老人介護のこつ 平成25年2月18日
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父(内田医師の)は昭和39年、パーキンソン病の
闘病生活が始まっていた。
手足のふるえ、筋肉の硬直が強くなり、数年後、
柱によりかかったまま、昼夜ぶっ通しで立っている
ようになっていた。
鎮痛剤も麻薬も効かず、激痛を耐えている姿は、
痛ましく、胸が詰まる思いだった。
アーテンや、L(エル)ドバという 特効薬は、副作用
で足がゴムまりのように腫れて、全身浮腫、呼吸困難まで
起こるほど激しく、服用を中止した。
看護に徹する日々が続いた。
昼間は 家事とともに、尿便失禁の洗濯、汚物の洗濯、
看護全般を受け持った。
夜間は、母が夜通し、激痛の足をさすっていた。
おしめや寝具の交換、体の清拭、汚物の洗濯を終えて
ホッとしたのもつかの間、もう、掛布団までぐっしょり
濡らし、大便を顔や手につけてプンプン匂わせている
のには、泣きだしたい思いだった。
そのうえ、いくら食べさせても、空腹を訴えるので、
食事の支度に追われた。
私は異常な食欲を注意することをやめて、阪急三番街に
行って、銘菓を一つずつ買って、父に”これは00の
御饅頭、これはxx屋の羊羹・・”
と言いながら、手にもたせ、パジャマのポケットにも
入れて、枕元にも置いた。
すると、父は、”ありがとう”と眼をうるませて、別に
食べようとせず、満足していた。
私自身、当時、慢性肝炎、胆のう炎、子宮筋腫の多量
出血が続いていたときで 知人がみるに見かねて
父の入院を勧めてくれた。
こうして、父を、老人専門病院に入院させるつもりで
連れて行った。
そのおり、総婦長さんから、院内の案内と、老人看護
のコツ を伺った。
まず、老人の繰り言を いやがらず、素直にきくこと。
次に、老人の行動異常を 素直に見守ってあげる事。
そして 下(しも)はいつも清潔にしてあげる事。”(以上引用)
内田医師は、父上を紹介された病院に入院させる準備を
整えられたのだが・・・・
結局、以下のように、決心を変えた;
”しかし、病院の大部屋に、沢山の寝たきり老人が並び、
おやつを手にもったまま、じーっとあらぬ方向を見つめ
ている 空しい眼差しを観たとき、私は何ともいえず、
痛ましく感じた。
父をどうしても入院させる気持ちになれなくなった。
病院のように、行き届いた看護はできなくても、
どんなに苦しくても、私の父は、私の手で看護して
いこうと この時、一大決心を固めたのだった。
私は、父の看護を リクリエーションのように
楽しもうと思った。
それは歌うことだった。
’嬉しいね、うれしいね、水兵さん、遠メガネ、朝日に
キラキラ揺れてます’
と口ずさむと、隣の家から、
’内田さん、何が、そんなに、うれしいんですか?
私にも聞かせてください’と、声がかかった。
尿失禁のとき、おむつ交換のたびに、困った顔をして
いたのを反省して、父に’おしっこがたくさん出て
良かったですね。
心臓や腎臓機能が上等な証拠ですよ。
おしめもよいものがたくさん出ているし、石鹸も
十分にあるし、洗濯機で楽に洗えるから安心して
くださいね’ と言うと、父は黙ってうなずいた。
母から ’お前がいないとき、お父さんが、久子は。
やさしい言葉をかけてくれて、礼をいってくれと涙を
こぼしていられたよ’ と聞いて、私の疲れは
一度に吹き飛んだことだった。
父は次第に食欲が減退して、衰弱してくると、幻覚症状
が現れた。
’楽隊が50人来て、きれいな音楽を演奏してくれているから、
みんなにお茶をだしてくれ”
という父の言葉に、”はい”と、素直に、お茶接待の
ジェスチャーをすると、とても喜び、満足していた。
死ぬ3日前、実母の名前を3回 呼んだ父はこん睡
状態になった。
3日後、意識が回復して、流動食を一口飲み、家族に
お礼を述べて、父は81歳の最期を閉じた。
父の死の翌年、96歳で他界した伯父は、80歳を過ぎた
ころから、リウマチ性関節炎や心臓病・高血圧が治り
始め、腰の大きなこぶも、自爆して、消えてしまった。
老齢になると、病気が治りにくいとか、老化が
進んで病気になりやすい と一般に考えられて
いるが既成概念を超越した実話もあるので
ある。
私の父は、歯がないから、消化が悪くなる という
概念が無かったので、ゴボウでも おかきでも、歯ぐきで
モグモグして丸のみして体内にいれても、消化されて、
良い便通であった。
ただ、寝たきり老人が飲食物にむせる、嚥下(えんげ)
障害が始まると、次第にこの世の寿命が終わりに近づいて
いる兆候だ。
無理に与えず、自然にしておいた方が本人には楽である。”
(以上引用)
と内田医師は、締めくくっている。
老人介護についての心得として以下のようなことを
内田医師は、補足している。
(1)トイレの 大便をもて遊ぶ老人に対して子供のころ、
泥んこ遊びをしていないのだろうと察し、叱ったり、
やめさせたりしないで、しばらく そのままにさせてあげると、
自然にその行動も2~3日で止まった。
家人によく聞いてみると、はやり、躾の厳しい 良家の
育ちであったという。
(2)部屋中にヌード写真を貼る90歳の老人
大学の名誉教授だった方。 90歳になられて、部屋中に
ヌード写真を貼って困っていると、お嫁さんが相談に
来られた。
若いころから学問研究一筋で 男性の本能を抑えていた
ので、今こそそれが表れていると話した。
いやがらずに、”プレイボーイ”などの雑誌を 数回買って、
あげているうちに、自然にその行為をしなくなった。
(3)ボケ症状
意識が鮮明明瞭な日と、幻覚症状や、繰り返し同じこと
を尋ねられて困る日が相互にきたら、ボケ症状だ。
つじつまが合わないことを言う時も、話を合わせて
対応して、決して、嘲笑したりしないこと。
放任しないこと。
その対応次第で、ボケ症状 を増強させないことが可能だ。
ある日、ふっと気が付いて、変な事を言っていた自分を
反省することもある。
心の奥底では、決してぼけているわけではない。
寝たきり老人の 清拭(せいしき)~体を清浄にする
ことに関して、
小さいガーゼに石鹸をつけて片腕、肩胸を拭き、あとは
お湯で絞ったタオルでふき取る。
全身を一度には無理なので、毎日少しずつ場所を変えて
行い 手足は特に垢がたまるので、入念にする。
床ずれのできやすい仙骨部(腰の下)に温湿布をすると、
床ずれ予防になる。
配偶者に先立たれた老人は男性の場合、”ボケ症状”として、
昼夜が逆転して夜中に大声を上げたり、性的異常行動を
するときがある。
そんな時にも、尿をとったあと、外陰部に温湿布をすると、
おとなしくなる。
温かい というのは、愛情に通じるからだろう。
参考: ”生命医療を求めて”
内科医 内田久子著 平成7年11月1日18刷発行
発行所 日本教文社
内田医師について:
昭和2年大阪生まれ・
昭和25年大阪女子高等医学専門学校(現在関西医大)
を卒業
その後 大阪大学附属病院、池田市立病院、
講演活動も行う
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