2011年、
千葉県緑区に、
日本で初めての写実絵画専門館として、
ホキ美術館が開館したとき、
その特徴のある建物の外観と、
美術館の館内の写真を見て、
写実絵画好きの私は、
〈いつかはホキ美術館へ行ってみたい〉
と思ったものであった。
ホキ美術館が目指しているのは、
19世紀のフランスで画家クールベが提唱した狭義な意味での写実主義ではなく、
また、近年、米国を中心に起こった写真を利用して克明に描くスーパーリアリズムでもなく、
16世紀ルネサンス以降の、
ダ・ヴィンチ、レンブラント、フェルメール、シャルダンなどが描いたような、
物の存在感を描きだす写実絵画とのこと。
その考えにも共鳴できたし、
写実絵画の本物をいつかはたっぷりと堪能したいと思っていた。
今年(2017年)になって、
佐賀県立美術館で、
「ホキ美術館名品展」(3月29日~5月14日)が催されることを知った。
狂喜乱舞したのは言うまでもない。
で、先日、さっそく行ってきたのだった。
佐賀県立美術館に到着。
期待が高まる。
いよいよだ。
全部を紹介することはできないので、
私が気に入ったいくつかの絵を紹介したい。
まずは、島村信之の「日差し」。
写真でも、その素晴らしさは少しは判ると思うが、
実際に近くで見ると、その細密さに驚かされる。
皮膚の内側の静脈さえ見えるほどなのだ。
生島浩の「5:55」。
この絵の女性は、
6:00までモデルになっていたそうで、
この後、誰かと会う約束があり、
5:55頃になると、いつもソワソワし、
その焦燥感が表現されている……という噂です。(笑)
森本草介の「未来」。
2011年3月11日の大震災のときに描きかけていた作品で、
1枚はイーゼルから落ちてカンヴァスが破れてしまったが、
この作品はべったりと絵の具が付いただけで事なきを得たとのこと。
画家の作品の底に流れている共通のテーマは「生きる喜び」。
平和を希求する画家の思いがそのタイトルに「未来」とつけさせた。
人物画で、私が最も心惹かれたのは、
塩谷亮の「久遠」。
写真で見たときは、それほど魅力は感じられなかったが、
実物を見て、その表情に魅せられた。
塩谷亮が、奥さんを描いたものだそうだが、
画家の、妻への想いが詰まった作品だなと思った。
「久遠」というタイトルも良いと思った。
風景画では、
原雅幸の「光る海」が好きになった。
写真ではよく判らないが、
この風景の向う側に、光る海がある。
〈この風景の中に居たい〉
と思わせる絵は、良い絵だと思う。
大畑稔浩の「早春(白い影)」。
雪の質感が素晴らしく、
なんだか懐かしさを感じさせる絵であった。
館内には、映像を見る部屋もあり、
ホキ美術館の代表作家たちが“写実絵画の定義”を語っている。
写実絵画とは、
「写真のように実物と寸分違わぬように描くこと」
と思っている人は多いと思うが、
そんな単純なものではないのである。
「抽象以外の具象はすべて写実的なものともいえる。そのなかでも再現性の程度の高いものや細密に描かれているもの」
「写実とは、目の前にある対象を再現することでも模倣することでもなく、その対象のずっと奥にあるものと出合うこと」
「物事の本質を見つめ続け、存在を描くこと」
「現実にある要素を抽出し、人為的な操作を加えて存在するかのように描くもの、また、情緒的な部分を排除し本当に現実に迫るリアリズムもある」
「写生とは違い、前向きにそいでいくように物を見て自分の世界をつくり、自然をもうひとつ再現していくこと」
写真は一瞬を切り取るが、
写実絵画は、通常、長い時間をかけて描かれる。
1年くらいは当たり前で、
3年、4年かけて描かれる絵画もある。
写実絵画は、時を止める絵画ではあるが、
その絵の中には、長い時間と、様々な想いが込められているのである。
出勤前の慌ただしい更新になってしまったが、
この美術展の良さを少しは解って頂けたであろうか。
27名の作家による70点の素晴らしい写実絵画が展示されている「ホキ美術館名品展」。
佐賀県立美術館に、ぜひぜひ。