一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『花腐し』 ……さとうほなみが(最高に)魅力的な荒井晴彦監督の傑作……

2024年01月30日 | 映画


第10回「一日の王」映画賞(2023年公開作品)の発表は2月の上旬を予定しており、
1月中はまだ、昨年(2023年)公開された映画で、
見たかったけれども様々な理由で鑑賞が叶わなかった作品を遅ればせながら見ている。

本作『花腐し』を見たいと思った理由は二つ。

➀さとうほなみの出演作であること。


➁荒井晴彦監督作品であること。




女優としてのさとうほなみとの出逢いは、映画『愛なのに』(2022年)であった。
そのレビューで、私は、さとうほなみについて、次のように記している。

多田の忘れられない存在の女性・一花を演じた、さとうほなみ。


【さとうほなみ】
1989年8月22日生まれ、32歳。(2022年3月現在)
「ほな・いこか」という芸名で活躍している「ゲスの極み乙女。」のドラマー。


2017年より女優活動をスタート。
女優としての活動名義は「さとうほなみ」で、「佐藤穂奈美」名義での活動もある。
映画の出演作は、
『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020年)
『彼女』(2021年)(水原希子とのダブル主演)
などがあり、
今年(2022年)は、『愛なのに』の他、
『恋い焦れ歌え』(5月27日公開予定)も控えている。


「ゲスの極み乙女。」のドラマーとして知られてはいるが、
正直、女優としてここまで本気で活動するとは思っていなかった。
本作『愛なのに』では、エロスの部分を担っており、
惜しげもなく裸体を晒している。
幸か不幸か、(笑)
城定秀夫監督は過去に多くのピンク映画を撮った経験があり、
多田(瀬戸康史)との濡れ場は、いろんな意味で「さすが」の一言。



彼女は時々、柴咲コウに似ている瞬間があり、こちらもいろんな意味でドキッとさせられた。
映画での出演作はまだ少ないが、
限りない可能性を秘めた女優であることを感じさせられた本作であった。



このレビューの最後に、

河合優実を目的に見に行った映画であったが、
河合優実をたっぷり見ることができた満足感もさることながら、
素晴らしい女優(さとうほなみ、向里祐香)との新たな出逢いもあり、
会話劇に大いに笑わされ、楽しめた一作であった。
この数年に見た映画では抜群に面白い映画であったし、
(極私的に)最も好きな作品であった。
何度でも見たいと思ったし、
Blu-rayディスクが発売されたら必ず買おうと思った。(特典映像が楽しみ)


と記したのだが、
その後Blu-rayディスクを買い、『愛なのに』はもう何度も鑑賞している。
特典映像も素晴らしく、何度見ても飽きることがない。
こうして何度も見ているうちに、
河合優実と同じくらい好きなってしまったのが、さとうほなみだ。
最近では、さとうほなみの出演するTVドラマも観るようになったし、
彼女は私の中で「気になる女優」の筆頭に躍り出ていた。
そんなさとうほなみが出演する新作映画『花腐し』は、絶対に見たいと思っていた。



荒井晴彦監督作品『火口のふたり』(2019年)のレビューを書いたとき、
私は荒井晴彦監督について次のように記している。

荒井晴彦の脚本、演出も良かった。
荒井晴彦が手掛けた脚本のすべてが素晴らしいとは言えないが、
『赫い髪の女』(1979年)
『遠雷』(1981年)
『Wの悲劇』(1984年)
『ヴァイブレータ』(2003年)
『大鹿村騒動記』(2011年)
『共喰い』(2013年)
『幼な子われらに生まれ』(2017年)
など、これまで、
“傑作”が“そうでないもの”よりはるかに多かった。
特に、『共喰い』は、
『この世界の片隅に』(2016年)よりも3年も前に公開されているにもかかわらず、
『この世界の片隅に』の(片腕を失くした)主人公・すずの後の姿が(結果的に)描かれていて、驚かされる。
ここにこそ本当のすずがいる……と思わされた。
『この世界の片隅に』を100回見るよりも、
『共喰い』を1回見た方が、はるかに有益であることは間違いない。
話が脱線してしまったが、
本作『火口のふたり』は、
名脚本家である荒井晴彦が、
監督としても一流であることを実証してみせた作品なのである。
「R18+」の過激作なので“見る者”は限定されるし、
観客動員にも影響が出るだろうが、
観客を制限してでも見せたいものがあったということだ。



荒井晴彦監督は、某インタビューで、

脚本原理主義とか全身脚本家とか言われてきて、脚本さえよければ映画はよくなると思っていたけど、『火口のふたり』は佑と瀧内を誉める人が多い。青山真治から「70過ぎた高齢者にこんな若い映画を作られて悔しさしか感じません。ど傑作でした」とメールが来て……(後略)

と明かしていたが、
若者がどんどん保守的になっていく中で、
過激老人が増えていくのは、ある意味、良い事である。(笑)



私も大いに見倣いたいと思う。(コラコラ)
老人が保守的になったら、それこそ目も当てられない。(爆)


第6回 「一日の王」映画賞・日本映画(2019年公開作品)ベストテンで、
私は『火口のふたり』を第2位に選出。
監督としての荒井晴彦も高く評価した。
そんな荒井晴彦監督の新作『花腐し』は見逃せないと思った。



原作は、芥川賞を受賞した松浦寿輝の同名小説。


主演は、綾野剛。
『火口のふたり』にも出演していた柄本佑や、
山崎ハコ、赤座美代子、マキタスポーツ、奥田瑛二など、
魅力的な俳優たちも共演者として名を連ねる。
昨年(2023年)11月10日に公開された作品であるが、
佐賀では、今年(2024年)1月26日から2ヶ月半遅れでやっと公開された。
とても見たかった作品なので、
佐賀での公開初日に、上映館であるシアターシエマで鑑賞したのだった。



廃れつつあるピンク映画業界で生きる監督の栩谷(綾野剛)は、
もう5年も映画を撮れずにいた。


梅雨のある日、栩谷は大家からアパート住人に対する立ち退き交渉を頼まれる。
その男・伊関(柄本佑)はかつて脚本家を目指していた。


栩谷と伊関は会話を重ねるうちに、


自分たちが過去に本気で愛した女が同じ女優・祥子(さとうほなみ)であることに気づく。




3人がしがみついてきた映画への夢が崩れはじめる中、
それぞれの人生が交錯していく……




たまたま出会った男二人が、
「自分たちが過去に本気で愛した女が、同じ女であった」
という、現実にはなかなかあり得ない設定で始まる物語。
男二人、栩谷(綾野剛)と伊関(柄本佑)が出会い会話する現在時は2012年で、
栩谷と祥子(さとうほなみ)との関係は、2000年から3年間で、
伊関と祥子との関係は、2006年から2012年。
男二人は、愛した女が同じ女であったということに終盤まで気づかないが、
映画では、男二人のどちらの過去にも祥子を演じる「さとうほなみ」が出てくるので、
観客には最初から同一人物であることが知らされている。
この映画『花腐し』は、
現在時(2012年)がモノクロで、
それより過去はカラーで撮られている。
祥子を演じる「さとうほなみ」が登場するのは、過去パートなので、
「さとうほなみ」はいつもカラー映像のときに登場する。


なので、
栩谷と祥子、伊関と祥子の絡み(つまり濡れ場)が多い本作は、
セックスシーンはすべてカラーで撮られているということになる。
これが何を意味するかというと、
映画『せかいのおきく』のレビューでも紹介したが、
昔、ピンク映画で、その場面(濡れ場)だけカラーになるパートカラーというのがあったのだが、それと同じなのだ。
荒井晴彦監督は本作のモチーフを「ピンク映画へのレクイエム」と語っていたが、
(ピンク映画と見紛うほどの)セックスシーンの多さもさることながら、
このモノクロとカラーの使い分けにもそれが感じられ、
ピンク映画も多く見てきた私としては感慨深いものがあった。(コラコラ)



セックスシーンも多く(しかもアナルまで攻められる)、
いろんな意味でハードルの高い祥子の役なのだが、
さとうほなみはこの役をオーディションで勝ち取ったという。

私はオーディションで選んでいただきました。荒井監督が脚本と監督を両方やられるということを聞いて、『火口のふたり』を観ていたこともありぜひ参加させていただきたいと思いました。『火口のふたり』は当時関係者試写会で拝見して、最後の方の展開に驚きすぎて「えっ!?」と、声を出してしまったんですよね。その声で、色々な方の集中力を切らしてしまっていたら申し訳ないなと思って、「試写中に声を出してすみませんでした」って謝りにオーディションに行きました(笑)。(「livedoor News」インタビューより)

と、さとうほなみは語っていたが、
(セックスシーンの多い)『火口のふたり』を見た上で決めたということは、
それ相応の覚悟を決めてオーディションに挑んだに違いない。
なので、その脱ぎっぷりも見事であったし、その裸体も見事であった。
この祥子の役は、相当の覚悟を要求される役なので、
清純派女優にはそもそも無理だし、
スクリーンで裸になったことがある(という程度の)女優でも無理だろう。
この祥子を演じられるのは、
さとうほなみ以外では、瀧内公美くらいしか思いつかない。
瀧内公美は私が高く評価する女優であるが、
さとうほなみも(私の中では)瀧内公美と肩を並べるくらいの女優に昇格したといえる。



この映画では、さとうほなみの歌声も聴くことができる。
曲は、山口百恵が歌った「さよならの向う側」。
劇中だけではなく、エンドロール(途中から綾野剛も加わる)にも使われており、
これがなかなか好い。
ミュージシャン・さとうほなみというより、
(当たり前のことであるが)役の中の祥子が歌っているという感じ。
本作は、もう、さとうほなみの魅力満載の映画なのだ。
さとうほなみのファンとしては、
(『愛なのに』と同じく)この『花腐し』のBlu-rayディスクが発売されたら、
必ず買おうと思った。(特典映像が楽しみ)



この映画『花腐し』は、さとうほなみを目的に見に行ったので、
それだけで大満足であったし、
栩谷を演じた綾野剛、伊関を演じた柄本佑については、
(公開されて2ヶ月半以上経っているので)もう彼らのファンが論じていると思うので、私は(あえて)書かないでおこうと思う。(コラコラ)



さとうほなみ、綾野剛、柄本佑以外では、
(出演シーンは少ないが)韓国スナックのママ役で出演していた山崎ハコが良かった。

【山崎ハコ】
1957年5月18日生まれ。66歳。(2024年1月現在)
1975年、ファースト・アルバム「飛・び・ま・す」でレコードデビュー。
シンガーソングライターとして活躍する傍ら、映画音楽も多数手がける。
『ヘヴンズ ストーリー』(瀬々敬久監督、2010年)で、映画女優デビュー。
第25回高崎映画祭で最優秀助演女優賞を受賞。
その他、映画出演作に、
『脳男』(瀧本智行監督、2013年)
『グラスホッパー』(瀧本智行監督、2015年)
『64-ロクヨン- 前編』(瀬々敬久監督、2016年)
『雪子さんの足音』(浜野佐知監督、2019年)
などがある。


フォークギターの弾き語りで、
女の情念や怨念といった心情を土俗的なイメージとともに哀しく切々と歌い上げ、
1970年代から80年代にかけて、熱狂的なファンを獲得していた。
私も好きだったし、
1981年、九州の炭鉱地帯を舞台とした五木寛之原作の映画『青春の門』の音楽を担当し、
(ヒットした)九州弁で書かれた五木寛之作詞の主題歌「織江の唄」を、
今でも懐かしく思い出す。


『ヘヴンズ ストーリー』『脳男』『64-ロクヨン- 前編』などで、
山崎ハコの演技は見て知ってはいたが、
前期高齢者となった山崎ハコはまた格別で、
「キムチはタダよ」
と言う(過去まで感じ取れるような)彼女の唯一無二の演技、存在感に、
既存の女優にはないものを感じ取れたし、素晴らしかった。



さとうほなみも山崎ハコもミュージシャンであり、俳優でもあるのだが、
アパートの大家・金昌勇を演じたマキタスポーツもまた、
ミュージシャンであり、俳優でり、芸人であり、文筆家でもある。
この道一筋の人よりも、なんでもできる人を尊敬する私としては、
マキタスポーツもまた好きな俳優の一人である。
いろんなことをやっているのが役者としても好い味になっているし、
マキタスポーツにしか出せない雰囲気を醸し出しているし、
本作でも得体のしれない大家の役を巧く演じている。
出演シーンは短いが、見る者に強烈な印象を残す。



栩谷(綾野剛)が訪れるピンク映画の製作会社社長・小倉を演じた赤座美代子も良かった。
若き頃に、いろんなドラマや映画に出演していたのを思い出すが、
その赤座美代子も1944年2月10日生まれなので、79歳。(2024年1月現在)
〈もうすぐ80歳なのか……〉
と、しばし感慨にふける。
80歳近くになっても、多くの作品に出演しているが嬉しい。
彼女も(出演シーンは少ないが)記憶に残る演技をしていて秀逸だ。



この映画『花腐し』には、
中国人留学⽣・リンリンを演じたMINAMO、


韓国人留学生・ハン・ユジョンを演じたNiaという、


現役のAV女優も出演していて、「R18+」指定の映画であることを再認識させられるし、
本作が単なる「ピンク映画へのレクイエム」ではないことを、見る者に知らしめる。
137分と、やや長めの尺ではあったが、
まったく飽きさせずに見させ、魅せる傑作であった。



さとうほなみは主演ではなかったが、
過去パートのカラー映像のシーンには、必ず出てくるし、
綾野剛や柄本佑と同じくらいスクリーンに登場する。
「一日の王」映画賞では、主演女優賞としてノミネートさせようと思っているし、
映画『花腐し』は現時点での彼女の代表作だと思った。
さとうほなみに逢いたくなったら、
また『花腐し』(それと『愛なのに』)を見ることにしよう。

この記事についてブログを書く
« 近くの里山 ……セリバオウレ... | トップ | 映画『ほかげ』 ……趣里と塚... »