この映画の危険性がある。
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「バットマン」の悪役として広く知られるジョーカーは、
これまで、ジャック・ニコルソンなどが演じてきたが、
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ジョーカーの白眉は、やはり、
クリストファー・ノーラン監督の傑作『ダークナイト』(2008)での、
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ヒース・レジャーであろう。
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だから、本作『ジョーカー』を見る前は、
『ダークナイト』のジョーカーがどのようにして誕生したのか……を描いているものと勝手に思っていた。
ヒース・レジャーが演じるジョーカーは、
まったく人間味の無いサタンであった。
とにかく人間(&バットマン)に敵対するものとして描かれている。
感情移入などできないし、最初から“悪”と捉えることができる。
だから観客は(言い方はオカシイが)安心して“悪”を楽しむことができるのだ。
ところが本作『ジョーカー』でのジョーカーは、
最初は人間味のある心優しい男なのである。
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それが社会の理不尽により次第に変貌していく。
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観客は感情移入してしまうし、
暴力でさえ正当化してしまいそうな感情に襲われる。
だから、『ジョーカー』と『ダークナイト』のジョーカーは別モノであるし、
関連性はない。
『ジョーカー』でのジョーカーには、
人間からジョーカーへ変貌した“理由”があるし、
その“理由”に、見る者は、共感はしないまでも同情してしまう恐れがある。
アーサーと似たような境遇の人はたくさんいるだろうし、
アーサーと同じように社会に不満を抱いている人も多いことと思う。
だからこそアーサーに感情移入し、
アーサーと同じような行動をしたくなる人も出てくるかもしれない。
アーサーが殺人を犯した後に、ゴッサムの街では、
この事件が貧困層から富裕層への復讐として社会的に認知され、
犯行当時のアーサーのメイクにインスパイアされたピエロの格好でのデモ活動が活発化していく。
そして、アーサーが生放送中にマレーを射殺した後には街で暴動が起き、
アーサーを英雄として讃えるようになる。
貧富の差が激しい現代社会を反映した設定になっているし、
無差別テロリストであるジョーカーに感情移入しやすい作品になっているのだ。
傑作と認めつつも、
割り切れないものを感じてしまう作品なのである。
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本作『ジョーカー』で、
ゴッサムシティの実業家・トーマス・ウェインの家で、
アーサーの母はかつて家政婦として働いたことがあり、
アーサーがトーマスの隠し子との疑いが生じたりするのだが、(後に養子であることが判明)
真実を確かめにウェイン邸へ赴いたアーサーが、
トーマスの息子・ブルースと会うシーンがある。
邸宅の門と思しき格子を挟んで、少年の口に指を押し込み、
ジョーカーの様な笑みを強いるシーンがあるのだが、
実は、この息子・ブルースが、後のバットマンになるのである。
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映画の後半、
トーマス一家は、暴動を避けるために犯罪横丁とよばれる裏道へ逃げるが、
それを観ていた暴徒によりトーマスと妻のマーサと共々射殺され、
息子のブルースだけが生き残る。
ブルースがバットマンという説明はないので、
このことはネタバレであっても知っておいた方がイイだろう。
本作『ジョーカー』は、
『タクシードライバー』(1976年) と、
『キング・オブ・コメディ』(1983年) に影響を受けて製作されており、
トッド・フィリップス監督は両作品の大ファンであることも公言しているが、
両作に主演しているロバート・デ・ニーロが『ジョーカー』に出演しているのも、
両作のファンやロバート・デ・ニーロのファンには嬉しいところ。
比較しながら見ると、楽しみも倍加するだろう。
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今回のレビューは、
……ジョーカーに感情移入してしまう危険性を孕んだ傑作……
というサブタイトルにしたが、
本当は、(長くなるのでスペースの関係で諦めたのだが)
……無差別テロリストであるジョーカーに“感情移入し正当化してしまう”危険性を孕んだ傑作……
と、したかった。
傑作とは思ったが、
何度も見たいとは思わなかった。
(正直に告白すると)あまり好きな映画ではなかったのだ。
そういう映画もたまにはある。
機会がありましたら、ぜひぜひ。