私が購読している新聞には、
「きょうの言葉」というコラムがあって、
毎日、楽しみに読んでいるのだが、
2月25日(日)の言葉には、
格別の共感を抱いた。
「それでは、またね」と言って二度と会わないことの方が圧倒的に多いんだよ。(小池一夫)
突然、友の訃報を聞く。
何年も年賀状の交換しかしていなかった。学生時代には毎日のように一緒にいて、若気の至りで苦い体験も一緒にした。悪友だった。
就職を機会に、住むところも離ればなれになり、何年かに一度、クラス会や共通の友人の冠婚葬祭でしか会うことがなくなっていた。
それでも、そんな集まりがあれば、会ったとたん、風貌こそ白髪が増えて、変わったとしても、一瞬で何十年前にタイムスリップして、思い出話や昔ながらの馬鹿話をすることができた。
いつだってそうだった。
あのときの別れ際にも「じゃあ、またね」と軽く手を振って別れたのだった。
また会える。それを信じて疑わなかった。
しかし、いつか別れがやって来る。そのことは知識としては知っていたはずだった。けれど、自分たちにそんな時が訪れると考えることはなかった。
別れは「さよなら」と宣言することの方がまれなのだと、漫画原作者の小池一夫さんもいう。
会いたい人、好きな人には、会いたいと思ったときに会っておこう。(小説家・阿川大樹)
「会いたい人、好きな人には、会いたいと思ったときに会っておこう」
いつも私が言っていることと同じだ。
そうなのだ。
短い人生、
逢いたい人には逢っておいた方がイイ……
ということで、
今年(2018年)から始めた「逢いたい人に逢いに行く」という企画。
第1弾は、E-girlsのパフォーマーであり女優の石井杏奈、
第2弾は、女優でボーカリストの薬師丸ひろ子であった。
そして、第3弾の今回は、女優の蒼井優。
死ぬまでに一度は彼女の生(ナマ)の芝居(演技)を観てみたいと思っていた。
そのチャンスが訪れたのだ。
昨年秋、
彼女が主演する舞台『アンチゴーヌ』が、
九州でも観ることができるという情報を入手したからだ。
TOKYO 2018年1月9日(火)~27日(土)
新国立劇場 小劇場〈特設ステージ〉
MATSUMOTO 2018年2月3日(土)~4日(日)
まつもと市民芸術館〈特設会場〉
KYOTO 2018年2月9日(金)~12日(祝・月)
ロームシアター京都 サウスホール〈舞台上特設ステージ〉
TOYOHASHI 2018年2月16日(金)~18日(日)
穂の国とよはし芸術劇場PLAT〈舞台上特設ステージ〉
KITAKYUSHU 2018年2月24日(土)~26日(月)
北九州芸術劇場 大ホール〈舞台上特設ステージ〉
北九州芸術劇場での公演は、
2月24日(土) 18:30
2月25日(日) 12:30 17:30
2月26日(月) 12:30
の4回のみ。
北九州芸術劇場での公演がラストであるし、
ラストのラストである2月26日(月)の12:30からの回のチケットをゲット。
楽しみに2月26日(月)を待っていたのだった。
2月26日(月)
平日であったが、
あらかじめ私の公休日をこの日に変更し、休みを確保。
ワクワクしながら北九州へ向かったのだった。
着いたのは、リバーウォーク北九州。
なんだか、キャナルシティ博多と同じような雰囲気の商業施設だ。
このリバーウォーク北九州の6階に北九州芸術劇場がある。
すぐそばに小倉城があり、
よく見えた。
違う角度からもパチリ。
さあ、いよいよだ。
開場前には、たくさんの人が並んでいた。
今回の舞台『アンチゴーヌ』は、
客席中央に十字(クロス)の舞台があり、
観客が俳優を取り囲む形式での上演。
私は、Aブロックの2列目の1番という、
好位置をゲット。
12:30になり、舞台に俳優が現れた。
古代ギリシャ・テーバイの王オイディプスは、
長男ポリニス、
次男エテオークル、
長女イスメーヌ、
次女アンチゴーヌという、
4人の子を残した。
ポリニスとエテオークルは、交替でテーバイの王位に就くはずであったが、
王位争いを仕組まれて刺し違え、この世を去る。
その後、王位に就いたオイディプスの弟クレオン(生瀬勝久)は、
亡くなった兄弟のうち、エテオークルを厚く弔い、
国家への反逆者であるとして、ポリニスの遺体を野に曝して埋葬を禁じ、
背く者があれば死刑にするよう命じた。
しかし、オイディプスの末娘アンチゴーヌ(蒼井優)は、
乳母の目を盗んで夜中に城を抜け出し、
ポリニスの遺体に弔いの土をかけて、捕えられてしまう。
クレオンの前に引き出されるアンチゴーヌ。
クレオンは一人息子エモン(渋谷謙人)の婚約者で、姪である彼女の命を助けるため、
土をかけた事実をもみ消す代わりにポリニスを弔うことを止めさせようとする。
だが、アンチゴーヌは、
「誰のためでもない。わたしのため」
と言い、兄を弔うことを止めようとしない。
そして自分を死刑にするようクレオンに迫る。
懊悩の末、クレオンは国の秩序を守るために苦渋の決断を下す。
姉イスメーヌ(伊勢佳世)に今生の別れを告げたアンチゴーヌに、
生き埋め刑執行の刻が近づく。
穴に入れられ土をかけられていくアンチゴーヌ。
そして入口をふさぐ最後の石が置かれようとしたとき、
墓の中からアンチゴーヌではない声が聞こえてくる。
エモンがいつの間にか穴に入っていたのだ。
一度は助け出されたエモンだったが、
自ら命を絶ちアンチゴーヌと永遠の眠りに就く。
そして、エモンの死を知った王妃ユリディスも自害し、この世を去る。
そして、1人になったクレオンは、
早く大人になりたいという小姓に言う。
「ばかだな。大人になんかなっちゃいけないんだ……」
舞台と客席が近く、
俳優がすぐそばまで来て演技をする。
いきなり、蒼井優が、私から2mほどの場所で演技を始める。
歩き、走り、寝そべり、転がり、
舞台を縦横無尽に動き回る。
発せられる言葉にはよどみがなく、
表情は、刻々と変化する。
素晴らし過ぎて、彼女からもう目が離せない。
蒼井優という肉体が躍動し、
その彼女の生命力が舞台を覆う。
2時間10分ほどの上演時間で、
後半の約45分間は、
アンチゴーヌ(蒼井優)とクレオン(生瀬勝久)の二人だけの対話劇だ。
これが本当に素晴らしかった。
蒼井優と生瀬勝久の演技合戦。
まさに「口角泡を飛ばす」状態で、
口からつばきが飛び出すのが本当に見えるのだ。
すぐ近くで、それが行われているという衝撃。
緊張し、興奮し、
これほどまでに感動する舞台は久しぶりに観たような気がする。
蒼井優は素晴らしい女優だとは思っていたが、
生で演技を観ると、想像以上であった。
本当に彼女の舞台を観てよかったと思った。
昨年(2017年)は、
『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年10月28日公開)で、
各映画賞の主演女優賞を総なめにし、私を喜ばせてくれた。
今年(2018年)は12月に、
舞台『スカイライト』という主演作が控えているようだ。
もし近くでも上演されるようであれば、ぜひ観に行きたいと思っている。
蒼井優という素晴らしい女優と同時代に生きているという幸運、
この幸運に感謝したい。
今日も「一日の王」になれました~