MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『ケイコ 目を澄ませて』

2023-02-02 19:21:47 | goo映画レビュー

原題:『ケイコ 目を澄ませて』
監督:三宅唱
脚本:三宅唱/酒井雅秋
撮影:月永雄太
出演:岸井ゆきの/三浦友和/三浦誠己/松浦慎一郎/佐藤緋美/中島ひろ子/仙道敦子/渡辺真紀子/中村優子
2022年/日本

「翻訳」が上手い女優について

 大胆不敵な作品と言ってみたい。主人公の小河ケイコは生まれつきの聴覚障碍者であるが、彼女が何故ボクシングを始めたのか、あるいは何故しばらく休息が欲しいと思ったのかなど具体的な話が全く表にでることなくストーリーはたんたんと進んでいくのである。
 例えば、ラストの試合においてケイコは対戦相手の大塚沙耶香に足を踏まれたためにダウンを奪われる。ケイコは足を踏まれたからだと抗議しようとするのだが、そのまま試合が継続されるため調子を乱したケイコは負けてしまうのである。その後、河原にいたケイコを偶然見つけた沙耶香は挨拶をしてくるのだが、ケイコは複雑な表情をしたままで沙耶香はそのまま去って行ってしまうのである。さて、この一連の流れにおいて、敢えて流れを止めてケイコが聴覚障害者であるところから説明を始めて相手の誤解が解けるまでどれくらいの労力を割かなければならないだろうか。ケイコにはこんなことが頻繁に起こるのである。別のシーンでは、ベッドメイキングの仕事の途中でケイコは気分が悪くなるのであるが、同僚たちに悟られず何も言わずにトイレに行き、その後は何もなかったかのように物語は進んで行く。つまりケイコはもう自分の思いを明かすことは諦めているのだと思う。だから私たち観客は彼女が何を考えているのか分からないのである。
 ところでそんな心を閉じた女性が主人公の映画に何故それでも心を引かれるのか勘案するのならば、ケイコが誰よりも練習するからであり、それはケイコを演じた岸井ゆきののボクシングと手話に対する努力と被るはずで、観客と聴覚障害者の女性の間を取り持つ岸井ゆきのの「翻訳」の上手さが小河ケイコの「信頼」につながっているのである。傑作だと思う。
gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/mainichi/entertainment/mainichi-20230123k0000m200043000c


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする