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川栄李奈が主演の、
日本三大酒処の一つとして有名な広島県東広島市・西条を舞台にした、
日本酒造りや恋に奮闘する女子大生を描いた作品である。
元々、芋焼酎派だし、
これまで日本酒はほとんど呑んだことがなく、
その上、
今現在、酒をやめてから丸3年が経っているし、
日本酒の酒蔵を舞台にした映画に関心はない筈なのだが、
日本酒造りの物語には不思議と興味がある。
それは、かつて、
尾瀬あきらの漫画『夏子の酒』を愛読していたことに起因している。
この漫画を愛し、
和久井映見の主演のTVドラマ(1994年1月12日~3月23日、フジテレビ系)の方も、
毎週欠かさず観ていた。
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なので、映画『恋のしずく』には、漫画『夏子の酒』と同じニオイを感じ、
〈見たい!〉
と思った。
昨年(2018年)の10月20日に公開されたのだが、
この時期は他に見たい映画がたくさんあって、
“後回し”にすることを続けていたら、
いつの間にか上映期間を過ぎており、見る機会を逸してしまっていた。
なので、ずっと気になっていた作品であった。
映画館で見る作品にこだわっていたが、
DVDで見た作品も、このブログにレビューを書くことを自分に許して以来、
すぐに思い浮かんだのがこの作品だった。
で、先日、ようやく鑑賞が叶ったのだった。

東京の農大でワインソムリエを目指すリケジョ・橘詩織(川栄李奈)は、
ワイナリーでの研修を夢見ていたが、
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意に反して、実習先が、東広島・西条の日本酒の酒蔵に決まってしまった。
“日本酒嫌い”だった詩織はボイコットしようとするが、
担当教授の鷹野橋洋一(津田寛治)から、
「酒蔵での実習を終えないと単位が取得できず、君の夢である(ワインの本場)フランスへの海外留学の道も閉ざされてしまうぞ」
と脅され、受け入れざるを得なくなる。

渋々、実習先の乃神酒造へ訪れた詩織だったが、
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今年は実習生の受け入れ予定はないと言われてしまう。
実は、病に伏している蔵元(大杉漣)が受け入れを断ったにも関わらず、

息子である莞爾(小野塚勇人)が父親への反抗心から勝手に進めていたのだった。
絶対に単位が欲しい詩織は食い下がる。
農家の娘・美咲(宮地真緒)の助けもあり、

なんとか杜氏の坪島(小市慢太郎)から蔵に来るように言われ、
酒蔵で修行に近い「実習」が始まる。
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人々との出会いや日本酒造りを通じて、今までにない喜びを見出す詩織。
そんな矢先、蔵元がこの世を去り、
老舗の蔵は存続の危機に立たされることになるのだった……
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丁寧に、丁寧に、撮られた作品であった。
好い作品であった。
昨年の公開時(2018年10月20日公開)に見なかったことを、
今さらながら後悔した。
監督は、瀬木直貴。

今年(2019年)の11月にレビューを書いた『いのちスケッチ』の監督でもあるのだが、
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映画『いのちスケッチ』も、
福岡県大牟田市の動物園を舞台にした地方創生ムービーでありながら、
大牟田市の宣伝臭はあまり感じさせず、
爽やかな人物たちが登場する感動のドラマであった。(コチラを参照)
本作『恋のしずく』もまったく同じ印象を持った。
これまで瀬木直貴監督作品はほとんど見ていなかったのだが、
『いのちスケッチ』と『恋のしずく』を見て、
信用できる監督であることが判った。
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『恋のしずく』も、『夏子の酒』と同じく、原作があるものと思っていたのだが、
調べてみると、オリジナル作品とのこと。
瀬木直貴監督は、これまで16本の映画を撮っているそうだが、
すべてオールロケで、すべて(原作のない)オリジナルの物語だそうだ。
机の上で考えるのではなく、
現地に住込み(『恋のしずく』の場合は半年間)、
街と、そこに住む人たちと出会って、交流の輪が広がる中で、
物語が立ち上がってくるのだという。
『いのちスケッチ』のレビューで、私は、
鑑賞している途中から、
友人の住む街を訪ねたかのような気分にさせてくれる不思議な映画だった。
と書いたが、
このような丁寧な映画作りが、
見る者に、映画の舞台となる街に住んでいるかのような親近感を抱かせる。
『恋のしずく』もそうであった。
初めて見る風景なのに、
なぜか懐かしささえ感じるのは、
瀬木直貴監督が長期間そこに住み、
その街に住む人の目で撮っているからなのだ。
映画づくりは街づくり、人づくりなんですよ。私の場合、映画制作のプロセスは、まず地域について勉強する・調査する・知る、ということからはじまるわけです。その街の魅力・課題をきちんと意識していくことなんですね。そして次にそれをどのようなアクションプランにしていくかを考えるんです。
と、瀬木直貴監督は語っていたが、
このような時間をかけた丁寧な仕事が、
不純物のない、凛とした作品を生み出すのだなと思った。
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主演の、橘詩織を演じた川栄李奈。
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映画初主演とは思えない堂々とした演技で、魅了された。
AKB48に在籍していた頃は、
どちらかというと“おバカキャラ”だったので、
とても演技ができるとは思えなかったのだが、
TVドラマや『嘘を愛する女』(2018年1月20日公開)などの映画を見ると、
びっくりするほど演技が上手くて、
本作『恋のしずく』で主演を任されたのは、
自然の流れにも思われた。
瀬木直貴監督は、
詩織役の川栄李奈さんは憑依型の役者さんです。はじまるとポンと変わる。あの集中力、瞬発力はすばらしい。
と語っていたが、
映画の冒頭に“あみだくじ”を指でたどるシーンがあるのだが、
あのシーンは、彼女のアドリブであったらしい。
俳優としての天賦の才があるのであろう。
これからが楽しみな女優であるのだが、
今年(2019年)の5月17日に結婚と妊娠を発表し、
11月9日に第1子を出産した。
生活が落ち着いたら、また女優復帰してもらいたと、極私的に熱望する。
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本作は、
昨年(2018年)の2月21日に亡くなった大杉漣(享年66歳)の遺作でもあるのだが、
乃神酒造の蔵元・乃神輝義の役を、
長くそこに住んでいる人物のように自然に演じていて感心させられた。

撮影の待ち時間には、よく街を散歩していたそうで、
瀬木直貴監督が、
「よく散歩されてますね」
と声をかけると、
「乃神輝義という役は、ここで生まれて64年間この街の風景を見て空気を吸ってきました。そうした役づくりに活きるかと思ってね」
と答えたとか。
こうした俳優としての普段の心がけの積み重ねが、
素晴らしい演技に結びついたものと思われる。

この映画では、終盤、
「命なりけり」という名の酒を造ることが描かれるのだが、
この「命なりけり」は、
源氏物語「桐壺」の一首で、
桐壺更衣が詠んだとされる、
かぎりとて別るる道の悲しきにいかまほしきは命なりけり
(今日限りで貴方とお別れする悲しみを超えてでも、私は生きる道を選びたいのです)
から採られている。

そして、
願掛けをするために、7つの橋を巡る逸話も、
三島由紀夫の小説『橋づくし』から採られている。

こうした文学的な要素が、
本作『恋のしずく』に、ある種の“品”をもたらしているし、
凛としたたたずまいを感じさせる作品になっている。
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私は、本作を二度見たが、
二度とも清々しい感動をいただいた。
こういう作品は、あるようで、なかなかないものだ。
ぜひぜひ。
川栄李奈が主演の、
日本三大酒処の一つとして有名な広島県東広島市・西条を舞台にした、
日本酒造りや恋に奮闘する女子大生を描いた作品である。
元々、芋焼酎派だし、
これまで日本酒はほとんど呑んだことがなく、
その上、
今現在、酒をやめてから丸3年が経っているし、
日本酒の酒蔵を舞台にした映画に関心はない筈なのだが、
日本酒造りの物語には不思議と興味がある。
それは、かつて、
尾瀬あきらの漫画『夏子の酒』を愛読していたことに起因している。
この漫画を愛し、
和久井映見の主演のTVドラマ(1994年1月12日~3月23日、フジテレビ系)の方も、
毎週欠かさず観ていた。
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なので、映画『恋のしずく』には、漫画『夏子の酒』と同じニオイを感じ、
〈見たい!〉
と思った。
昨年(2018年)の10月20日に公開されたのだが、
この時期は他に見たい映画がたくさんあって、
“後回し”にすることを続けていたら、
いつの間にか上映期間を過ぎており、見る機会を逸してしまっていた。
なので、ずっと気になっていた作品であった。
映画館で見る作品にこだわっていたが、
DVDで見た作品も、このブログにレビューを書くことを自分に許して以来、
すぐに思い浮かんだのがこの作品だった。
で、先日、ようやく鑑賞が叶ったのだった。
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東京の農大でワインソムリエを目指すリケジョ・橘詩織(川栄李奈)は、
ワイナリーでの研修を夢見ていたが、
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意に反して、実習先が、東広島・西条の日本酒の酒蔵に決まってしまった。
“日本酒嫌い”だった詩織はボイコットしようとするが、
担当教授の鷹野橋洋一(津田寛治)から、
「酒蔵での実習を終えないと単位が取得できず、君の夢である(ワインの本場)フランスへの海外留学の道も閉ざされてしまうぞ」
と脅され、受け入れざるを得なくなる。
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渋々、実習先の乃神酒造へ訪れた詩織だったが、
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今年は実習生の受け入れ予定はないと言われてしまう。
実は、病に伏している蔵元(大杉漣)が受け入れを断ったにも関わらず、
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息子である莞爾(小野塚勇人)が父親への反抗心から勝手に進めていたのだった。
絶対に単位が欲しい詩織は食い下がる。
農家の娘・美咲(宮地真緒)の助けもあり、
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なんとか杜氏の坪島(小市慢太郎)から蔵に来るように言われ、
酒蔵で修行に近い「実習」が始まる。
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人々との出会いや日本酒造りを通じて、今までにない喜びを見出す詩織。
そんな矢先、蔵元がこの世を去り、
老舗の蔵は存続の危機に立たされることになるのだった……
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丁寧に、丁寧に、撮られた作品であった。
好い作品であった。
昨年の公開時(2018年10月20日公開)に見なかったことを、
今さらながら後悔した。
監督は、瀬木直貴。
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今年(2019年)の11月にレビューを書いた『いのちスケッチ』の監督でもあるのだが、
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福岡県大牟田市の動物園を舞台にした地方創生ムービーでありながら、
大牟田市の宣伝臭はあまり感じさせず、
爽やかな人物たちが登場する感動のドラマであった。(コチラを参照)
本作『恋のしずく』もまったく同じ印象を持った。
これまで瀬木直貴監督作品はほとんど見ていなかったのだが、
『いのちスケッチ』と『恋のしずく』を見て、
信用できる監督であることが判った。
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『恋のしずく』も、『夏子の酒』と同じく、原作があるものと思っていたのだが、
調べてみると、オリジナル作品とのこと。
瀬木直貴監督は、これまで16本の映画を撮っているそうだが、
すべてオールロケで、すべて(原作のない)オリジナルの物語だそうだ。
机の上で考えるのではなく、
現地に住込み(『恋のしずく』の場合は半年間)、
街と、そこに住む人たちと出会って、交流の輪が広がる中で、
物語が立ち上がってくるのだという。
『いのちスケッチ』のレビューで、私は、
鑑賞している途中から、
友人の住む街を訪ねたかのような気分にさせてくれる不思議な映画だった。
と書いたが、
このような丁寧な映画作りが、
見る者に、映画の舞台となる街に住んでいるかのような親近感を抱かせる。
『恋のしずく』もそうであった。
初めて見る風景なのに、
なぜか懐かしささえ感じるのは、
瀬木直貴監督が長期間そこに住み、
その街に住む人の目で撮っているからなのだ。
映画づくりは街づくり、人づくりなんですよ。私の場合、映画制作のプロセスは、まず地域について勉強する・調査する・知る、ということからはじまるわけです。その街の魅力・課題をきちんと意識していくことなんですね。そして次にそれをどのようなアクションプランにしていくかを考えるんです。
と、瀬木直貴監督は語っていたが、
このような時間をかけた丁寧な仕事が、
不純物のない、凛とした作品を生み出すのだなと思った。
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主演の、橘詩織を演じた川栄李奈。
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映画初主演とは思えない堂々とした演技で、魅了された。
AKB48に在籍していた頃は、
どちらかというと“おバカキャラ”だったので、
とても演技ができるとは思えなかったのだが、
TVドラマや『嘘を愛する女』(2018年1月20日公開)などの映画を見ると、
びっくりするほど演技が上手くて、
本作『恋のしずく』で主演を任されたのは、
自然の流れにも思われた。
瀬木直貴監督は、
詩織役の川栄李奈さんは憑依型の役者さんです。はじまるとポンと変わる。あの集中力、瞬発力はすばらしい。
と語っていたが、
映画の冒頭に“あみだくじ”を指でたどるシーンがあるのだが、
あのシーンは、彼女のアドリブであったらしい。
俳優としての天賦の才があるのであろう。
これからが楽しみな女優であるのだが、
今年(2019年)の5月17日に結婚と妊娠を発表し、
11月9日に第1子を出産した。
生活が落ち着いたら、また女優復帰してもらいたと、極私的に熱望する。
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本作は、
昨年(2018年)の2月21日に亡くなった大杉漣(享年66歳)の遺作でもあるのだが、
乃神酒造の蔵元・乃神輝義の役を、
長くそこに住んでいる人物のように自然に演じていて感心させられた。
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撮影の待ち時間には、よく街を散歩していたそうで、
瀬木直貴監督が、
「よく散歩されてますね」
と声をかけると、
「乃神輝義という役は、ここで生まれて64年間この街の風景を見て空気を吸ってきました。そうした役づくりに活きるかと思ってね」
と答えたとか。
こうした俳優としての普段の心がけの積み重ねが、
素晴らしい演技に結びついたものと思われる。
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この映画では、終盤、
「命なりけり」という名の酒を造ることが描かれるのだが、
この「命なりけり」は、
源氏物語「桐壺」の一首で、
桐壺更衣が詠んだとされる、
かぎりとて別るる道の悲しきにいかまほしきは命なりけり
(今日限りで貴方とお別れする悲しみを超えてでも、私は生きる道を選びたいのです)
から採られている。
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そして、
願掛けをするために、7つの橋を巡る逸話も、
三島由紀夫の小説『橋づくし』から採られている。
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こうした文学的な要素が、
本作『恋のしずく』に、ある種の“品”をもたらしているし、
凛としたたたずまいを感じさせる作品になっている。
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私は、本作を二度見たが、
二度とも清々しい感動をいただいた。
こういう作品は、あるようで、なかなかないものだ。
ぜひぜひ。