百年に一人の逸材と称されたアジア屈指の韓国人オペラ歌手が、
甲状腺がんに倒れ、突然声を失いながらも、
音楽プロデューサーである日本人の親友の献身的な助けを受けながら、
奇跡的に美声を取り戻す……
そんなTVドキュメンタリーを5~6年前に観た。
それは、
2008年2月8日に放送された、
NHKプレミアム10「あの歌声を再び~テノール歌手ベー・チェチョルの挑戦~」
という番組だったかと思うが、
もしかすると、
2009年10月28日にフジテレビで放送された、
「奇跡体験アンビリバボー!」という番組だったかもしれない。
年の所為か記憶があやふやだが、(笑)
とにかく、どちらかの番組で、
ベー・チェチョルというテノール歌手を知った。
天才歌手が声を失い絶望の淵へ落とされながらも、
周囲の人々の応援を得て、必死に這い上がる姿に、
とても感動したのを憶えている。
10月11日(土)公開の映画『ザ・テノール 真実の物語』が、
そのベー・チェチョルというテノール歌手の奇跡の復活の物語とのことなので、
見たいと思っていた。
そして、公開されてすぐ、映画館へ駆けつけた。
まず、はじめに、
主人公のモデルとなったベー・チェチョルとはどういう人物なのか、
簡単に紹介しておこう。
1969年韓国生まれ。
漢陽大学を卒業後、イタリアのヴェルディ音楽院を主席で卒業。
1998年、ハンガリー国立歌劇場にてデビュー後、
ヨーロッパの名門オペラハウスでソリストとして活躍。
世界的にも貴重な「リリコ・スピント」の声質を持ち、
本場各地でも大きな成功を収める。
日本では、
2003年9月オーチャードホール公演「イル・トロヴァトーレ」でデビューを飾った。
2005年、甲状腺癌に倒れ、
その摘出手術の際、声帯と横隔膜の両神経を切断。
歌声に加え、右側の肺の機能を失う。
しかし、多くのファンの支援のもと、
2006年、京都大学名誉教授・一色信彦医師による甲状軟骨形成手術を受ける。
厳しいリハビリの日々を経て、2008年より教会などでの演奏を再開。
奇跡とも言える復帰を遂げる。
映画『ザ・テノール 真実の物語』は、
このベー・チェチョルと、
彼の親友である日本人の音楽プロデューサーの物語である。
ベー・チェチョルを演じるのは、ユ・ジテ。
1976年4月13日、韓国のソウル生まれ。
主な映画出演作に、
『リベラメ』(2000年)、
『春の日は過ぎゆく』(2001)、
『オールド・ボーイ』(2003)、
『南極日記』(2005)、
『ミッドナイトFM』(2010)などがあり、
日本映画『人類資金』(2013)にも出演している実力派。
数々の映画賞を受賞しており、監督としても注目を集めている。
映画『ザ・テノール 真実の物語』でベー・チェチョルを演じるにあたって、
まず自ら提案し、先生の元でレッスンを受け、トレーニングを積み、
音楽家の発声法を一から学んだとか。
もちろん歌声はベー・チェチョルなのだが、
ベー・チェチョルの音源を繰り返し聞きながら、
発声や発音そして息遣いまでも自分の体にたたきこんだそうだ。
その努力もあって、歌唱シーンはとても素晴らしかった。
だが、その歌唱シーン以上に素晴らしかったのは、
声を失ってからの演技。
どん底の時期を経て、以前よりも輝きを増していく演技は秀逸。
ぜひ映画館で見てほしいと思う。
音楽プロデューサー・沢田幸司を演じた伊勢谷友介。
1976年5月29日、東京生まれ。
東京藝術大学でデザインを学ぶかたわらモデルとして活動。
1998年に『ワンダフルライフ』で映画デビュー。
主な出演作は
『金髪の草原』(2000年)、
『CASSHERN』(2004年)、
『雪に願うこと』(2006年)、
『十三人の刺客』(2010年)、
『あしたのジョー』(2011年)
『カイジ2』(2011年)、
『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(2014年)など。
3ヶ月に及ぶトレーニングで減量して役作りに挑んだ、
『あしたのジョー』(←クリック)の力石徹役は素晴らしく、
このブログでも絶賛したが、
この演技により、第35回日本アカデミー賞・優秀助演男優賞を受賞。
映画監督も務め、これまで、
『カクト』(2003年)、
『セイジ —陸の魚—』(2013年)を手掛ける。
2015年のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」に吉田松陰役での出演も決定している。
ユ・ジテとは同い年で、
監督経験があることも共通しており、
とても仲が良いそうだ。
伊勢谷が演じた音楽プロデューサー・沢田幸司は、
輪島東太郎という実在の人物で、
彼と撮影現場でも何度も会って、彼のもつ「熱さ」を演技に込めたとか。
クールな彼を見ることが多いので、この映画での彼は新鮮であった。
沢田のアシスタントの美咲を演じた北乃きい。
1991年3月15日、神奈川県の生まれ。
モデルとしてキャリアをスタートさせ、
2005年に史上最年少でミスマガジン・グランプリを受賞。
初めて主役を務めた『幸福な食卓』(2007年)で映画デビュー。
同作にて日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞する。
主な出演作は
『ラブファイト』(2008年)、
『ハルフウェイ』(2009年)、
『武士道シックスティーン』(2010年)、
『爆心 長崎の空』『上京ものがたり』『ヨコハマ物語』(2013年)、
『僕は友達が少ない』(2014年)など。
2010年には「サクラサク」で歌手デビューを飾り、
女優業と並行して音楽活動も行なっている。
映画『ザ・テノール 真実の物語』の中でも、
ギターの弾き語りで歌うシーンがあるのだが、
これがビックリするくらい良かった。
歌うのは、ヘンデル作曲の傑作歌劇「リナルド」の最も有名なアリア
「私を泣かせてください」のギターアレンジバージョン。
まるでチェチョルの運命を憐れむように歌い上げ、観ている人を魅了する。
ややもすれば暗く深刻になりがちな題材の映画の中で、
唯一、光のような存在の役であったのだが、
この歌唱シーンが、それを象徴していたように思った。
チェチョルの妻・ユニを演じたチャ・イェリョン。
1985年7月16日、韓国・ソウルに生まれる。
モデルとしてキャリアをスタートさせ、『女高怪談』(2005年)で映画デビュー。
以降、『殴打誘発者たち』(2006年)、『ムイ』(2007年)などサスペンス要素の強い作品に出演し、
その美貌から「ホラークィーン」と呼ばれるようになる。
2007年以降はTVドラマにも進出。
『BAD LOVE~愛に溺れて~』(2007)では一人二役を演じるなど演技の幅を広げた。
主な出演作は、『特別市の人々』(2008年)、『第七鉱区』(2011年)、『マイ・ブラック・ミニドレス』(2011年)、『プランマン』(2013年)、『女優はひどい』(2014年)など。
出演作に日本未公開の作品が多いので、
私はこの女優のことは知らなかったのだが、
演技がとても上手くて、素晴らしかった。
写真で見ると、キツイ顔つきに見えるが、
映像では優しい表情が印象的だった。
彼女の他の作品も見てみたいと思った。
この作品は、登場人物の心情を、
その時々のオペラの歌詞で表現していた。
声を失った主人公の悲嘆、慟哭を、オペラ「オテロ」で、
復活した奇跡の歌声を「アメイジング・グレイス」で……というように。
オペラと物語が融合し、
オペラを縁遠く感じている人にも、
親しみやすい作品となっているのだ。
しかも、
日本ではあまり知られていない、
競争・嫉妬・過酷な嫌がらせが渦巻くオペラ界の裏側も描いているので、
興味津々で最後まで見ることができた。
現在、冷えに冷え切っている日韓関係だが、
音楽を含めた芸術、文化、友情、愛は、
利害も国境も軽々と超えてしまう。
そして、なによりも、この映画は、真実の物語なのだ。
映画館で、ぜひぜひ……
甲状腺がんに倒れ、突然声を失いながらも、
音楽プロデューサーである日本人の親友の献身的な助けを受けながら、
奇跡的に美声を取り戻す……
そんなTVドキュメンタリーを5~6年前に観た。
それは、
2008年2月8日に放送された、
NHKプレミアム10「あの歌声を再び~テノール歌手ベー・チェチョルの挑戦~」
という番組だったかと思うが、
もしかすると、
2009年10月28日にフジテレビで放送された、
「奇跡体験アンビリバボー!」という番組だったかもしれない。
年の所為か記憶があやふやだが、(笑)
とにかく、どちらかの番組で、
ベー・チェチョルというテノール歌手を知った。
天才歌手が声を失い絶望の淵へ落とされながらも、
周囲の人々の応援を得て、必死に這い上がる姿に、
とても感動したのを憶えている。
10月11日(土)公開の映画『ザ・テノール 真実の物語』が、
そのベー・チェチョルというテノール歌手の奇跡の復活の物語とのことなので、
見たいと思っていた。
そして、公開されてすぐ、映画館へ駆けつけた。
まず、はじめに、
主人公のモデルとなったベー・チェチョルとはどういう人物なのか、
簡単に紹介しておこう。
1969年韓国生まれ。
漢陽大学を卒業後、イタリアのヴェルディ音楽院を主席で卒業。
1998年、ハンガリー国立歌劇場にてデビュー後、
ヨーロッパの名門オペラハウスでソリストとして活躍。
世界的にも貴重な「リリコ・スピント」の声質を持ち、
本場各地でも大きな成功を収める。
日本では、
2003年9月オーチャードホール公演「イル・トロヴァトーレ」でデビューを飾った。
2005年、甲状腺癌に倒れ、
その摘出手術の際、声帯と横隔膜の両神経を切断。
歌声に加え、右側の肺の機能を失う。
しかし、多くのファンの支援のもと、
2006年、京都大学名誉教授・一色信彦医師による甲状軟骨形成手術を受ける。
厳しいリハビリの日々を経て、2008年より教会などでの演奏を再開。
奇跡とも言える復帰を遂げる。
映画『ザ・テノール 真実の物語』は、
このベー・チェチョルと、
彼の親友である日本人の音楽プロデューサーの物語である。
ベー・チェチョルを演じるのは、ユ・ジテ。
1976年4月13日、韓国のソウル生まれ。
主な映画出演作に、
『リベラメ』(2000年)、
『春の日は過ぎゆく』(2001)、
『オールド・ボーイ』(2003)、
『南極日記』(2005)、
『ミッドナイトFM』(2010)などがあり、
日本映画『人類資金』(2013)にも出演している実力派。
数々の映画賞を受賞しており、監督としても注目を集めている。
映画『ザ・テノール 真実の物語』でベー・チェチョルを演じるにあたって、
まず自ら提案し、先生の元でレッスンを受け、トレーニングを積み、
音楽家の発声法を一から学んだとか。
もちろん歌声はベー・チェチョルなのだが、
ベー・チェチョルの音源を繰り返し聞きながら、
発声や発音そして息遣いまでも自分の体にたたきこんだそうだ。
その努力もあって、歌唱シーンはとても素晴らしかった。
だが、その歌唱シーン以上に素晴らしかったのは、
声を失ってからの演技。
どん底の時期を経て、以前よりも輝きを増していく演技は秀逸。
ぜひ映画館で見てほしいと思う。
音楽プロデューサー・沢田幸司を演じた伊勢谷友介。
1976年5月29日、東京生まれ。
東京藝術大学でデザインを学ぶかたわらモデルとして活動。
1998年に『ワンダフルライフ』で映画デビュー。
主な出演作は
『金髪の草原』(2000年)、
『CASSHERN』(2004年)、
『雪に願うこと』(2006年)、
『十三人の刺客』(2010年)、
『あしたのジョー』(2011年)
『カイジ2』(2011年)、
『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(2014年)など。
3ヶ月に及ぶトレーニングで減量して役作りに挑んだ、
『あしたのジョー』(←クリック)の力石徹役は素晴らしく、
このブログでも絶賛したが、
この演技により、第35回日本アカデミー賞・優秀助演男優賞を受賞。
映画監督も務め、これまで、
『カクト』(2003年)、
『セイジ —陸の魚—』(2013年)を手掛ける。
2015年のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」に吉田松陰役での出演も決定している。
ユ・ジテとは同い年で、
監督経験があることも共通しており、
とても仲が良いそうだ。
伊勢谷が演じた音楽プロデューサー・沢田幸司は、
輪島東太郎という実在の人物で、
彼と撮影現場でも何度も会って、彼のもつ「熱さ」を演技に込めたとか。
クールな彼を見ることが多いので、この映画での彼は新鮮であった。
沢田のアシスタントの美咲を演じた北乃きい。
1991年3月15日、神奈川県の生まれ。
モデルとしてキャリアをスタートさせ、
2005年に史上最年少でミスマガジン・グランプリを受賞。
初めて主役を務めた『幸福な食卓』(2007年)で映画デビュー。
同作にて日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞する。
主な出演作は
『ラブファイト』(2008年)、
『ハルフウェイ』(2009年)、
『武士道シックスティーン』(2010年)、
『爆心 長崎の空』『上京ものがたり』『ヨコハマ物語』(2013年)、
『僕は友達が少ない』(2014年)など。
2010年には「サクラサク」で歌手デビューを飾り、
女優業と並行して音楽活動も行なっている。
映画『ザ・テノール 真実の物語』の中でも、
ギターの弾き語りで歌うシーンがあるのだが、
これがビックリするくらい良かった。
歌うのは、ヘンデル作曲の傑作歌劇「リナルド」の最も有名なアリア
「私を泣かせてください」のギターアレンジバージョン。
まるでチェチョルの運命を憐れむように歌い上げ、観ている人を魅了する。
ややもすれば暗く深刻になりがちな題材の映画の中で、
唯一、光のような存在の役であったのだが、
この歌唱シーンが、それを象徴していたように思った。
チェチョルの妻・ユニを演じたチャ・イェリョン。
1985年7月16日、韓国・ソウルに生まれる。
モデルとしてキャリアをスタートさせ、『女高怪談』(2005年)で映画デビュー。
以降、『殴打誘発者たち』(2006年)、『ムイ』(2007年)などサスペンス要素の強い作品に出演し、
その美貌から「ホラークィーン」と呼ばれるようになる。
2007年以降はTVドラマにも進出。
『BAD LOVE~愛に溺れて~』(2007)では一人二役を演じるなど演技の幅を広げた。
主な出演作は、『特別市の人々』(2008年)、『第七鉱区』(2011年)、『マイ・ブラック・ミニドレス』(2011年)、『プランマン』(2013年)、『女優はひどい』(2014年)など。
出演作に日本未公開の作品が多いので、
私はこの女優のことは知らなかったのだが、
演技がとても上手くて、素晴らしかった。
写真で見ると、キツイ顔つきに見えるが、
映像では優しい表情が印象的だった。
彼女の他の作品も見てみたいと思った。
この作品は、登場人物の心情を、
その時々のオペラの歌詞で表現していた。
声を失った主人公の悲嘆、慟哭を、オペラ「オテロ」で、
復活した奇跡の歌声を「アメイジング・グレイス」で……というように。
オペラと物語が融合し、
オペラを縁遠く感じている人にも、
親しみやすい作品となっているのだ。
しかも、
日本ではあまり知られていない、
競争・嫉妬・過酷な嫌がらせが渦巻くオペラ界の裏側も描いているので、
興味津々で最後まで見ることができた。
現在、冷えに冷え切っている日韓関係だが、
音楽を含めた芸術、文化、友情、愛は、
利害も国境も軽々と超えてしまう。
そして、なによりも、この映画は、真実の物語なのだ。
映画館で、ぜひぜひ……