一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

馬渡島・番所ノ辻 ……玄界灘の美しき島にある一等三角点の秀峰……

2010年08月29日 | その他・佐賀県の山
8月も下旬だというのに猛暑が続いている。
「こんな時は、山よりも海でしょう」
ということで、海に行った。
いや、海に行ったけれども、実は山に行った。
いやいや、山に行くために海に行った。
いやいやいや、海にある山に登るために海に行った。
(何言うとんねん)
暑さで、何を言っているのか自分でも分からなくなってきた。

以前より気になっている山があった。
ガイドブックに載っている佐賀県の山はほとんど登ったので、佐賀県の地図を見て、あまり知られていない山を探していた時のこと。
玄界灘に浮かぶ馬渡島(まだらじま)に、一等三角点の山を見つけた。
番所ノ辻(237.9m)といい、鎮西町でいちばん高い山である。
いつか機会があったら、ぜひ登ってみたいと思っていた。
だが、いかんせん、島にある山である。
なかなかその機会は訪れなかった。

8月29日(日)に、どの山に行こうかと迷っていた。
その時、ふと馬渡島の番所ノ辻のことが思い出された。
暑い夏に、洋上の山に登る……
なんだか涼しげな気がした。
島旅というのも、なんだかロマンをかきたてられるではないか。
この思いつきに、自分で自分を褒めたくなった。(オイオイ)
ひとりで行くのはもったいない気がした。
平六さんに連絡すると、「行きます」とのこと。
こうして、平六さんと私の馬渡島行きが決まった。

私の住む町の某所で待ち合わせ。
待ち合わせ場所から、天山の美しい姿を拝むことができた。


馬渡島への船は呼子港から出る。
始発は8時20分。
かなり早く着いたので、朝市に行く。
平六さん、イカの一夜干しや梨を買っておられた。



出航時間が近くなり、港に行くと、小川島行きの乗り場に「そよかぜ」という名の船があった。
そよかぜさんの船だろうか?(んなわけない)


馬渡島行きの「郵正丸」(ゆうしょうまる)と一緒に記念写真。
釣り人ばかりの乗客の中で、登山姿の我々ふたりは、ちょっと異様だった。


8:20 船が港を出る。
呼子の町が遠ざかっていく。


呼子大橋を抜ける。


船尾に立ち、じっと彼方を眺めていた平六さん、何を考えていたのだろうか?


馬渡島が見えてきた。
馬渡島は、波戸岬より北西8kmの沖合にある玄海諸島のひとつ。
北は約25kmを隔てて長崎県壱岐があり、南は約10kmに向島がある。
島全体が火山岩で覆われ平地はほとんどない。
東西約5km、南北約4km、周囲約12.5kmのやや楕円形をなしている。
面積は、約4.13平方km。
海岸は、大部分が断崖。
特に西側はすごい断崖になっている。
玄海国立公園の一角をなす景勝の地として知られる。
あの中央のとんがりが番所ノ辻(237.9m)。
美しい形の山である。


9:02 馬渡島に到着。


案内板で、番所ノ辻を確認。
左上にある番号①が番所ノ辻。


出発準備をして歩き出す。
9:14 馬渡神社を通過。


蒼空の下、海沿いの道を歩いて行く。


海を覗くと、魚がたくさん泳いでいた。


「タクさんは、こういう風景好きでしょう!」
と平六さん。
確かに。


舗装された道なので、照り返しで暑い。
汗が噴き出してくる。
道沿いのタカサゴユリやオトギリソウを愛でながらゆっくり歩く。



馬渡島は野鳥の宝庫で、ツグミなどの小さな冬鳥の大群が島伝いに大陸に渡る際の休息地であり、この小鳥たちを狙うハヤブサ、ミサゴ、ハイタカなどの猛禽類が多く生息している。
道を歩いているだけで、この猛禽類の野鳥によく出くわした。
大きくて堂々としており、近くにいるとちょっと怖いくらいだ。


9:51 正面に番所ノ辻が見えてきた。
すぐ近くに見えるが、ここからが遠かった。


海が見える眺めの良い場所があり、しばし風景を楽しむ。


ここから最後の登り。


山頂の展望台が見えてきた。


10:24 番所ノ辻山頂に到着。


堂々たる一等三角点。


山頂からの眺めは抜群。
右手前が松島。
後ろが加唐島。


遠くに霞む二神島。
釣りのメッカとか。


360度の展望。
海を見ているだけで、心が安らいでくる。


山頂からしばらく下った所で、福岡から来た登山者とすれ違った。
山を趣味にしているという感じではなく、「眺めが良さそうだから登ってきた」とのこと。
いろんな人がいるもんだ。


大山(202m)が見える場所で、直角に切り落としたような西側の断崖絶壁を眺める。
この風景が素晴らしかった。


崖下の海の色が、エメラルドグリーン。
美しかった~


地元の人に訊いたところ、この大山への道はヤブ化しているとのこと。
今日は帰りの船の時間の関係で行けなかったが、いつの日か大山にも登ってみたい。
5~6月頃には大山一面にヤマユリが咲き誇り、番所ノ辻から見る景色は絶景とのこと。
来年のヤマユリの咲く頃に、ぜひまた訪れたいと思った。


この辺りも花がたくさん咲いていた。



平六さんが、「この島にはクロツバメシジミという小さな蝶が生息しています」と教えてくれた。
探してみると、発見!
各地でレッドデータブックなどに記載がある希少種。
偶然、交尾している姿を撮影することができた。


下山しながら島の東側にある教会を見に行くことにする。
懐かしさを感じさせる海の風景。


雲が太陽を遮り、暑さが和らぐ。
またもや猛禽類の飛翔を見る。


11:35 教会に到着。
禁教時代(江戸時代)寛政年間、長崎県平戸方面に潜伏していたキリスト教徒が馬渡島に住みつき、現在に至っているとのこと。
今の教会堂は、フランス人宣教師ブルトン神父が、昭和4年に、平戸紐差の聖堂を移して改築して建てたといわれている。
ドームはそのとき新しく取り付けられたそうだ。


アンジェラの鐘。


美しい場所であった。


この後、港まで下りてきて、町の中にあった店でアイスを買って食べた。
山を下りてきて食べるアイスは格別だ。

13時発の船に乗り、呼子に戻る。


イカの活造りを食べようと「河太郎」へ行くが、長時間の順番待ちとのことで、加部島にある「かべしま」に向かう。
加部島のこの道を通るたびに、なぜかいつも沖縄を思い出す。
徒歩日本縦断で沖縄を歩いた時、ずっとこんな感じの道を歩いていた。
懐かしさがこみ上げてくる。


「かべしま」は、私が家族とよく行くお店。
ロケーションが良く、味も好い。


今日も、イカの活造りを美味しく頂いた。


豆腐サラダが特に美味しいのだが、食べるのに夢中で写真を撮るのを忘れてしまった。





海と山の両方を楽しんだ今回の馬渡島・番所ノ辻。
洋上に浮かぶ一等三角点の秀峰。
帰宅してからも、帰りの船から見た美しい山の姿が目蓋から消えようとはしない。

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