一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『空飛ぶタイヤ』……痛快でスカッとする極上の大逆転エンターテインメント……

2018年06月21日 | 映画


池井戸潤の、
『オレたちバブル入行組』
『オレたち花のバブル組』
を原作としたTVドラマ『半沢直樹』がヒットして以降、
池井戸潤の小説を原作としたTVドラマが相次いで制作され、


TBS系日曜劇場では、
『半沢直樹』(2013年7月~9月)原作:『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』
『ルーズヴェルト・ゲーム』(2014年4月~6月)
『下町ロケット』(2015年10月~12月)
『陸王』(2017年10月~12月)

日本テレビ系水曜ドラマでは、
『花咲舞が黙ってない』
第1シリーズ(2014年4月~6月)原作:『不祥事』『銀行総務特命』
第2シリーズ(2015年7月~9月)原作:『銀行仕置人』『銀行狐』

テレビ朝日系金曜ナイトドラマでは、
『民王』(2015年7月~9月)

など、いずれもが、その時間帯での高視聴率をマークしている。
私の友人知人には、
これら池井戸潤作品を原作としたドラマを欠かさず観ている人が多いし、
評判の良さもよく耳にするのだが、
私自身はあまり興味がなかった。
それでも「なぜそんなにウケているのか?」と思い、
時々(主に最終回を)観るようにはしていた。

池井戸潤作品を大雑把に分析すると、

①一般企業が舞台
②銀行員がよく登場する(池井戸潤は元銀行員)
③主人公は熱くストレートな性格
④状況設定として、主人公は理不尽な扱いを受けている
⑤さらに、主人公にいくつもの困難が襲いかかる
⑥登場人物の対立構図がはっきりしており、解り易い
⑦物語が類型的で、基本的に“勧善懲悪”
⑧ストーリー展開が劇画的
⑨感情移入しやすい
⑩スカッとするような成敗シーンがある


など、どの作品も似通っているように思える。
ピンチを乗り越えての逆転劇や下剋上は、
現実社会においては“ファンタジー”なのであるが、
ストレス社会に生きる人々にとっては、
日頃の憂さを晴らしてくれる痛快な物語として受け入れられているのではないかと思われた。

かように池井戸潤作品がTVドラマ界ではもてはやされているのに、
不思議と映画化はなされていなかった。
ここへきて、ようやくと言うべきか、
池井戸潤作品が映画化されることになり、
最初に選ばれたのが、今回紹介する『空飛ぶタイヤ』(6月15日公開)なのである。


トラックの脱輪事故で整備不良を疑われた運送会社社長が、
自社の無実を証明すべく、
製造元の自動車会社がひた隠す不正を暴く闘いに挑む……

というストーリーで、
監督は、『超高速!参勤交代』シリーズなどの本木克英、
主演は、長瀬智也。

本木克英監督の『超高速!参勤交代』シリーズを高評価していた私としては、
『空飛ぶタイヤ』も面白い作品に仕上がっているのではないかと考えて、
公開初日に(仕事の帰りに)映画館へ駆けつけたのだった。



よく晴れた日の午後、
一台のトラックが脱輪事故を起こし、
外れたタイヤが直撃したことにより、一人の主婦が亡くなる。
事故を起こしたトラックの運送会社社長・赤松徳郎(長瀬智也)が、
警察から聞かされたのは、
走行中のトラックからタイヤが突然外れたという耳を疑う事実だった。


事故原因を一方的に整備不良とされ、
「容疑者」と決め付けられた赤松は、
警察からの執拗な追及を受ける。


世間からもバッシングを受け、
取引先からは仕事が来なくなり、
銀行も融資をストップするだけでなく、
借入金の全額返済を求めてきたことから、
倒産寸前の状態に追い込まれてしまう。


納得のいかない赤松は、
自暴自棄になりながらも、
赤松運送の専務・宮代(笹野高史)、
整備士・門田(阿部顕嵐)
妻・史絵(深田恭子)らの支えもあり、


独自の調査を開始する。
そして、車両の構造そのものに欠陥があるのではないかと気づき、
ホープ自動車に再調査を要求する。


一方、ホープ自動車の販売事業部課長である沢田(ディーン・フジオカ)は、
再三にわたる赤松の要求を疎ましく思いながらも、
同僚の小牧(ムロツヨシ)や、杉本(中村蒼)と調査を進めていくうちに、


社内でひた隠しにされる真実の存在を知る。


同じ頃、ホープ銀行の本店営業本部の井崎(高橋一生)は、
週刊潮流の記者・榎本(小池栄子)より、
グループ会社であるホープ自動車について探りを入れられ、


そのずさんな経営計画と、ある噂について疑問を抱く。


それぞれが辿り着いた先にあった真実は、
大企業の“リコール隠し”であった。
過去にも行われていたそれは、二度とあってはならないことだった。
その真実の前に立ちはだかる、ホープ自動車常務取締役・狩野(岸部一徳)。


はたしてそれは、事故なのか事件なのか……
男たちは大企業にどう立ち向かっていくのか……




映画を見終わった感想はというと、
「面白かった!」
ということになる。
「大逆転エンターテインメント」と謳っているので、
結末は判っているのだが、
それでも面白かった。
まさに池井戸潤作品の法則、

①一般企業が舞台
②銀行員がよく登場する(池井戸潤は元銀行員)
③主人公は熱くストレートな性格
④状況設定として、主人公は理不尽な扱いを受けている
⑤さらに、主人公にいくつもの困難が襲いかかる
⑥登場人物の対立構図がはっきりしており、解り易い
⑦物語が類型的で、基本的に“勧善懲悪”
⑧ストーリー展開が劇画的
⑨感情移入しやすい
⑩スカッとするような成敗シーンがある


に則った映画であった。
特に、⑤の「主人公にいくつもの困難が襲いかかる」という部分が秀逸で、
見ている方も、
〈もうダメなんじゃないか……〉
と思ってしまうほどに主人公を追い込む。
それ故に、ラストの「成敗シーン」はスカッとするし、
満足度が高い。
今、「スカッとする」と書いたが、
木下ほうか、津田寛治、笹野高史、岡山天音など、
「痛快TVスカッとジャパン」(フジテレビ系)に出演している俳優がたくさん出ていたし、
深田恭子、佐々木蔵之介、寺脇康文、六角精児など、
本木克英監督の『超高速!参勤交代』シリーズに出演していた俳優も多くキャスティングされていて、
思わずニヤリとさせられた。


原作も映画も、ホープ自動車と社名を変えてあるが、
2002年に発生した三菱自動車製大型トラックの脱輪による死傷事故、
及び、三菱自動車によるリコール隠し事件などを物語の下敷きとしているのは判るし、
巨悪に立ち向かう男たちの覚悟が感じられる作品で、
三菱自動車に勤める社員は映画を見ないだろうなと思いつつも、
三菱自動車の社員にこそ見て欲しい作品だなと思った。


運送会社社長・赤松徳郎を演じた、長瀬智也、
ホープ自動車販売事業部課長・沢田を演じたディーン・フジオカ、
ホープ銀行本店営業本部の井崎を演じた高橋一生。
この主要3人のクールかつ熱い演技が予想以上に素晴らしく、
見応えのある作品になっている。


男ばかりが蠢く映画の中で、
週刊潮流の記者・榎本を演じた小池栄子、


赤松の妻・史絵を演じた深田恭子には華が感じられたし、
存在自体に「ホッ」とさせられ、癒された。


現況、日本映画界は、大きく分けると、
高校生向けのラブストーリーと、
中高年向けの作品に二極化している傾向がある。
その中間の、現役バリバリのサラリーマン世代が観て楽しめる映画が少なかった。
そういう状況の中、
どの世代でも楽しめる本作『空飛ぶタイヤ』が公開された意義は大きい。
若い世代の人たちには、社会という荒波に立ち向かう“覚悟”と“決意”を、
現役バリバリのサラリーマン世代には、仕事に対する“情熱”と“勇気”を、
そして、シニア世代には、“共感”と“歓び”を与えてくれるだろう。
映画館で、ぜひぜひ。

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