一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『線は、僕を描く』 ……清原果耶、河合優実、富田靖子に逢いたくて……

2022年10月28日 | 映画


本作『線は、僕を描く』を見たいと思った理由は、
私の好きな女優である清原果耶と河合優実が出演しているから。




原作は、
2020年「本屋大賞」3位、
2019年TBS「王様のブランチ」BOOK大賞を受賞した、
青春芸術小説「線は、僕を描く」(砥上裕將著/講談社文庫)。


小泉徳宏監督を筆頭にした『ちはやふる』の製作チームが再結集し、
「競技かるた」の次は「水墨画」に挑戦するとのことで、
『ちはやふる』が好きだった私は、『ちはやふる』級の面白さも期待できると思った。


主演は、横浜流星。


清原果耶、河合優実の他、
細田佳央太、富田靖子、江口洋介、三浦友和などもキャスティングされており、




ワクワクしながら映画館に向かったのだった。



大学生の青山霜介(横浜流星)は、


アルバイト先の絵画展設営現場で運命の出会いを果たす。


白と黒だけで表現された「水墨画」が霜介の前に色鮮やかに拡がる。
搬入の指揮をとっていた西濱湖峰(江口洋介)と会話し、打ち解けた霜介は、


西濱より弁当を食べていいよと言われ、控室に行くと、老人と会う。
老人とも会話し、弁当を共に食べ始めるのだが、
この老人こそ、巨匠・篠田湖山(三浦友和)であった。


篠田湖山に弟子入りを勧められ、


「水墨画」を学び始める霜介。


だが、篠田湖山の家では、湖山の孫である千瑛(清原果那)が居て、
なんだか不機嫌な様子。


それでも「水墨画」に真剣に取り組む霜介の姿を見た千瑛は、
霜介に「水墨画」の基本を教えるようになる。


霜介に触発されて水墨画を初めた霜介の大学の友人・古前巧(細田佳央太)や、
川岸美嘉(河合優実)は、
大学で水墨画サークルを立ち上げる。


そのサークルの講師として、千瑛も学生に「水墨画」を教えるようになる。


「水墨画」は筆先から生み出す“線”のみで描かれる芸術。
描くのは“命”。
はじめは「水墨画」に戸惑っていた霜介だったが、
篠田湖山、千瑛、西濱湖峰、それに古前巧や川岸美嘉などに囲まれているうちに、
深い悲しみに包まれていた霜介の世界が変わり始め、
次第に「水墨画」の世界に魅了されていくのだった……




「競技かるた」という静的な競技に映画的カタルシスを生み出した『ちはやふる』の製作チームが再結集しただけあって、今度は「水墨画」の世界を、光や風や音を繊細に表現した美しい映像パフォーマンスによって、見る者を魅了せしめる。


表現方法は、より研ぎ澄まされており、
「水墨画」を描く動きが、スポーツ競技のように躍動感があり、ワクワクさせられる。


これだけでも見る価値ありなのであるが、
それだけにとどまらず、本作は主人公の成長物語にもなっていて、感動させられた。
主人公の青山霜介(横浜流星)は、
過去に何かがあり、深い悲しみに包まれ、心を閉ざし、
前に進めないでいる……というような設定であるのだが、
その原因が何なのかは(当初は)知らされない。
霜介は、水墨画と向き合うことで、自身と向き合うこととなり、
思い出したくないほど辛い過去の記憶を辿ることになる。


そして、親友・古前巧(細田佳央太)からの、
「そろそろ前に進むときだろう?」
という言葉によって、第一歩を踏み出すことになる。
霜介の「過去の記憶を辿る旅」に千瑛(清原果那)も同行し、


霜介の悲しみにそっと寄り添う姿が美しい。


そのことによって、千瑛もまた、
「水墨画」が描くのは“命”であることを悟らされ、
千瑛も芸術家として大きな進歩を遂げる。



主人公の青山霜介を演じた横浜流星。


映画の出演作は、今年だけでも、
『嘘喰い』(2022年2月11日公開)
『流浪の月』(2022年5月13日公開)
『アキラとあきら』(2022年8月26日公開)
『線は、僕を描く』(2022年10月21日公開)

と4作もあり、その内3作(『嘘喰い』『アキラとあきら』『線は、僕を描く』)は主演で、
主演でなかった『流浪の月』でも素晴らしい演技を見せていた。(コチラを参照)
本作『線は、僕を描く』の主人公・青山霜介は、
過去に悲しい出来事があった青年ということで、
(特に序盤は)かなり暗いトーンで行くのか、
あるいは、そんなことを感じさせないようなトーンで行くのか、
逆に、すごく明るい青年にしちゃうのか……
霜介をどう表現するべきか迷ったそうだが、
心に傷を負った感じを残しつつ、見る者にとっても魅力ある主人公になっていて、
そのバランス加減が素晴らしかった。
心をどちらにも傾かない「ニュートラル」な状態にして、
どのギアにもすぐにチェンジできる演技が絶妙であったし、
横浜流星という俳優の“伸びしろ”を感じることができた。



篠田湖山の孫・千瑛を演じた清原果那。


昨年(2021年)は、
『花束みたいな恋をした』『まともじゃないのは君も一緒』『砕け散るところを見せてあげる』
『夏への扉-キミのいる未来へ-』『護られなかった者たちへ』

と、5作もの映画に出演したが、
今年(2022年)は本作『線は、僕を描く』のみ。
だが、TVドラマの主演作が、
「ファイトソング」(2022年1月11日~3月15日、TBS)主演・木皿花枝 役
「霊媒探偵・城塚翡翠」(2022年10月16日~、日本テレビ)主演・城塚翡翠 役

と、2つもあり、
現在放送中の「霊媒探偵・城塚翡翠」も大いに楽しませてもらっている。


2002年1月30日生まれの20歳なのだが、(2022年10月現在)
この映画を見て、その大人びた美しさに驚くと同時に、
13~14歳の頃から彼女を見ているので、月日の経過も感じさせられた。
本当に好い女優になったものだ。
生来の演技力に、この美貌が加われば、もう“鬼に金棒”だ。(笑)





霜介に触発されて水墨画を初めた同級生・川岸美嘉を演じた河合優実。


河合優実の今年(2022年)の映画出演作は、
『ちょっと思い出しただけ』(2022年2月11日公開、松居大悟監督)
『愛なのに』(2022年2月25日公開、城定秀夫監督)
『女子高生に殺されたい』(2022年4月1日公開、城定秀夫監督)
『冬薔薇』(2022年6月3日公開、阪本順治監督)
『PLAN75』(2022年6月17日公開、早川千絵監督)
『百花』(2022年9月9日公開、川村元気監督)
『線は、僕を描く』(2022年10月21日公開予定、小泉徳宏監督)
『ある男』(2022年11月18日公開予定、石川慶監督)

と、8本もあり、
〈河合優実の出演作はすべて見る!〉
と決めている私は、これまで、
『ちょっと思い出しただけ』『愛なのに』『女子高生に殺されたい』『冬薔薇』『PLAN75』『百花』
の6作品を見てきた。
本作『線は、僕を描く』は今年7作目となる河合優実の出演作。


前作『百花』での河合優実の出演シーンが一瞬しかなかったので、心配していたのだが、
『線は、僕を描く』での出演シーンはそこそこあり、安心した。
霜介(横浜流星)と千瑛(清原果那)の協力を得て、
古前巧(細田佳央太)と共に水墨画サークルを立ち上げるのだが、


霜介と千瑛の応援団のような役目も担っており、
結構重要な役でもあった。


今年これまで見た7作全部役柄が違っており、
似た役がひとつもなく、それぞれ異なった役を見事に演じ分けていた。
河合優実はやはり凄い女優である。



水墨画の評論家・藤堂翠山を演じた富田靖子。


1969年2月27日生まれなので、53歳。(2022年10月現在)
映画デビュー作『アイコ十六歳』(1983年12月17日公開)の頃から知っているが、
私は、現在の富田靖子の方が好きだ。
『きみはいい子』(2015年6月27日公開)の頃から、
〈イイな~〉
と思うようになり、
『超高速!参勤交代 リターンズ』(2016年9月10日公開)
『友罪』(2018年5月25日公開)
『愛唄 -約束のナクヒト-』(2019年1月25日公開)
『Fukushima 50』(2020年3月6日公開)

などで、魅了されてきた。
本作では、出演シーンは短いものの、


さすがの存在感で作品も盛り上げていた。





この他、
霜介の親友・古前巧を演じた細田佳央太が、
若手実力派俳優らしい演技で魅せてくれたし、




湖山の一番弟子・西濱湖峰を演じた江口洋介や、




水墨画の巨匠・篠田湖山を演じた三浦友和も、
ベテラン俳優の実力を発揮し、作品の質を高めていた。





撮影は、ほぼ滋賀県内で行われており、
多賀大社(多賀町)、五個荘近江商人屋敷の外村繁邸(東近江市)などの観光地のほか、
成安造形大学(大津市)、草津川跡地公園(草津市)、甲賀市役所(甲賀市)などが、
ロケ地として使われている。
原作の舞台は滋賀と無関係だが、
『ちはやふる』と同様に、滋賀が、『線は、僕を描く』ファンの「聖地」となるかもしれない。


エンドロールでの、
水墨画によるクレジットのパフォーマンスも秀逸で、
最後の最後まで楽しませてくれる美しい映画であった。

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