![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/9a/eba979d283f3e5949bf8d3fb175229b2.jpg)
本作『猫は抱くもの』(6月23日公開)は、
私の好きな沢尻エリカ主演作ということで、
公開前からチェックはしていた。
ただ、内容が、
「自分を人間だと思い込む猫が、元アイドルに恋をした……」
というもので、
私の苦手とする“ほんわかしたラブ・ファンタジー”と思い、
沢尻エリカ主演作ではあるが、
佐賀県での上映館もなかったし、
〈見なくてもイイか~〉
と思っていた。
ところが、佐賀のシアターシエマで、
8月10日(金)~8月16日(木)の一週間限定で上映されることが決まり、
〈佐賀で見ることができるなら……〉
と、シアターシエマへ足を運んだのだった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/ea/a6e6fba8c823fe7d205d8b22b6e8cc72.jpg)
田舎町の小さなスーパー。
元アイドルの沙織(沢尻エリカ)は、
経歴を隠して、レジ係として働いていた。
芸能界ではなりたかった自分になれず、
誰も知らないこの町に逃げてきて、
いつしか投げやりな生き方にも慣れてしまった。
心を開けるのは、
裏の倉庫でこっそり飼っているロシアンブルーの猫・良男(吉沢亮)だけ。
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空き時間にそっと訪ねては、
今日あった出来事や、気になる男性のこと、頭に描いた妄想などを、
いちいち話して聞かせるのだった。
そんな沙織の心に寄り添ううちに、
良男は、いつしか自分も人間で、彼女を守れるたった一人の恋人なのだと思い込んでしまう。
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ある日、スーパーで万引きをした女子高校生が捕まった。
保護者代わりにやってきたのは、叔父の後藤保(峯田和伸)という男。
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“ゴッホ”と呼ばれる売れない画家に、
沙織はなぜか惹かれるものを感じ、
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あれこれと勝手な想像を良男に語ってみせる。
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そんな平穏な日々も、つかの間、
沙織は、心を許しかけていた年下の上司(柿澤勇人)から手痛い裏切りにあってしまう。
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良男を抱きしめ「もう男は、良男だけでいいよ……」と涙を流す沙織。
その夜。
そばにいてあげたいという思いに駆られた良男は、
満月に誘われるように外の世界に飛び出して、沙織のアパートへ走る。
だが夜道で足を滑らせ、暗い川へと落ちてしまう。
流れ着いたのは個性豊かな猫たちが集う「ねこすて橋」のたもと。
良男はそこで、
ゴッホの飼い猫だったキイロ(コムアイ)や、
不思議な力を持つ長老猫(岩松了)と出会う。
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一方、
必死になって良男を探す沙織のもとに、東京のテレビ局から連絡が入る。
かつて沙織が所属して、売れないまま解散してしまったアイドルグループ「サニーズ」を、たった一日だけ再結成したいと。
離ればなれになった一人と一匹は、
自分らしく生きるすべを見つけることができるのか。
それぞれの想いを叶えることはできるのか……
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映画を見る前のイメージと、
映画を見た後の印象が、
これほど違う作品は、めったにないと思う。
いや、「映画を見た後」ではなく、
「映画を見始めてすぐ」に、そのことには気づかされる。
橋の下で猫たちが集っていると思ったら、
それがやがて人間の姿に擬人化されて映し出される。
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オープニングから、「おっ」と思わされる。
演劇のような舞台装置で撮影されたシーンが次々に映し出され、
まったく違う場所のシーンが、地続きの舞台で、次々と演じられる。
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それが、アナログ感、手作り感にあふれており、
CG全盛の時代に、昔のアングラ演劇を見せられているような錯覚におちいる。
そんな感慨にふけっていると、
いきなりアニメのネコが疾走したりして、観客を驚かす。
油断できないのである。
そんな驚きのシーンを連続させながら、
元アイドルの“こじらせ系”アラサー女性の内面を、
切なく、繊細に描き出しているのだから、
しかも、それを演じているのが沢尻エリカなのだから、
彼女のファンである私は、文句のつけようがないのである。
自由奔放な想像力とアイデアに満ちた映画で、
映画好きには堪らない作品であった。
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それもその筈、
調べてみると、
本作の脚本は、高田亮なのである。
高田亮が手掛けた作品は、
『婚前特急』(2011年)
『さよなら渓谷』(2013年)
『そこのみにて光輝く』(2014年)
『きみはいい子』(2015年)
『オーバー・フェンス』(2016年)
『武曲 MUKOKU』(2017年)
など、傑作揃い。
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その優れた脚本を演出するのは、犬童一心監督。
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『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)
『メゾン・ド・ヒミコ』(2005年)
『グーグーだって猫である』(2008年)
『のぼうの城』(2012年、樋口真嗣との共同監督)
などの傑作を手掛けた監督なのである。
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池脇千鶴は私の好きな女優で、
初期の代表作は『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)で、
ここ数年の代表作は『そこのみにて光輝く』(2014年)だと思っているのだが、
『ジョゼと虎と魚たち』には犬童一心監督が、
『そこのみにて光輝く』には脚本家・高田亮が関わっており、
その両人がタッグを組んで、
今度は、沢尻エリカを主役に据えて本作を撮ったのだから、
面白くならないワケがなかったのである。
私は、本作『猫は抱くもの』のレビューのタイトルを、
……犬童一心監督+高田亮(脚本)+沢尻エリカ≒傑作……
としたが、
(「≒」はニアリーイコールといい、意味は、イコールでないけれどそれに近い事、ほとんど等しい事を示す記号)
この3人が揃えば、見る前から“ほぼ傑作”だったのである。
それを予想できなかった私は、「まだまだ」なのであった。
そんなこんなで、
映画を見終わる頃には、
「犬童一心監督+高田亮(脚本)+沢尻エリカ」の魔法にかかってしまい、
めくるめく映像に魅せられ、
この映画の虜になっていたのだった。
但し、私のような者ばかりではないので、
普通の映画を楽しみたいと思っている人には、
なんだかわけのわからない作品に思えたらしく、
「Yahoo!映画」のユーザーレビューなど読むと、
んー、何だろう?
拷問のような作品。
映画???舞台???
舞台としてみたら面白いかもしれませんが、舞台ではなく映画としてみたかったので残念です。
タイトルと内容にギャップが有り過ぎ。
あーあっ… 騙された…
舞台ちっくな演出に「映画見に来たのに!」という残念感がハンパねー!
次作はノーマルな映画でお願いします。
などと文句を言う人、多し。(笑)
まあね、この手の映画に免疫がないと、
楽しんで鑑賞するのは難しいのかもしれない。
犬童監督は、
「猫の映画を最近ずっと撮っているので、その最終形を撮りたかった」
「人間と猫はちゃんと愛し合えるし、本当に心が通じ合える。『シェイプ・オブ・ウォーター』を見ていて、本作は近いなと思いました」
と語っていたが、
本作の製作において影響を受けた作品として、
『トニー滝谷』(2005年、市川準監督作品)
『オール・ザット・ジャズ』(1980年日本公開、ボブ・フォッシー監督作品)
『インセプション』(2010年日本公開、クリストファー・ノーラン監督作品)
『8 1/2』(1965年日本公開、フェデリコ・フェリーニ監督作品)
などを挙げている。
セットの組み立て方、
心の内面に入っていくときの撮影法、
現実と虚構の世界が交錯する構成など、
いろいろな作品と比較しながら鑑賞するのも面白いと思う。
元アイドルの沙織を演じた沢尻エリカ。
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6年ぶりの単独主演作なので、彼女のファンとしては嬉しい限り。
アイドルファッションに身を包んだ沢尻エリカを見ることができるのも至福。
『パッチギ!』(2005年)
『ヘルタースケルター』(2012年)
など、出演作に意外に傑作が多いが、
本作が新たな代表作として加わった。
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猫の良男を演じた吉沢亮。
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『リバーズ・エッジ』(2018年2月16日公開)の好演が記憶に新しく、
本作でも期待していたのだが、
『リバーズ・エッジ』とは真逆のキャラクターでありながら、
役の世界をしっかり作っており、感心させられた。
今年(2018年)は、『ママレード・ボーイ』や『あのコの、トリコ。』など、
アニメを映画化した青春物での主演が多いが、
イケメンを活かした(若い女性向けの)映画をこなしつつも、
『リバーズ・エッジ』や『猫は抱くもの』のような(コアな映画ファンのための)作品にも多く出演してもらいたいと思った。
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ゴッホこと後藤保を演じた峯田和伸。
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NHK朝の連続ドラマ『ひよっこ』(2017年)
日本テレビ系水曜ドラマ『高嶺の花』(2018年)
など、ミュージシャンというより俳優としての存在感が増しているが、
本作でも、その独特の風貌、雰囲気で、見る者を魅了する。
森の中の坂を沢尻エリカと転がり落ちるシーンが印象的だったのだが、
本当はスタントマンがやるはずだったんです。だから坂の手間で止まるっていう約束だったんですよ。10回ぐらい練習してうまくいってたんだけど、本番で……
と意図せず転んでしまったことを明かしている。
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こういう偶然を引き寄せるのも、彼の才能であるのかもしれない。
それにしても、『ひよっこ』では有村架純、『高嶺の花』では石原さとみ、本作では沢尻エリカと、共演が美人女優ばかり。
これもやはり才能なのだろうか……
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ゴッホの飼い猫だったキイロを演じたコムアイ(水曜日のカンパネラ)。
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本作の音楽も担当しており、
劇中で歌も披露している。
彼女が歌うシーンは、ミュージカル風な雰囲気を醸し出しており、
様々な実験がなされている本作において、
必要不可欠な存在であったと言えよう。
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沢尻エリカ、吉沢亮に、
峯田和伸、コムアイという音楽人を配するという絶妙のキャスティングと、
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アイデアに満ちた、遊び心満載の『猫は抱くもの』。
まだ上映している映画館も多いので、
ぜひぜひ。