一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

エッセイスト・山本ふみこさんの「あさってより先は、見ない」という考えに共感。

2024年07月20日 | 人生の一日


先日(7月12日)、常盤貴子さんが司会をしている、
「いろどりハピネス わたしらしく心地よい暮らし」(NHK・Eテレ)という番組を観た。


〈自分らしく心地よく暮らしたい!〉
そんな思いを抱く人は多いのではないだろうか……
その一歩をどうやって踏み出せばいいのか?
それを実現させた女性を紹介し、
彩りある豊かな人生へのヒントを届ける番組で、
今回は、「この先の暮らし」をどう楽しみたいか考え、実現させた二人の女性が登場した。
一人は、
子どもが独立し、夫婦二人の暮らしになったことをきっかけに、
古民家暮らしを始めた山本ふみこさん。
そして、もう一人は、
60代になって趣味がほしいと「Mimi's life」という動画配信を始めところ、
登録者数7.37万人(2024年7月20日現在)の人気ユーチューバーとなったMimiさん。


私は特に、古民家暮らしを始めた山本ふみこさんの方に関心を持った。


山本ふみこさんは、
2021年5月、62歳のときに、東京から埼玉・熊谷へ移住。
古さと新しさが入り混じる、築150年の古民家に暮らしている。
人気エッセイストとのことだが、私は(不勉強で)知らなかった。

【山本ふみこ】
1958年、北海道小樽市生まれ。随筆家。「ふみ虫舎」エッセイ講座主宰。
自由学園最高学部卒業。
出版社勤務をへて文筆業へ。
日々の暮らしに寄せるあたたかな視点が読者の共感を集めている。
東京都武蔵野市教育委員や東京都市町村教育委員会連合会会長を歴任。
著書に『忘れてはいけないことを、書きつけました。』(清流出版)、『家のしごと』(ミシマ社)など多数。



近著には、
引っ越し前後のことと現在の日常を綴った、
『あさってより先は、見ない。』(清流出版)があるそうで、
そのタイトルが好いなと思った。


調べてみると、この本の冒頭に、

わたしのなかにだって「心配」のタネは蒔かれ、それが育とうとする瞬間瞬間はあります。が、まだ起きていないそんな事ごとに気をとられている暇があったら、毎日をおもしろがって生きようと思い直すのです。困ることが起きたら、そのとき困ろうと、思い直すのです。

という文章があり、
私は、その考えに共感した。



以前、このブログで、
『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』という本のレビューを書いたとき、
著者・多良美智子さんの、

先のことはあまり考えません。そのときになったら、どうにかなると思っています。実際にそうなってきました。だから、今も将来を心配していません。「どうにかなるだろう」と。
それよりも、今このときを楽しみたい。日々前向きに。


という言葉を引用し、

過ぎ去れるを追うなかれ。
いまだ来たらざるを念(ねが)うことなかれ。
過去、そはすでに捨てられたり。
未来、そはいまだ到らざるなり。
されば、ただ現在するところのものを、
そのところにおいてよく観察すべし。
揺らぐことなく、動ずることなく、
そを見きわめ、そを実践すべし。
ただ今日まさに作(な)すべきことを熱心になせ。(釈迦)

あすのことは思いわずらうな。
あすのことは、あす自身が思いわずらうであろう。
一日の労苦は、その日一日だけで十分である。(マタイによる福音書6章・34節)


という先人の言葉を紹介し、

先のことばかり思いわずらっていると、「今」がおろそかになってしまう。
「今」を大事に、「今」を楽しみ、「今」を全力で生きることが、「明日」へとつながるのだ。


と書いた。
山本ふみこさんの『あさってより先は、見ない。』という言葉にも、
それに通じるものがあると思ったし、
山本ふみこさんに魅かれたのも、
そんな考えを土台に生きている人だからだろうと思った。



昔、『一日暮し』(水上勉)という本を読んだ。
心筋梗塞で倒れ、死の淵をさまよった水上勉さんは、
「一日だけよく生きる」と考えれば、人間はどれほど重荷から解放されることだろう、
「一日だけ」と思えばどんな苦難にも耐えられるだろう……
と、「一日暮らし」という江戸時代の禅僧、正受老人の教えに辿りつく。
命はあしたで終わりかもしれないのだ。
モノがどれほどあっても、心の豊かさとは関係ない。
中国の禅僧、天祖慧能の「本来無一物」という思想にも言及し、
現代人の生き方に警鐘を鳴らす貴重な一書であった。


落合恵子さんにも『積極的その日暮らし』という本があるし、


森まゆみさんにも、『その日暮らし』という本がある。


成果主義や資本主義とは異なる価値観で豊かに生きる人々や社会を文化人類学者が論じた、
『「その日暮らし」の人類学~もう一つの資本主義経済~』(小川さやか)という本もある。


「その日暮らし」というと、一般的に悪いイメージを持たれている方が多いと思うが、
これからは、トレンドになるかもしれない。(笑)



私は、今夏、70歳になる。
私は、あらかじめある年齢を超えたら、
「もう十分に生きた」と満足する心づもりをしていて、
その設定が70歳だった。
国や保険会社などは「人生100年時代」と連呼しているが、
私は全然信じていなくて、
人間の躰は、内臓や歯や目などの各機能の寿命は70歳くらいだと思っている。
(後は、各人の持って生まれた体質、生活習慣、メンテナンスの努力、それと運次第)
なので、今夏、70歳になったならば、
後は私の人生におけるアディショナルタイムになる。
アディショナルタイムがどのくらい残されているのかは分からない。
アディショナルタイムが終了しても、延長戦に入るかもしれない。(笑)
それでも決着がつかなければPK戦に突入するかもしれない。(爆)
いずれにしても先のことは分からないのだから、
一瞬一瞬を大切に、「今を精一杯生きる」しかないと思っている。




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