脇役ブームだそうである。
遠藤憲一や松重豊など、
名バイ・プレイヤーと呼ばれていた脇役俳優が、
TVCMや雑誌などで一躍脚光を浴びるようになり、
映画制作の現場でも、その流れがきているように感じる。
今回紹介するのは、
そんな脇役ブームを牽引する男優の一人、安田顕が主演を務める『俳優 亀岡拓次』。
安田顕といえば、
大泉洋などが所属する人気演劇ユニット「TEAM NACS」のメンバーで、
幅広い役柄をこなすことで知られているが、
映画『俳優 亀岡拓次』は、
そのヤスケンが、脇役俳優役で主演するという、(ここ重要)
ユーモラスでハートフルな「酒と仕事と恋」の物語なのだ。
原作は、
自身も劇団を持ち、俳優としても活躍する作家の戌井昭人による小説『俳優・亀岡拓次』。
監督は、
『ウルトラミラクルラブストーリー』の横浜聡子。
亀岡が恋に落ちる居酒屋の女将役を麻生久美子が演じるほか、
三田佳子、山崎努、染谷将太、新井浩文、杉田かおる、新井浩文、宇野祥平など、
豪華キャストが共演している。
まあ、正直に告白すると、
私的には、
麻生久美子に逢いたくて映画を見に行ったのだが、(コラコラ)
それは極私的に期待以上で、
横浜聡子監督はそういった麻生久美子ファンの夢を裏切らない演出で、
私をはじめとする男どもを満足させてくれたのであった。
亀岡拓次(安田顕)、37歳、独身。
職業は一応俳優だが、
映画やTVドラマでよく見かけはするが、
作品名や本人の名前はすぐにはパッと浮かばない……
その程度の脇役俳優。
泥棒、チンピラ、ホームレス……演じた役は数知れず。
大作から自主映画まで、
呼ばれればどこへでも出かけて行き、
どんな役でも応じ、
断ることはほとんどない。
故に、監督やスタッフたちからは、
「現場に奇跡を呼ぶ“最強の脇役”」として、
大変重宝され、愛されている。
趣味は、
さびれた飲み屋で一人お酒を楽しむことで、
彼女もおらず、贅沢もせず、
地味にひっそりと生活し、
撮影現場と酒場を行き来する毎日を送っている。
そんなある日の夜、
ロケ先で訪れた長野県諏訪市でのこと。
初めて入った居酒屋「ムロタ」のカウンター席で、
うとうと眠りこけていた亀岡。
おやじさんが一人でやっていたお店だったが、
冷たい隙間風に起こされると、
そこには美しい若女将(麻生久美子)の姿があった。
名は安曇野にちなんだ安曇。
地元の名物だという寒天をつまみながら、
気の利いた彼女の会話にすっかり癒される亀岡。
「淋しくなったら、また飲みに来てくださいよ」
優しく微笑む安曇に、亀岡は恋をしてしまう。
甘い時間も束の間、
再びロケや撮影所など、都内から地方へと忙しく飛び回る日々。
はじめて引き受けた舞台の仕事で、劇団・陽光座の稽古場にも通う。
ある日、亀岡に大きなチャンスが訪れる。
彼が心酔する世界的巨匠、アラン・スペッソ監督が極秘で来日しており、
その新作オーディションを受けることになったのだ。
カメタクの一世一代の恋の行方は?
そして初の海外進出なるのか……
脇役俳優といえども、
僅かな出演時間に強い印象を残そうとして、
余計なアクションをしがちだ。
「撃たれたらすぐ死んで」
と言われても、
大袈裟にもがいたりして監督に叱られたりする。
だが、亀岡拓次は違う。
「撃たれたらすぐ死んで」
と言われたら、
無駄な動きはせずに、
まっすぐ後ろに倒れて、すぐに死ぬ(演技をする)。
監督から言われたことは忠実に実行する。
そんな俳優だから、
インディーズの映画(監督は染谷将太)にも、
Vシネマの映画(監督は新井浩文)にも、
大御所監督(山崎努)の映画にも、お声がかかり、
「現場に奇跡を呼ぶ“最強の脇役”」として、
大変重宝され、愛されている。
ヒーローになろうという意欲が感じられない。
目がどんよりして、死んでいる。
お金もなさそう。
映画を見ているうちに、
そんな亀岡拓次に、どんどん引き込まれていってしまう。
現実、非現実の境目がなくなって、
見ている者も亀岡拓次に同化してしまいそうになる。
それが、心地よくもなってくる。
映画や舞台の脇役俳優の物語であるが、
どんな社会、どんな分野でも、
「こんな人、いるいる」
と思わせる妙なリアル感があり、それがイイ。
ヒーロー、ヒロインになりたがるのは、若い頃だけで、
中年以降の年代になると、
亀岡拓次的生き方が、ある意味、男の理想ではないか……
と思わせる。
見る者は、亀岡拓次となり、
地方のさびれた居酒屋へ入る。
おやじさんが一人でやっている店で、
心地好く酔って、カウンターで眠りこける。
おやじさんの友人が誘いにきたので、
娘に店番を頼んでおやじさんが出て行く。
戸の開け閉めで生じた冷たい隙間風が、
亀岡拓次の頬をなでる。
顔を上げると、
そこには美しい若女将(麻生久美子)の姿がある。
これはもう中年以降の男性の夢やね。(笑)
しかも、目の前にいるのが、麻生久美子。
ありえないことを実現してくれるのが、映画。
そういう意味で、横浜聡子監督は、
世の中年以降の男性の夢を叶えてくれたといえる。
諏訪の名物“寒天”を切る指先の美しさ。
お客を気遣う優しい眼差し、
熱燗をグイッと飲み干して、酔った素振り、
ふとした仕草に、会話に、
芯のある女性の清潔な色気が漂う。
〈あかん、惚れてもうた〉
と、心の中で叫んでしまう。
それは、亀岡拓次の叫びであり、
映画を見ている男どもの叫びでもある。(コラコラ)
こんな心地よい空間は、
昨年見た映画『深夜食堂』以来である。
私など、ずっと、居酒屋「ムロタ」にいたいと思ったほど。
居酒屋「ムロタ」の麻生久美子とシーンは、
約2時間の上映時間の4分の1、
30分ほどしかない。
残りの4分の3は、
亀岡拓次が撮影しているシーンや、
舞台稽古しているシーンや、
オーディションを受けているシーンなどである。
亀岡拓次の地味な日常と、
映画や舞台の非日常が交差し、
現実と非現実が縦横無尽に訪れる。
この辺りの演出は、
横浜聡子監督の真骨頂であり、
見ている者もクラクラするほど酩酊状態にされてしまう。
ここが(評価の)賛否が分かれるところでもあるのだが……
かつて、開高健は、
他人さまの作品を判断するボクの基準は、実に簡単です。とくに新人賞、芥川賞の選考のときもそうだけど、ボクは作品中に一言半句、鮮烈な文句があればもう充分だというのが私の説やね。一言半句でいいんだ。ところが、これが実にない。数万語費して一言半句でいいんだ。その人の将来性、賞をもらって修練すれば、獲得されるだろう魅力、あるいは修練しなくても、それ以前のもう手のつけようのない才能の鉱脈、こういうものはその一言半句に現われているものです。
と語ったことがあった。
映画『亀岡拓次』における一言半句は、
(これは私の極私的意見ではあるのだが)
熱燗をグイッと飲み干す麻生久美子の表情にあった。
この一言半句を確かめに、
機会がありましたら、ぜひぜひ。
遠藤憲一や松重豊など、
名バイ・プレイヤーと呼ばれていた脇役俳優が、
TVCMや雑誌などで一躍脚光を浴びるようになり、
映画制作の現場でも、その流れがきているように感じる。
今回紹介するのは、
そんな脇役ブームを牽引する男優の一人、安田顕が主演を務める『俳優 亀岡拓次』。
安田顕といえば、
大泉洋などが所属する人気演劇ユニット「TEAM NACS」のメンバーで、
幅広い役柄をこなすことで知られているが、
映画『俳優 亀岡拓次』は、
そのヤスケンが、脇役俳優役で主演するという、(ここ重要)
ユーモラスでハートフルな「酒と仕事と恋」の物語なのだ。
原作は、
自身も劇団を持ち、俳優としても活躍する作家の戌井昭人による小説『俳優・亀岡拓次』。
監督は、
『ウルトラミラクルラブストーリー』の横浜聡子。
亀岡が恋に落ちる居酒屋の女将役を麻生久美子が演じるほか、
三田佳子、山崎努、染谷将太、新井浩文、杉田かおる、新井浩文、宇野祥平など、
豪華キャストが共演している。
まあ、正直に告白すると、
私的には、
麻生久美子に逢いたくて映画を見に行ったのだが、(コラコラ)
それは極私的に期待以上で、
横浜聡子監督はそういった麻生久美子ファンの夢を裏切らない演出で、
私をはじめとする男どもを満足させてくれたのであった。
亀岡拓次(安田顕)、37歳、独身。
職業は一応俳優だが、
映画やTVドラマでよく見かけはするが、
作品名や本人の名前はすぐにはパッと浮かばない……
その程度の脇役俳優。
泥棒、チンピラ、ホームレス……演じた役は数知れず。
大作から自主映画まで、
呼ばれればどこへでも出かけて行き、
どんな役でも応じ、
断ることはほとんどない。
故に、監督やスタッフたちからは、
「現場に奇跡を呼ぶ“最強の脇役”」として、
大変重宝され、愛されている。
趣味は、
さびれた飲み屋で一人お酒を楽しむことで、
彼女もおらず、贅沢もせず、
地味にひっそりと生活し、
撮影現場と酒場を行き来する毎日を送っている。
そんなある日の夜、
ロケ先で訪れた長野県諏訪市でのこと。
初めて入った居酒屋「ムロタ」のカウンター席で、
うとうと眠りこけていた亀岡。
おやじさんが一人でやっていたお店だったが、
冷たい隙間風に起こされると、
そこには美しい若女将(麻生久美子)の姿があった。
名は安曇野にちなんだ安曇。
地元の名物だという寒天をつまみながら、
気の利いた彼女の会話にすっかり癒される亀岡。
「淋しくなったら、また飲みに来てくださいよ」
優しく微笑む安曇に、亀岡は恋をしてしまう。
甘い時間も束の間、
再びロケや撮影所など、都内から地方へと忙しく飛び回る日々。
はじめて引き受けた舞台の仕事で、劇団・陽光座の稽古場にも通う。
ある日、亀岡に大きなチャンスが訪れる。
彼が心酔する世界的巨匠、アラン・スペッソ監督が極秘で来日しており、
その新作オーディションを受けることになったのだ。
カメタクの一世一代の恋の行方は?
そして初の海外進出なるのか……
脇役俳優といえども、
僅かな出演時間に強い印象を残そうとして、
余計なアクションをしがちだ。
「撃たれたらすぐ死んで」
と言われても、
大袈裟にもがいたりして監督に叱られたりする。
だが、亀岡拓次は違う。
「撃たれたらすぐ死んで」
と言われたら、
無駄な動きはせずに、
まっすぐ後ろに倒れて、すぐに死ぬ(演技をする)。
監督から言われたことは忠実に実行する。
そんな俳優だから、
インディーズの映画(監督は染谷将太)にも、
Vシネマの映画(監督は新井浩文)にも、
大御所監督(山崎努)の映画にも、お声がかかり、
「現場に奇跡を呼ぶ“最強の脇役”」として、
大変重宝され、愛されている。
ヒーローになろうという意欲が感じられない。
目がどんよりして、死んでいる。
お金もなさそう。
映画を見ているうちに、
そんな亀岡拓次に、どんどん引き込まれていってしまう。
現実、非現実の境目がなくなって、
見ている者も亀岡拓次に同化してしまいそうになる。
それが、心地よくもなってくる。
映画や舞台の脇役俳優の物語であるが、
どんな社会、どんな分野でも、
「こんな人、いるいる」
と思わせる妙なリアル感があり、それがイイ。
ヒーロー、ヒロインになりたがるのは、若い頃だけで、
中年以降の年代になると、
亀岡拓次的生き方が、ある意味、男の理想ではないか……
と思わせる。
見る者は、亀岡拓次となり、
地方のさびれた居酒屋へ入る。
おやじさんが一人でやっている店で、
心地好く酔って、カウンターで眠りこける。
おやじさんの友人が誘いにきたので、
娘に店番を頼んでおやじさんが出て行く。
戸の開け閉めで生じた冷たい隙間風が、
亀岡拓次の頬をなでる。
顔を上げると、
そこには美しい若女将(麻生久美子)の姿がある。
これはもう中年以降の男性の夢やね。(笑)
しかも、目の前にいるのが、麻生久美子。
ありえないことを実現してくれるのが、映画。
そういう意味で、横浜聡子監督は、
世の中年以降の男性の夢を叶えてくれたといえる。
諏訪の名物“寒天”を切る指先の美しさ。
お客を気遣う優しい眼差し、
熱燗をグイッと飲み干して、酔った素振り、
ふとした仕草に、会話に、
芯のある女性の清潔な色気が漂う。
〈あかん、惚れてもうた〉
と、心の中で叫んでしまう。
それは、亀岡拓次の叫びであり、
映画を見ている男どもの叫びでもある。(コラコラ)
こんな心地よい空間は、
昨年見た映画『深夜食堂』以来である。
私など、ずっと、居酒屋「ムロタ」にいたいと思ったほど。
居酒屋「ムロタ」の麻生久美子とシーンは、
約2時間の上映時間の4分の1、
30分ほどしかない。
残りの4分の3は、
亀岡拓次が撮影しているシーンや、
舞台稽古しているシーンや、
オーディションを受けているシーンなどである。
亀岡拓次の地味な日常と、
映画や舞台の非日常が交差し、
現実と非現実が縦横無尽に訪れる。
この辺りの演出は、
横浜聡子監督の真骨頂であり、
見ている者もクラクラするほど酩酊状態にされてしまう。
ここが(評価の)賛否が分かれるところでもあるのだが……
かつて、開高健は、
他人さまの作品を判断するボクの基準は、実に簡単です。とくに新人賞、芥川賞の選考のときもそうだけど、ボクは作品中に一言半句、鮮烈な文句があればもう充分だというのが私の説やね。一言半句でいいんだ。ところが、これが実にない。数万語費して一言半句でいいんだ。その人の将来性、賞をもらって修練すれば、獲得されるだろう魅力、あるいは修練しなくても、それ以前のもう手のつけようのない才能の鉱脈、こういうものはその一言半句に現われているものです。
と語ったことがあった。
映画『亀岡拓次』における一言半句は、
(これは私の極私的意見ではあるのだが)
熱燗をグイッと飲み干す麻生久美子の表情にあった。
この一言半句を確かめに、
機会がありましたら、ぜひぜひ。