日本人としてほっとするのは、建築物が今なお有用に利用されていること、そして台湾人が日本統治時代をきちんと評価していると思われることだ。これは、大陸中国とは全く異なる点だ。
冷戦下、澎湖諸島は中国と対峙する軍事的要衝だったので、観光客が訪れるような場所ではなかった。だが今、馬英九総統が中国との融和政策を進めるなか、何と馬公市にカジノを誘致しようとする話が持ち上がっている。
澎湖諸島の海・島々の自然は、文句なく素晴らしい。このまま、そっと残してほしいと思うのは、一外国人の勝手な願いなのだろうか。





4月5日放送された「アジアの”一等国”」(NHKスペシャル)については、「日台戦争」「人間動物園」という言葉で分かるように、史実の歪曲や、台湾人日本語世代に対するインタビューを作為的に編集した点に批判が集中した。
だが、気になるのは、NHKの偏向報道を批判しているのは、ごく一部のメディアに過ぎないという事実だ。文藝春秋の「諸君!」は、いまや廃刊となり、月刊誌では「WILL」と「正論」がこの問題を取り上げているに過ぎない。「桜チャンネル」というメディアは、熱心にこの問題を取り上げているが、一般の人から見れば、「右翼」が騒いでいるという印象しかないだろう。
「アジアの”一等国”」があまりに杜撰でひどい番組であったにもかかわらず、批判が盛り上がらないのは、「保守」「親台」派を自認する日本人にも大きな責任がある。冷戦時代には、「反共」の砦としてしか「中華民国」を見なかった彼らが、今や「民主台湾」の良き理解者のように振る舞うのはおかしくはないか? 彼らは、「日中友好」派の日本人が、中国の人権弾圧や中共の粛清の歴史について口をぬぐうのと全く同じことを、台湾に対してもしてきたのではないか。「二・二八事件」の責任を負うべき中国国民党独裁政権をあれほど熱心に支持してきたことをどう説明するのか?
そう考えると、手放しで「産経新聞」やその周辺メディアを持ち上げる気にはなれない。だが、中立、公平の仮面をかなぐり捨てた感のあるNHKに対しては、誰かがお灸を据えなければならないだろう。
その意味で、「正論」6月号は、注目すべきだ。
【異論暴論】正論6月号 “証人”NHKに憤り
4月5日に放映されたNHKスペシャル「アジアの“一等国”」をめぐる問題で、番組に登場した台湾人の元医師が、「日本のよいところも話したのに放送されたのは悪いところだけ。NHKに利用された」などと、一方的な放送姿勢を批判している。この番組に対しては日台友好団体などから「反日台湾を印象づけるためとしか思えない」との抗議も上がっており、元医師の証言は注目を集めそうだ。
「正論」6月号の「『NHKに騙された!』“反日台湾”を捏造(ねつぞう)した許されざる取材手法」と題したノンフィクション作家、河添恵子氏のリポートの中で、痛烈な批判をしたのは柯(か)徳三さん(87)。番組では、戦前の台湾で日本人から差別を受けた“生き証人”として登場し、「学校に台湾料理の弁当を持っていくと日本人に笑われるから、日本式の弁当にしてくれと母に頼んだ。母は苦労したと思う」などと証言していた。
だが、河添氏が柯さんから聞いた話では、柯さんがNHKの取材に対し、日本統治時代に台湾のインフラ整備が進んだことや教育が充実したことなどを長時間説明したのに、すべてカットされたという。また、戦後の日本が台湾を見捨てたことへの不満を述べたつもりだったのに、番組では、まるで戦前の日本に対する批判のように編集されたという。
6月号ではこのほか、連載中の「NHKウオッチング」でも、「台湾風俗の展示を勝手に『人間動物園』と名付けて批判したNHKの放送は事実を歪曲(わいきょく)するもの」などと指摘。番組の問題点を詳細に論証している。(川瀬弘至)
youtube上にUPした映像「米国から見た日本の台湾統治~”知られざる台湾・台南市”より」が、10日間ほどで2500アクセスを超えた。NHKの「アジアの”一等国”」(シリーズJAPAN第1回 4月5日放送)を見て、その内容のひどさに驚き、米国TV局(ディスカバリー・チャンネル)が制作した上記映像をUPしたのだった。
「知られざる台湾・台南市」の全編を見ると、オランダ、鄭成功、清朝、日本という外来政権に統治された台南の歴史を、「国際都市・台南」という視点でポジティブな未来志向の姿勢で取り上げている。yotube上では時間の制約上、日本統治時代だけを取り上げたのだが、そこでは、台南の近代化が日本による社会開発(教育、医療、インフラ等)なくしてはありえなかったことが語られている。
http://www.youtube.com/watch?v=YG9HvrgwmaM
これを見て、NHKの「アジアの”一等国”」が流した”毒素”を洗い流すのも良い考えだ。「日台戦争」「人間動物園」等々、NHKはこれでもかと言わんばかりに、日本の台湾統治を断罪したが、それは「歴史の後知恵」をさももっともらしくつなぎ合わせたものに過ぎない。
ディスカバリー・チャンネルを見ると、台南人自身が日本統治時代のプラス面を評価し、台南に残された歴史的遺産を大事にしていることが、明白に読みとれる。子供達が学校の授業で「日本はひどい国だ」「こんなに悪いことをした」と教わるのは、もういい加減にしてほしいのだが、NHKは相変わらず「自虐史観の番組制作」(金美齢氏)を続けている。
youtubeの画像を見た台湾の方からメールが届いた。「私の祖父や祖母から、日本の悪口を聞いたことは一度もない。だから、私は日本が好きだ」と書かれていた。彼が心配するのは、馬英九政権が、せっかく台湾人が現在享受している「民主台湾」の自由を大陸中国に売り渡そうとしていることだという。
台湾が中国に飲みこまれれば、李登輝氏の出現によってわずか20年前に実現したに過ぎない言論の自由、思想の自由などは、すべて失われるだろう。
台湾映画「海角七号」が空前の大ヒットをしたのも、台湾民衆のそうした不安を象徴するものだろう。
昨年、大連、瀋陽を訪れたときは、歴史的遺産を訪れるたびに「日本帝国主義」の罪状が書かれたプレートを読まねばならなかった。「203高地」に行ったときは、日本の「帝国主義」のみを断罪し、ロシアには極めて甘い中国の「歴史認識」がよく分かった。
台南が今のままであるうちに、ぜひ行ってみようと思う。台南の歴史遺産には、きっと普通の日本人が納得できる解説が書かれているに違いない。それだけでも、何かほっとする想いがするだろう。
上記の台湾からのメールは、最後にこう結ばれていた。「歓迎! 台南に行ったら、必ず”小吃”も食べてね」
「知られざる台湾・台南」が、5月4日(月)午前6時~7時、ディスカバリー・チャンネルで放送されます。
http://japan.discovery.com/series/index.php?sid=776
米国から見た日本の台湾統治~「知られざる台湾・台南市」より
昨年、台湾では映画「海角七号」が大ヒットして、台湾と日本の”絆”がクローズアップされたが、その背景には、下記のような「台湾の香港化」という危機感がある。
議会制民主主義が定着した「民主台湾」で、その主権者たる台湾人自身が、中国との和解を図る馬英九・国民党政権を選択したのだから、われわれ日本人はただ静かに状況を見守るしかない。
陳水扁・前総統の政策顧問だった金美齢氏も、台湾人が馬英九政権を民主的選挙で選んだことについては、「不満である」としても、非難はしていない。
ただ、中国の戦略は狡猾で明確だ。長い時間をかけながら、相手を真綿を締め付けるようにしとめるのだ。われわれも日中国交回復を巡って同じような経験をしている。当時、日本国民には「日中友好」の幻想が意図的にばらまかれた。パンダの微笑外交だ。しかし、日本の経済援助によって中国が経済大国になった今、中国人の本音ははっきりとしている、彼らのほとんどは「反日」「嫌日」で、仲間内では日本人を「小日本」(チャンコロと同義の中国語)と罵っている人たちなのだ。
多分、台湾も同じ道を辿るのかも知れない。ツアーで台北の故宮博物院を訪れた大陸の中国人は、「これをいつどうやって取り戻そうか」と思うだろう。中国共産党政権を「同胞」と言い続ける馬英九政権の危うさを感じざるをえない。民意を反映した議会制民主主義は、所詮、共産党独裁国家には対抗できないのかも知れない。これは歴史の皮肉でもある。
台北に赴任して1カ月余りになるが、台湾の底流に大きな変化が生まれているとの印象を禁じ得ない。ひと言でいえば対中融和政策を掲げて昨年発足した馬英九・国民党政権下で、中国の存在感が随分大きくなってきたことだ。筆者は返還前の香港に4年駐在したが、当時を想起させる変化だ。しかし台湾の“香港化”はこの20年の「民主台湾」の歩みに影を投げかけ、東アジアの勢力均衡を揺るがす可能性を秘めている。日米をはじめ西側諸国はこの変化にもっと大きな関心を注ぐべきだろう。
2年ぶりに訪れた台北市郊外の故宮博物院では、わが物顔に大声を交わす中国からの観光客の一団に驚かされた。昨年末に事実上の三通(中台間の直接の通商、通航、通信)が実現したことなどで、中国からの観光客が急増したためだ。当局発表によると、昨年12月には1万人余りだった中国人訪問客が3月には約5万5000人と、5倍増の勢いだ。
テレビや新聞は連日、中台交流の急拡大に関する報道や論議であふれかえっている。4月末に南京で開いた中台の交流団体トップ会談では、航空直行チャーター便の大幅増や定期便化、金融機関の相互進出、中国資本の台湾投資解禁などの交流拡大策で合意した。
今年後半の次回会談では、中台の自由貿易を協定化する経済協力の枠組み協議(ECFA)推進も議題にのぼる見通しだ。中台関係は昨春まで陳水扁前政権の独立路線をめぐり、一触即発の緊張状態を重ねてきた。まさに様変わりだ。
中台の緊張緩和は周りの国にとっても大いに歓迎すべきだが、気になることもある。それは中国共産党政権の巧みな台湾統一工作が馬英九政権の発足後、一気に活発化し始めたことだ。
「まず両岸(中台)の経済、文化などの民間交流を大きく促進し、次に政治的難問に取り組む」-。賈慶林・中国人民政治協商会議(共産党の統一戦線組織)主席は、4月の台湾紙「聯合報」との会見でこう語った。賈主席の言を待つまでもなく、こうした動きはすでに着々と進んでいる。
昨年11月には中国で手広く事業を営む台湾の新興企業家、蔡衍明氏が地元有力メディア・グループ「中時集団」を買収。傘下の新聞「中国時報」やテレビ局(中視、中天)などを通じて肯定的な中国報道を大幅に拡充し、対中経済交流拡大に邁進(まいしん)する馬英九政権への支援を鮮明にしている。
「中国の台湾工作に協力する見返りに対中事業拡大で便宜を得ることで、共産党政権と蔡氏が取引した」(香港紙報道など)との観測がなされている。かつて返還前の香港で有力華僑の郭鶴年(ロバート・クォク)氏が有力英系紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」を買収、同紙の報道が親英から親中に様変わりした例を想起させる。郭氏は当時、対中投資フィーバーの先頭を走っていた。
すでに香港系のテレビ局やインターネット・メディアが台湾での取材・報道を活発に行っているが、「バックは中国の党・政府」(台湾メディア筋)との見方が多い。中国はまず香港の財界、マスメディアの“抱き込み”から主権回復工作を始めたが、台湾の現状はこれに酷似している。しかし馬英九政権はこれといった対策を講じていない。
「香港化は台湾の主権と民主体制を脅かす」(蔡英文・民進党主席)との危機感が野党陣営を中心に高まっている。(台北支局長)産経新聞 09.5.1