木南晴夏は私の好きな女優で、
テレビの番組表に彼女の名があると、
ドラマだけではなく、バラエティ番組もなるべく観るようにしている。
昨年(2020年)の11月26日(木)に、
「櫻井・有吉THE夜会」(TBS系)で、
木南晴夏が、常盤貴子と一緒にパン屋巡りをしている模様が放送された。
木南晴夏のパン好きは有名で、
パンシェルジュ検定2級の資格を持ち、
雑誌「おとなの週末」での連載や、
NHK-BSプレミアム「パン旅。」への出演、
イベント「木南晴夏の渋BREAD」を開催するなど、
パンにまつわる活動も精力的に行っている。
昨年(2020年)は初の著書となる本『キナミトパンノホン』(講談社)も出版され、
私はレビューを書いた。(コチラを参照)
そんな木南晴夏であるので、
「櫻井・有吉THE夜会」でのパン屋巡りは楽しく観たのであるが、
なぜ常盤貴子と一緒だったかと言えば、
それは『おとなの事情 スマホをのぞいたら』という映画で共演していたからである。
「櫻井・有吉THE夜会」への出演は、映画の番宣の一環でもあったのだが、
私はそのとき『おとなの事情 スマホをのぞいたら』という映画の存在を知った。
調べてみると、
イタリアのコメディ映画『おとなの事情』(2017年日本公開)のリメイクとのことで、
ある月食の夜に、3組の夫婦と1人の独身男性の計7名で夕食会が開かれ、
スマホにかかってきた電話や届いたメールを公開し合うゲームを始めたことから、
次第に7人の隠された姿が露呈していく……というストーリーであるらしい。
日本版の脚本を担当したのは岡田惠和で、
「ちゅらさん」(2001年)、「おひさま」(2011年)、「ひよっこ」(2017年)
のNHKの連続テレビ小説や、
『世界から猫が消えたなら』(2016年)
『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(2017年)
『いちごの唄』(2019年)
などの映画脚本を手掛けてきた岡田惠和ならば、
一定水準以上の作品になっているのではないかと考えた。
そして、なにより、木南晴夏をスクリーンで見ることができる……
ということで、映画館に向かったのだった。
50代のセレブ夫婦、
精神科医・六甲絵里(鈴木保奈美)
美容外科医・六甲隆(益岡徹)
40代の倦怠期夫婦、
パート勤めの主婦・園山薫(常盤貴子)
法律事務所のパラリーガル・園山零士(田口浩正)
30代の新婚夫婦、
獣医・向井杏(木南晴夏)
カフェレストランの雇われ店長・向井幸治(淵上泰史)
そして、
元教員の塾講師で、モテない独身男・小山三平(東山紀之)
ある出来事をきっかけに結びつき、
年に1度集まっている3組の夫婦と1人の独身男性。
今年も楽しい時間を過ごすはずだったが、
1人の参加者の発言をきっかけに、
それぞれのスマホに届く全てのメールと電話を全員に公開するゲームをすることに。
後ろめたいことは何もないと言いながらも、
実は全員が絶対に知られたくない秘密を抱えており、
自分のスマホが鳴らないことを祈っていた。
スマホに着信があるたびにパーティは修羅場と化し、
事態は予測不能な方向へと転がっていく……
今の時代、
〈持っていない人はいないのではないか……〉
と思えるほどスマホは普及している。
他人には隠しておきたプライベートな趣味嗜好を含め、
すべての個人情報が詰まっているスマホは、
他人に見られては(知られては)ならないものだろうし、
私のような清廉潔白な人間はともかく、(コラコラ)
どんなことがあっても絶対に開示させられないものであろう。
故に、スマホが他人の手に渡れば、
ミステリー映画の
『スマホを落としただけなのに』(2018年)
『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(2020年)
みたいな狂気に満ちた惨劇へと発展していく可能性もある。
本作『おとなの事情 スマホをのぞいたら』では、
3組の夫婦と1人の独身男性の計7名での夕食会で、
それぞれのスマホに届く全てのメールと電話を全員に公開するという設定で、
すべての個人情報を開示するというのとは違うが、
小出しされるそれぞれのプライベート情報が、喜劇と悲劇を生み出す。
電話やメールの着信音が鳴る度に、ヒヤヒヤさせられるが、
序盤は他愛ないものが多く、笑いで済ませられるものばかりだ。
だが、次第に笑えなくなる電話やメールが増えてきて、深刻味が増していく。
最も問題を抱えていそうな園山零士(田口浩正)が、
同じ種類のスマホを使っている小山三平(東山紀之)に、
「スマホを交換してくれ」
と頼んだことから、さらに悲劇は倍増していくのだが、
他人(登場人物)の悲劇は観客にとっては喜劇で、
思わず吹き出してしまうような面白いシーンが続く。
そんな展開で、序盤から中盤にかけては笑いながら見ていたのだが、
問題は終盤。
リメイクの元となったイタリア映画『おとなの事情』は見ていないので、
比較しようがないのだが、
日本版の『おとなの事情 スマホをのぞいたら』は、
やや安易にまとめ過ぎているように感じた。
本来なら離婚に発展しそうな事項ばかりなのに、そうはならず、
なんだか全員、物分かりの好い人になってしまい、
そこが少し物足りなかった。
向井杏を演じた木南晴夏。
内気でネガティブ。
結婚したばかりの幸治(淵上泰史)に対しても不信感を抱き、
〈夫婦間に秘密はあるのか?〉
という疑問から、スマホを見せ合うゲームを提案する。
そう、このゲームの提案者は、向井杏だったのだ。
チャラ過ぎるカフェ(雇われ)店長の夫が信じられずにゲームを提案したものの、
次第に深刻化していく事態に、責任を感じているような……
そんな内気で悩める新妻を、木南晴夏は、
(大袈裟に演じるのではなく)控えめに繊細に演じていて秀逸であった。
園山薫を演じた常盤貴子。
夫と、育ち盛りの子供3人と、姑との、団地暮らし。
明るくしっかり者の主婦だが、家計を支えるためにパート勤務もしており、
忙しい日々にストレスを抱えている……という役。
夕食会に行く直前、スマホに着信があり、
その後、身に着けていたパンティを脱いで出掛けて行くのだが、
なぜそうしたのかが、後に明らかになる。
秘密の多い夫、愚痴を言う姑、3人の子育てにと、
ストレスの多い毎日を過ごす主婦なので、
普通なら色気も何もないものだが、
常盤貴子が演じると、そこはかとなく色気があり、魅了される。
若いときは木村拓哉や豊川悦司と共演するなど人気TVドラマに数多く出演していたが、
40代になってから、大林宣彦監督作品の
『野のなななのか』(2014年)
『花筐/HANAGATAMI』(2017年)
『海辺の映画館―キネマの玉手箱』(2020年)
などに出演するようになり、
女優としての演技の幅も広がった。
1972年4月30日生まれなので現在48歳であるが、(2021年1月現在)
50代の彼女もとても楽しみになってきた。
六甲絵里を演じた鈴木保奈美。
TVに出演することも多い売れっ子の精神科医で、
富と名声を得て、一見何不自由ない生活をしているように見えるが、
日頃から夫に対するうっぷんがたまっており、
その腹いせに○○をする……という役。
「東京ラブストーリー」(1991年1月~3月、フジテレビ)の赤名リカも、
1966年8月14日生まれなので早54歳。(2021年1月現在)
〈こういう役もやるようになったか……〉
と感慨深いが、
夫の六甲隆(益岡徹)と共に(表面を取り繕ったような)セレブ夫婦を演じていて、
最後に明らかになる秘密にも驚かされるし、
鈴木保奈美が演じるからこそのギャップも楽しめる。
私個人としては、
木南晴夏、常盤貴子、鈴木保奈美の競演が見られただけで満足なのであるが、
小山三平を演じた東山紀之、
六甲隆を演じた益岡徹、
園山零士を演じた田口浩正、
向井幸治を演じた淵上泰史ら男優陣の個性あふれる演技も見事で、
大いに楽しませてもらった。
木南晴夏も語っていたことだが、
このまま舞台にできそうな作品で、
(コロナ禍で難しいとは思うが)もし舞台化されたら、ぜひ観に行きたいと思った。
〈70歳を過ぎたらアナログ人間に戻ろう!〉
と思っているので、
私自身は後々スマホを持たない人間になる可能性が高い。(ほんまかいな?)
小さなスマホの中に自分の個人情報がすべて詰め込まれているなんて本当に気味が悪いし、
死ぬ間際には、スマホとは無縁の生活をしていたい。
スマホだけではなく、TVも、パソコンもない、
ただ本だけがある部屋で死んでいきたい。
『あかるい死にかた』という本の中で、木内みどりさんが、
私の理想は五歳児だと思ってるんですけど、五歳児は地図も持ってないお金も持ってない貯金もゼロ、友達もいない、親戚もいない、言葉もしゃべれない、でもあんなに楽しい。だから五歳児くらいの全能感ていうのかしら、あれを手に入れたい。
と語っていたが、
私も5歳の頃に戻るのが理想。
私が5歳の頃は、パソコンやスマホはおろか、TVさえもなかった。
なにもなかったが、
なにもかもが手で触ることができ、
実際に手に触れることでそれを実感できる世界にいた。
死ぬときはそんな世界にいたいと思った。