気が向いたときや、
ふと思い出したときにブログを更新すると決め、
ブログ更新の回数を減らしてから、毎日が楽になった。
毎日更新していたわけでもないのに、
2、3日おきとは言え、15年近くブログを書いてきて、
どこか重荷になっていたのだと思う。
以前よりもブログへの訪問者数が増えたことにより、
期待に応えたいという使命感や義務感もあったように感じる。
山登りや、読書や、映画鑑賞で得た“至福のひととき”を、
記録として残しておきたいと思って始めたブログであったが、
ここ数年は、
ブログに書くために、山登りや、読書や、映画鑑賞をしているような感じになっていた。
前期高齢者になって1年が過ぎ、
〈こんなことではダメだ!〉
と思うようになった。
原点に帰ろうと思った。
ブログ更新は二の次にして、
まずは、山登りや、読書や、映画を、心ゆくまで楽しむこと。
ブログ更新はしてもしなくてもよし。
気が向いたときや、ふと思い出したときにすればよい。
そう決めてから、本当に毎日が楽しくなった。
パソコンの前に座らない日も多くなった。
他人のSNSはほとんど見なくなった。
ゆくゆくはアナログ人間に戻ろうと思っているので、
これが、そうなるための第一段階のように思っている。
映画『チィファの手紙』のレビューにも書いたが、
最近は、見たい映画がないので、
山登りに行かない日は、本ばかり読んでいる。
これが実に楽しい。
ミステリー小説は好きだが、
他にも読みたいジャンルの本はたくさんあるし、
ミステリー小説マニアではないので、
ミステリー評論家などが薦める本を中心に読んでいる。
毎年、年末に出版される「このミステリーがすごい!」や、
毎年、年末に特集される週刊文春の「ミステリーベスト10」などは、
とても参考になるし、心待ちにして読んでいる。
それらを参考にして最近読んだのが、
辻真先の『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』。
「このミステリーがすごい! 2021年版」国内編・第1位
「週刊文春」2020ミステリーベスト10 国内部門・第1位
「ハヤカワ・ミステリマガジン」ミステリが読みたい! 国内篇・第1位
と、ミステリランキング3冠を成し遂げた青春本格ミステリーで、
タイトルにも惹かれた。
で、読了した感想はというと……
昭和24年、
ミステリー作家を目指しているカツ丼こと風早勝利は、
名古屋市内の新制高校3年生になった。
旧制中学卒業後の、たった一年だけの男女共学の高校生活。
そんな中、顧問・別宮操の勧めで勝利たち推理小説研究会は、
映画研究会と合同で一泊旅行を計画する。
別宮操(28歳)東名学園高校代用教員。あだ名は「巴御前」。
風早勝利(17歳)東名学園高校3年生。あだ名は「カツ丼」。
咲原鏡子(17歳)東名学園高校3年生。あだ名は「クーニャン」。
大杉日出夫(18歳)東名学園高校3年生。あだ名は「トースト」。
薬師寺弥生(17歳)東名学園高校3年生。あだ名は「姫」。
神北礼子(18歳)東名学園高校3年生。あだ名は「級長」。
顧問と男女生徒5名での、
湯谷温泉へ修学旅行代わりの小旅行だった。
そこで巻き込まれた密室殺人事件。
さらに夏休み最終日の夜、キティ台風が襲来する中、
廃墟で、首切り殺人事件が起きる。
二つの不可解な事件に遭遇した勝利たちに、
映画館の看板絵描きをしながら名探偵ぶりも発揮する那珂一兵も加わり、
事件の意外な真相が暴かれていく……
昭和24年の名古屋の新制高校が舞台ということで、
著者自らが経験した戦後日本の混乱期と、青春の日々が描かれており、
とても面白く読ませてもらった。
私は昭和29年生まれなので、
昭和24年はもちろん経験していないが、
私が生まれ育った長崎県佐世保市の昭和30年代も、
戦後の名残がまだ色濃く漂っていて、
街角には(物乞いする)傷痍軍人や、
大手を振って闊歩する駐留軍の米兵が数多くいたし、
防空壕を利用した店や、外人バーなども数多くあったので、
本書『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』に描かれている街の様子や、
そこに生きる人々の言葉や行動に、ある種の懐かしさのようなものを感じた。
推理小説研究会や映画研究会での生徒たちのクラブ活動が、
事件に大きく関わっており、
当時の推理小説や映画のこともふんだんに盛り込まれていたこともあって、
ミステリー好き、映画好きの私としては、
そういう意味でも興味が増したし、面白味も増したような気がする。
登場人物のキャラクターも際立っていて、
私は、特に、咲原鏡子に惹かれた。
詳しくは書けないが、
この時代なればこそのキャラクターで、
殊に132頁で描写される彼女に感動した。
今年(2020年)米寿を迎えたミステリー界のレジェンド・辻真先なればこその、
長い人生経験に裏打ちされた描写や人物造形に感心させられるし、
88歳の今もみずみずしい文章を書くことのできる著者には尊敬の念しかなく、
老いても活躍されている姿に、私自身も勇気をもらえたし、希望も抱かされた。
冒頭にも書いたが、
本書は“本格ミステリー”なので、
小説の中盤に、「読者への質問状」が用意されている。
この遊び心も好いし、
ラストの謎解きも鮮やか。
なぜこのタイトルなのかも判明するし、
読み終えると、また冒頭から読み返したくなる。
これはミステリー小説として優れているという証しであろう。
本作は、
『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』(2018年8月 東京創元社)
に続く、“昭和ミステリー”第2弾で、
『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』(2020年5月 東京創元社)
の次に、第3弾として、
昭和36年を舞台にしたミステリーが予定されている。
はたしてどんな作品になるのか?
楽しみでならない。
いつまでもお元気で執筆を続けられんことを……