一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『鑑定士と顔のない依頼人』 ……「偽り」と「真実」が反転するとき……

2014年04月06日 | 映画
あなたは、絵画の中の人物に恋をしたことがあるだろうか?

若い頃、私は、絵の中の女性に恋をした。
ジョン・エヴァレット・ミレイの「オフィーリア」にである。


この絵を最初に見たとき(もちろん本物の絵ではなく画集であったが)、
私は絵の中のオフィーリアに一目惚れしてしまった。
こんなにも美しい女性がいるのか……
画集を開いては、溜息をつくような日々を送った。
※このオフィーリアには、2008年8月7日に逢うことができた。(←クリック)

その後も、いろんな絵の中の女性に恋をした。(←クリック)
だが、せいぜい、画集か美術展で鑑賞するくらいで、
自分で蒐集しようとは思わなかった。

映画『鑑定士と顔のない依頼人』の主人公・ヴァージル・オールドマンは、
天才的鑑定眼をもち、世界中の美術品を仕切る一流鑑定士にして、オークショニア。


自宅の隠し部屋には、古今の名画が四方の壁に飾られている。


すべてが、美しい女性の肖像画だ。
その部屋の中央にある椅子に座り、
その美しい女性たちを眺めるのが至福のひとときなのだ。


こういう設定の物語に興味を持った。
映画『鑑定士と顔のない依頼人』を見に行こうと思った所以である。
しかも、監督は、イタリアの名匠ジュゼッペ・トルナトーレ。
そう、名作『ニュー・シネマ・パラダイス』の監督だ。
音楽も、トルナトーレとずっとタッグを組んできたエンニオ・モリコーネ。
見ないわけにはいかないではないか。

公開されたのは、昨年(2013年)12月13日であるが、
佐賀での上映館はなく、
今年(2014年)の春になって、
やっとイオンシネマ佐賀大和で見ることができた。

たくさんの美しい女性の肖像画に囲まれて暮らす、
初老のヴァージル・オールドマンは、
それ故に、これまで、生身の女性と付き合ったことがまったくなかった。
生身の女性を必要としなかった……というべきか。
そんなヴァージルのもとに、ある鑑定依頼が舞い込む。


それは、
資産家の両親が亡くなり、屋敷に遺された絵画や家具を査定してほしいという、
若い女性からの依頼であった。


ところが……
依頼人は嘘の口実を重ねて決して姿を現さない。


ヴァージルは不信感を抱くが、
屋敷の床に、ある美術品の“一部”を見つける。
それは、もしそれが本物なら歴史的発見となる、貴重なものであった。
それを持ち帰ったヴァージルは、
美術品修復家・ロバートに修復を依頼する。




何度も訪れ、その“一部”を持ち帰るヴァージル。
そうやって、次第に、この仕事から手を引けなくなっていく。
姿を現さない依頼人の女性の無礼に怒りつつも、
決して部屋から出てこない彼女と壁ごしのやり取りを重ねているうちに、
次第に、その女性に惹かれていくヴァージル。
ある日、我慢できなくなったヴァージルは、
帰ったふりをして部屋の隅に隠れ、その依頼人の女性を覗き見る。
そして、美しい彼女の姿に魅了される。


だが、そのことによって、
彼の安定していたはずの日常が、徐々に崩れていく……


天才鑑定士と、
心的障害によって部屋に閉じこもらざるをえなくなった謎の女性依頼人との、
純愛物語……と思いきや、
なんと、極上のミステリーであった。
実に面白かった。
地味な題材であるにもかかわらず、
2時間があっという間だった。


ヴァージル・オールドマンを演じたのは、
ジェフリー・ラッシュ。
日本でも2011年に大ヒットを記録した映画『英国王のスピーチ』(←クリック)で、
言語療法士を演じていたので、憶えておられる方も多いと思う。
彼の演技がとにかく素晴らしかった。


この映画については、
いろいろ語りたいのだが、
語ってしまえば、ネタバレになってしまうので、
語りたくても語れない。

英題は「The best offer」。
オークションでの、
「本日の目玉、最高の出し物です」
という掛け声らしいが、
「最高の値付け」「最良の出品物」「最高値の入札」
など、いろんな訳が考えられる。
邦題より、こちらの方が、
より映画の本質を捉えているかもしれない。
これが、精一杯のヒントかな?(笑)


とにかく、
「映画を見て下さい」
としか言いようがないのだ。
そして、トルナトーレ監督の巧緻な仕掛けと、
モリコーネの美しい音楽を楽しんで頂きたい。

九州では、
イオンシネマ佐賀大和と、小倉昭和館で、4月5日から上映中。
宮崎キネマ館でも、(3月29日~)4月18日までの上映中。
映画館で、ぜひぜひ。

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