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瀧内公美という女優とは、
『日本で一番悪い奴ら』(2016年)という作品で出逢った。
婦人警官・廣田敏子を演じていたのだが、
出演シーンは少ないものの、私に鮮烈な印象を残した。(レビューはコチラから)
なので、
彼女の主演作『彼女の人生は間違いじゃない』(2017年)は、
わざわざ福岡のKBCシネマまで見に行った。
そして、このブログに、次のように記した。
映画『日本で一番悪い奴ら』を見たとき、
出演シーンは少ないものの、
婦人警官を演じていた女優が強く印象に残った。
〈誰だろう?〉
と思って、公式サイトを見たのだが、
彼女の写真はおろか、名前すら載ってはいなかった。
そこで、独自に調査し、
婦人警官・廣田敏子を演じていたのが、
瀧内公美という名の女優であることを突き止めた。
気になった女優は、写真付きで紹介するのが当ブログの流儀なので、
この『日本で一番悪い奴ら』という映画での、
婦人警官の制服姿の瀧内公美の写真を探したのだが、なかなか見つからず、
ようやく探し出したのが、この写真だった。
私と同じように彼女が気になった人が多かったのだろう、
「日本で一番悪い奴ら 婦人警官」
というキーワード検索(或は画像検索)で、
ブログ「一日の王」のレビュー(の写真)へたどり着く人が思いの外多かった。
(中略)
なによりも瀧内公美の演技が素晴らしかった。
『日本で一番悪い奴ら』を鑑賞したときの「彼女をもっと見たい」という思いが、
この『彼女の人生は間違いじゃない』で満たされた……と言っても過言ではない。
こう言っては何だが、脱ぎっぷりも見事だったし、
その辺にいる顔の売れた若手女優など足元にも及ばないような覚悟が感じられ、
瀧内公美という女優の代表作になるであろう作品だなと思った。
いや、代表作と言うにはまだ早すぎるのかもしれない。
代表作となる作品は、まだまだ先にあるような気もする。
『彼女の人生は間違いじゃない』という作品は、
瀧内公美という女優にとっての、
日本を代表する女優になるためのターニングポイントとなる作品であった……
と、後に語られるような気がした。
(全文はコチラから)
その後、
『ここは退屈迎えに来て』(2018年)
『21世紀の女の子』「Mirror」(2019年)
などで素晴らしい演技で魅せ、
(タイトルをクリックするとレビューが読めます)
柄本佑とのW主演の本作『火口のふたり』に至った。
原作は、白石一文の同名小説。
監督は、荒井晴彦。
今年(2019年)の8月23日に公開された作品であるが、
佐賀では2ヶ月遅れで上映が始まった。
で、ワクワクしながら映画館(シアターシエマ)に駆けつけたのだった。
東日本大震災から7年目の夏。
離婚、退職、再就職後も会社が倒産し、全てを失った永原賢治(柄本佑)は、
かつて恋人だった佐藤直子(瀧内公美)の結婚式に出席するため秋田に帰郷する。
10日後に結婚式を控えた直子は、
新しい生活のため片づけていた荷物の中から、1冊のアルバムを見つける。
そこには一糸纏わぬふたりの姿が、モノクロームの写真に映し出されていた。
蘇ってくるのは、ただ欲望のままに生きていた青春の日々。
久々の再会を果たした賢治と直子は、
「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」
という直子の言葉をきっかけに、
直子の婚約者が戻るまでの5日間、
かつてのように身体を重ね合う。
一度だけと約束したはずの二人だったが、
身体に刻まれた記憶と理性の狭間で翻弄され、
抑えきれない衝動の深みにはまっていく……
ある程度、予想はしていたものの、
ほぼ、瀧内公美と柄本佑しか出演していない映画であった。
賢治の父(電話の声だけで、柄本明がキャスティングされている)も、
その後妻も、
直子の父も、
賢治の別れた妻と子も、
直子の婚約者・北野も、
話には出てくるものの、誰一人登場しない。
二人だけの対話劇のような感じで、
これほどまでに脇役の登場しない作品は珍しい。
本作は、『共喰い』『幼な子われらに生まれ』などの脚本で知られる脚本家・荒井晴彦の、
監督3作目となる作品(もちろん脚本も担当)で、
その脚本が冴えに冴えている。
先程、“対話劇”と書いたが、
その対話は言葉だけにとどまらず、
肉体の対話も意味する。
いや、むしろ、肉体の対話の方が主なのかもしれない。
アルバムの中にあるモノクロームの性愛の写真から始まり、
その欲望のままに生きていた青春の日々をなぞるかのように、
直子(瀧内公美)と賢治(柄本佑)はセックスに耽溺する。
直子と賢治は、いとこの関係にある。
いとことの結婚は法的には認められているものの、
血の濃さやモラルを気にする人も多い。
本作でも、かつて同じ家で育ったいとこ同士が体を求め合うという設定が、
見る者に強いインパクトを残す。
賢治はそのことに引け目を感じていた節があり、
直子が、
「幾乃おばちゃんがね、本当はあんたたちが一緒になればいいと思ってたって、言ってくれたことがあったの」
と、賢治の母の言葉を伝えたとき、
「なぜもっと早くそれを言ってくれなかった……」
と賢治が呟くシーンがある。
引け目を感じるからこその濃密なセックスであったのだが、
母の言葉で賢治が少し安堵したようにも見えた。
それにしても、瀧内公美の肉体が美しい。
そして、艶めかしい。
瀧内公美の魅力は、
その演技力もさることながら、
この肉体にも宿っているような気がする。
『日本で一番悪い奴ら』でも、
『彼女の人生は間違いじゃない』でも、
そして本作『火口のふたり』でも、
瀧内公美の言葉には肉体が感じられ、
肉体には言葉が感じられた。
これほど言葉と肉体が一体となった女優は、めったに存在しない。
この魅力は、TVではなかなか表現しえない類いのものである。
稀有な“映画女優”として、これからもその存在感を示し続けてもらいたい。
『彼女の人生は間違いじゃない』のレビューで、私は、
瀧内公美という女優の代表作になるであろう作品だなと思った。
いや、代表作と言うにはまだ早すぎるのかもしれない。
代表作となる作品は、まだまだ先にあるような気もする。
と期待を述べたが、
不安定な職業ゆえに不安にも思っていた。
そんな私の杞憂を、本作で彼女は軽々とクリアしてみせた。
すでに『彼女の人生は間違いじゃない』は初期の代表作になっており、
『火口のふたり』は、新たな代表作になった。
これからも瀧内公美という女優は、次々に新たな代表作を生み出していくに違いない。
一方の柄本祐。
第5回 「一日の王」映画賞・日本映画(2018年公開作品)で、
『素敵なダイナマイトスキャンダル』『きみの鳥はうたえる』での素晴らしい演技を評価し、
最優秀主演男優賞に選出したが、(コチラを参照)
本作でも、期待に違わぬ演技で我々を魅了する。
演技でも(艶技でも)、自己中心的なものではなく、
瀧内公美を立てるかのような考え抜かれたそれであったことを付け加えておく。
荒井晴彦の脚本、演出も良かった。
荒井晴彦が手掛けた脚本のすべてが素晴らしいとは言えないが、
『赫い髪の女』(1979年)
『遠雷』(1981年)
『Wの悲劇』(1984年)
『ヴァイブレータ』(2003年)
『大鹿村騒動記』(2011年)
『共喰い』(2013年)
『幼な子われらに生まれ』(2017年)
など、これまで、
“傑作”が“そうでないもの”よりはるかに多かった。
特に、『共喰い』は、
『この世界の片隅に』(2016年)よりも3年も前に公開されているにもかかわらず、
『この世界の片隅に』の(片腕を失くした)主人公・すずの後の姿が(結果的に)描かれていて、驚かされる。
ここにこそ本当のすずがいる……と思わされた。
『この世界の片隅に』を100回見るよりも、
『共喰い』を1回見た方が、はるかに有益であることは間違いない。
話が脱線してしまったが、
本作『火口のふたり』は、
名脚本家である荒井晴彦が、
監督としても一流であることを実証してみせた作品なのである。
「R18+」の過激作なので“見る者”は限定されるし、
観客動員にも影響が出るだろうが、
観客を制限してでも見せたいものがあったということだ。
荒井晴彦監督は、某インタビューで、
脚本原理主義とか全身脚本家とか言われてきて、脚本さえよければ映画はよくなると思っていたけど、『火口のふたり』は佑と瀧内を誉める人が多い。青山真治から「70過ぎた高齢者にこんな若い映画を作られて悔しさしか感じません。ど傑作でした」とメールが来て……(後略)
と明かしていたが、
若者がどんどん保守的になっていく中で、
過激老人が増えていくのは、ある意味、良い事である。(笑)
私も大いに見倣いたいと思う。(コラコラ)
老人が保守的になったら、それこそ目も当てられない。(爆)
映画館で、ぜひぜひ。