澎湖島のニガウリ日誌

Nigauri Diary in Penghoo Islands 澎湖島のニガウリを育て、その成長過程を記録します。

天安門車両炎上は「漢族の中国」に対する異議申し立て

2013年10月30日 03時20分30秒 | 歴史
 10月28日正午、北京・天安門前に車両が突っ込み炎上した。当初日本のTV報道では、「事故か事件かは定かではない」といつものように「中国筋」に遠慮するかのような報道をしていたが、天安門に登ったことのある人ならば、あのような場所で交通事故が起きて車両が炎上することなどおよそ考えられないだろう。



 Mixiには直ちに「その車は新彊(ウイグルか西蔵(チベット)ナンバーではないか」という書き込みが見受けられた。
 


 時間が経つにつれて、新彊ウイグル自治区における東トルキスタン(ウイグル)独立運動に関わる事件であることが明らかになった。
 そもそも、中国当局が喧伝する「ひとつの中国」とは、歴史的に見ればごく最近つくりあげられた概念に過ぎない。清朝の「大清帝国」は、漢族ではなく満洲族の王朝だった。その支配原理は「華夷秩序」であり「朝貢体制」とよばれるものであった。そこには皇帝による「天下」の支配があるだけで、「中国」という概念さえ形成されていなかった。1912年、辛亥革命に伴うナショナリズムの昂揚によって「中華民族」「ひとつの中国」という概念が作られ、「大清帝国」における最大版図を「中華民国」が引き継いだのだという、歴史上最大の詐欺行為=歴史認識の改竄が行われた。

 このことについては、平野聡氏(東京大学準教授・アジア政治外交史)が『清帝国とチベット問題――多民族統合の成立と瓦解』(名古屋大学出版会, 2004年)で詳しく触れられている。
 また、平野氏は、「中国が中国ある限り真の民主化はありえない」(「Wedge」2012年2月)という論文で、中国における漢族と少数民族の問題について言及している。

『そもそも漢字文化を共有しない少数民族にとって「中国」という文字が発する価値自体が不明である以上、「漢字文明の偉大さや先進性」なるものとともに立ち現れ自らを圧迫する「中国」に従う理由などない。モンゴルやチベットが清に従っていたのは、満州人皇帝が草原世界共通の信仰であるチベット仏教のパトロンであったからであり、東トルキスタンのトルコ系ムスリムが清の領域に組み込まれたのは、この地を支配していたモンゴル系の王国ジュンガルが清に滅ぼされ、満州人皇帝はイスラーム信仰を認めたからである。だからこそ辛亥革命による清の崩壊以後モンゴルは独立に走り、チベットや東トルキスタンも独立しようとして失敗したのである。辛亥革命が近現代中国の一大慶事であるなどという議論は、清から受け継いだ領域の安定的維持という立場からすれば著しい誤謬であり、むしろ昨年の辛亥革命100周年は清の崩壊による領域不安定化100周年として記憶されるべきである。』

 平野氏が東京大学法学部の「アジア政治外交史」でこのように講じられているのは、心強い限りである。何故なら、東大法学部の講義は、日本の学界のスタンダードとされていて、政府や政治家にも大きな影響力を有するからである。
 「ひとつの中国」に何ら疑問を呈さない日本のマスメディアを見るにつけ、マスメディアや経済界の「エリート」達は、次の結語をかみしめるべきだと思うのだが…。

 『…諸外国の経済的な対中国関与、そしてそれを加速させた「チャイナ・ファンタジー」、すなわち「経済発展による社会の開放こそ、中国が西側と同じ価値観を共有するに至る最良の道である」という、中国ナショナリズムの過激な信念を正面から捉えようとしない甘美な思いこみこそ、過去20年来の中国の経済発展を加速させ、中共が動かしうる政治資源を圧倒的なものにし、人々を抑圧する構造を固定化したからである。』

 つまるところ、われわれの中国に対する幻想が中共(=中国共産党)の少数民族弾圧政策を助長してきた。このことこそが天安門車両炎上事件の真因なのだ。
 「漢字文化を共有」する日本人は、今こそ中国の本質とは何か考えるべきなのだろう。



ウイグル族の関与浮上 中国外務省は「調査中」 天安門の車両突入事件 
2013.10.29 22:01 [中国]

29日、北京市内の天安門近くを警備する武装警察隊員ら(AP)
 【北京=川越一】5人が死亡、38人が負傷した天安門前の車両突入事件で、北京の公安当局は少なくとも2人のウイグル族の男性が事件に関与したとみて捜査している。中国メディアによると、公安当局は事件が起きた28日夜に通達を発し、北京市内の宿泊施設を今月1日以降に訪れた「不審な客」や「不審な車両」に関する情報提供を求めた。

 通達は、民族対立を抱える新疆ウイグル自治区のグマ県とピチャン県に戸籍をもつウイグル族2人を、事件の「容疑者」として名指ししている。また、淡い色の四駆車と4種類の新疆ナンバーについて、事件に関与したとの見方を示している。

 在米の情報サイトによれば、この2人は現場の車内で死亡しており、公安当局は車内で死亡した残る1人の身元確認を進めているもようだ。車に乗っていた人物が「旗のような物を振っていた」とも伝えられており、何らかの政治的要求を示すための計画的犯行だった可能性も否定できない。

 中国外務省の華春瑩報道官は29日の定例会見で、事件について「調査中」と述べる一方、新疆ウイグル自治区で頻発している暴力事件には「断固反対し、打撃を加える」と強調した。

 また、中国国営新華社通信によると、中国共産党は29日、中央政治局会議を開き、第18期中央委員会第3回総会(3中総会)を北京で11月9~12日の4日間の日程で開催することを決めた。車両突入事件をふまえ、公安当局は3中総会に向けて警備を一段と強化する可能性がある。

中国当局、NHK国際放送の視聴を制限 突然真っ黒に
2013.10.29 13:04 [中国]

車両が炎上し、封鎖された天安門前で警戒する警察官=28日、北京(共同)
 【北京=川越一】北京市内で受信しているNHK国際放送が、29日午前11時(日本時間正午)のニュースで、28日に天安門前で起きた車両炎上事件をトップニュースで報じようとしたところ、突然、テレビ画面が真っ黒になり、視聴が制限された。

 中国当局は人権問題など敏感な問題に関する報道について、時折、同様の措置を取ることで知られている。ウイグル族の事件への関与が取り沙汰される中、当局が中国国内で情報が広がることに神経を尖らせていることがうかがえる。








韓国への修学旅行は是か非か

2013年10月28日 15時18分09秒 | 社会
 滋賀県立の公立高校が韓国への修学旅行を計画したが、保護者の間で反対運動が高まっているという。10月25日付けの「産経」が伝えたニュース(下記参照)だが、いろいろ考えされられることが多い。
 
 「平和学習」の一環とされる広島・長崎への修学旅行は全国の多くの高校で行われている。その内実を聴くと、都道府県教育委員会の立場からすれば、「平和教育」は誰も異議を唱えられないテーマであるから、即座にOKできる。また、教員組合は、現在の政治・社会批判を込めた「平和教育」が可能であるから嬉々として応じるという、ある種の労使談合的実態ができあがっているという。

 さらに、海外修学旅行については、「国際化」の要請と「共生」の精神を培うとかいう理由で、公立高校でも盛んになっていると聞く。だが、中韓両国への修学旅行に関しては、極めて懐疑的だ。修学旅行することによって、「南京大虐殺」や「従軍慰安婦」の問題がことさらにクローズアップされ、歴史に疎い生徒達に不必要な贖罪意識を植え付ける恐れが大きい。
 
 近現代史や国際関係史を少しかじっただけでも、中韓両国の主張がいかに異常なものかわかるはずなのに、現場の教師は決してそれを教えようとはせず、むしろ相手に謝罪することが「友好」「共生」の道だと吹き込んでいる。そんな現状を憂う保護者達が、韓国修学旅行に疑義を挟んだのは当然のことと言っていい。

 Mixiでは、次のように色々な意見が交わされた。

◇公立高校は、中韓両国への修学旅行なら教育委員会が認めるが、台湾への修学旅行は中国に遠慮して認めない。私立高校は、かなりの学校が台湾に行っている。

◇この感覚は何でしょうか。恐らく日教組が多いのでしょう。反対する親が多いのは当然ですし、私なら子供をその学校に行かせません。教育委員会もおかしな感覚の持ち主が多い様ですね。

◇修学旅行なら国内で充分でしょう。経済も活性化するわけだし、なにも外国に金を落としに行くことないと思います。

◇公立高校の教師はこうした輩が多いですね。竹島問題ばかりメディアは騒ぎますが天皇陛下を貶める言動のほうが問題。どこぞの高校も韓国で謂われなき謝罪をさせられたことがあります。韓国などに行こうという神経が理解できません。反対する父兄には頑張ってもらいたいです。

◇謝罪した高校は広島だったと思います。韓国は近い安いというだけでいくのでしょう。現状では心配する親がいるのは分かりますね。

◇広島に修学旅行に行くのも「平和学習」という名の無国籍教育。中韓両国へはまるで「懺悔旅行」。国際化、共生などとしたり顔に言う前に、世界史の中に位置づけた日本近現代史を教えるべき。もちろん、「愛国教育」そのものではなく、両論併記で結構だから、とにかく教えるべきです。

◇妙な色に染まっていない高校生たちが、現地で「日本は昔こんな悪いことしたんだ」という誤った母国感を植え付けられるのが怖いです。

◇仰る通りだと思います。そもそも自由にどこにでも行ける時代に修学旅行など意味があるのか。貧乏で個人旅行などできなかった我々のような時代の残滓ではないかと考えます。



反日が心配…」韓国への修学旅行に保護者反対、学校側と対立
産経新聞 10月25日(金)8時0分配信


韓国への修学旅行をめぐり、学校と保護者が対立する滋賀県立国際情報高校=同県栗東市(写真:産経新聞)

 滋賀県立国際情報高校(同県栗東市)が11月に予定する韓国への修学旅行をめぐり、保護者の一部から反対の声が上がっている。韓国での反日感情の高まりや南北関係の情勢悪化による安全面への懸念などを理由に上げるが、学校側は「問題ない」として予定通り実施する方針で、説明会を開くなどして理解を求めている。しかし保護者側は「修学旅行は保護者の十分な理解を得ること」とする文科省の通知にも違反するとして計画変更を迫っており、学校側と対立を深めている。

 ■恒例の修学旅行に突如、反対の声

 昭和62年度に創立された国際情報高は、平成元年度から韓国への修学旅行を実施しており、米同時多発テロのあった13年度と新型肺炎が流行した15年度以外は毎年訪れている。

 今年度は、11月12日から3泊4日の日程で修学旅行を計画。2年生がソウル市内を訪れ、伝統舞踊やキムチ作りなどを体験するほか、姉妹校提携しているソウルの文一高校の生徒らと交流する。

 学校側は今年5月、保護者を対象に修学旅行の説明会を開催。その際、数人から韓国行きを反対したり、不安視したりする意見が出たという。現地で反日感情が高まっていることや、南北関係が悪化の兆しを見せていることなどから安全面を懸念する声があったほか、衛生面での不安を口にする保護者もいたという。

 これらに対し、学校側は「外務省が『今すぐに危険はない』と説明している」「食事は衛生管理されたホテルやレストランでとり、生ものは食べない」などと説明し、理解を求めた。

 しかし一部の保護者らは納得せず、その後も学校側に行き先を変更するか、コースを2通り設定するかなどの対応を求めた。さらに文科省に対し、「この修学旅行は『保護者の十分な理解を得ること』とする文科省の通知に違反している」との申し入れも行った。

 ■保護者「韓国は戦争状態」

 こうした動きを受け、学校側は9月9、10の両日、再度の説明会を開き、8月に学年主任らが現地を下見した際に撮影した映像を流すなどして、改めて理解を求めた。

 だが、韓国行きに反対する保護者らは納得せず、ある保護者は「竹島をめぐる問題で、現地の対日感情は非常に危うい状態なのでは」と不安を訴えた。また別の保護者は2010(平成22)年に起きた北朝鮮による韓国・延坪島(ヨンビョンド)砲撃事件などを例に挙げ、「戦争状態にある国に行くのはいかがなものか」と話したという。

 さらに保護者らは行き先の希望調査をするよう求めたが、学校側はこれを拒否し、逆に保護者らに対し、韓国行きの修学旅行の同意書を提出するよう求めた。

 ■学校「楽しみにしている生徒がほとんど」

 保護者の一人は「学校は最後までアンケートで保護者の意見の実態を明らかにすることを拒んだ。文科省の通知違反は明らかだ。生徒の間にも不安の声が広がっている」と指摘。一方、同校の奥野仁史校長は「保護者に考え方の違いがあるのは承知しているが、何度か説明会を開き理解を求めている。楽しみにしている生徒がほとんどで、安全面に配慮して修学旅行を実行したい」と話す。

 ただ来年度以降の行き先については、他国への変更も検討しているという。学校側は「韓国がだめだというわけではないが、新教育課程に『英語のコミュニケーション能力を高める』と明示されたことから、英語圏への旅行も選択肢の一つになる」と説明する。

 これに対し保護者は「変更するということは、学校側も韓国の問題点に気付いているのだろう。今年度の生徒がかわいそうだ」と憤る。

 今回の問題では学校側と同じ立場をとる県教委にも、県内外から100件近い苦情の電話やメールが寄せられているといい、出発日が近づく中、騒ぎはいまだ収まる気配がない。
.

NHK ふたりの濱崎サン

2013年10月17日 01時07分54秒 | マスメディア
 さきほど、NHK放送研究所主任研究員・濱崎公男(55)が不正経理で懲戒免職された、とNHKニュースが伝えた。
 


NHKの職員が、音響設備工事の架空の請求書を取引先の会社に提出させて、代金をこの会社の口座に振り込ませていたことがわかった。
NHKは16日午前に会見し、放送技術研究所の濱崎公男主任研究員が、2012年3月、取引先の音響設備会社に、音響工事の架空発注を行ったと発表した。
濱崎公男研究員は、請求書を提出させて、音響設備会社の口座に279万3,000円を振り込ませたほか、この会社から3回にわたって、デジタルカメラなど百数十万円相当の物品を受け取っていたという。
NHKは16日付で、この職員を懲戒免職処分とした。
(FNNニュース)

 濱崎という名前を聴いて「あれ?」と思った人もいるだろう。5年前、NHKは「JAPAN デビュー」というドキュメンタリー・シリーズを大宣伝した。そのトップバッターの番組が「台湾総督府が遺した25万部の未公開文書を読み解いて」作ったという「アジアの”一等国”」だった。この番組は日本統治時代の台湾を歪めて描き、取材を受けた台湾の日本語世代からも「中共(=中国政府)にカネをもらったのか」とまで詰問された。視聴者からも轟々たる非難を浴び、集団訴訟にまで発展した。これを制作したのが、濱崎憲一ディレクター。

 NHKに入局(入社)するにはコネが必要だとはよく言われることだが、この二人の濱崎は、もしかして兄弟か縁者ではないのか? 濱崎あゆみは有名だが、濱崎という名字はそうざらにはない。ふたりの濱崎が兄弟でもあったとしたら、NHKの悪しき体質が滲み出るような話だ。

 次の写真。上が濱崎公男、下が濱崎憲一だそうだが。似ているかな?(似ているぞ!)




何コレ!の「安堂ロイド」

2013年10月15日 00時03分38秒 | マスメディア
 滅多にTVドラマなど見ることはないのだが、「半沢直樹」の人気ぶりを伝え聞いて、その後続番組だという「安堂ロイド」をちょっと見してしまった。

 木村拓哉主演の番組だというので、内容は多少荒唐無稽でも視聴者は見てくれると踏んだのだろうか? 私が見た限りでは、小学校高学年の児童でも、少し賢い子供なら、こんな番組を最後まで見ないだろうなと思った。

 どんな役をやっても、いつも同じ台詞回ししかできない木村拓哉。これまで、日本国首相、天才能科学者、パイロットなどを演じ、今回は天才物理学者でなんと「東京帝國大学教授」だという。番組紹介では次のように書かれている。


沫嶋黎士
東京帝國大学次元物理学部物理学科・宇宙理論学部教授。
ワームホール理論の最先端の研究者で、ノーベル賞有力候補と言われている。
※ワームホール(wormhole)とは、時空構造の位相幾何学として考えうる構造の一つで、時空のある一点から別の離れた一点へと直結する空間領域でトンネルのような抜け道(時空のトンネル)である。
物理学の話に夢中になると、楽しさのあまり笑ってしまうことがある。


 中年のホストにしか見えなくなったキムタクが、大学教授でノーベル賞候補という役回りとは…。誰かがキムタクに恥をかかせようとして、わざわざ仕組んだ脚本ではないかとさえ思えてくる。

 それにしても、「東京帝國大学」という歴史的呼称を平然と使用する脚本家のバカさ加減にはあきれ果てる。「帝国」ではなく、わざわざ「帝國」という表示するからには、旧制の東京帝國大学(現・東京大学)の名称を無断借用したという自覚はあるのだろうか。
 
 キムタクのファンはご存じないだろうから書いておく。東京帝国大学を始めとする北海道東北名古屋大阪京都九州、それに京城(現・ソウル大学)、台北(現・国立台湾大学)の九帝國大学は、日本の近代化を推し進める優秀な官僚・技術者、指導者を育成するために作られ、今もなお、高度な学問・研究水準を保っている。言うまでもなく、台湾・朝鮮は、当時大日本帝国の一部であった。台湾でも韓国でも最も優秀な大学は「国立台湾大学」「ソウル大学」なのだ。
 早慶等の私立大学は、同じ「大学」という名前が付いていても、八つの帝國大学に遠く及ばなかった。「私学は名前は”大学”であっても、専門学校と同じ扱いだった」と記した専門書もある。こうしたことから、帝大教授という肩書きには、特別な響き、意味合いがあったことが分かる。

 1960年代後半の学園紛争の中で「帝国主義大学解体」が叫ばれたことがある。団塊の世代あたりなら皆知っている事実だが、このスローガンも文字通りの最高学府・東京大学をターゲットにしていた。
 
 つまるところこの番組の脚本家は、「帝國大学」が日本の近現代史に深く関わっている事実に無頓着すぎる。「東京帝國大学」が持つ言葉の重みを少しは考えるべきだった。これでは歴史音痴か単なるバカと思われても仕方がないだろう。

 キムタクの番組なんだから、そんなつまらないことを言うなよ…と言われそうな気もするが、こういう無神経な番組づくりが、かえってキムタクさんを貶めることになるんだよ…と忠告しておく。


 

映画「台湾アイデンティティー」を見て

2013年10月06日 08時29分37秒 | 音楽・映画
 映画台湾アイデンティティー」(酒井充子監督)を見てから2ヶ月余りが経ってしまった。前作「台湾人生」は、私が台北「二二八紀念館」でお会いした蕭錦文(しょうきんぶん)氏が出演されていたこともあり、生涯忘れられない映画となった。 

 最新作「台湾アイデンティティー」は、酒井監督自らがジャカルタ、横濱など台湾以外の場所も取材して、戦後、台湾の日本語世代が歩んだ苦難の道を辿る。「台湾人生」をさらに深めた作品と言えるだろう。この作品では、「二二八事件」を経験した証言も生々しく語られている。




 私が2ヶ月間もこの映画の感想を書けなかったのは、この映画が私にとってとても重く感じられたからである。
 映画が終わったあと、酒井充子監督が自ら舞台挨拶をされた。

舞台挨拶をする酒井充子監督 7月16日 東京・中野)

 酒井監督は「できるだけ多くの方々に見ていただきたい」と控えめに語られた。このブログでも既に記したことだが、台湾を巡る政治状況が悪くなる(=「ひとつの中国」という幻想の中で、台湾が見捨てられようとする)状況の中で、この映画を制作することは、それこそ身を切るような決断があったはずだ。新聞記者の職を辞して、この映画に賭けたのだから…。

 だが酒井監督は、そんなことは微塵も感じさせない。物静かに、事実をありのままに突き詰めていこうとする態度は終始一貫している。比較しては酒井監督に対して失礼になるだろうが、NHKスペシャル「アジアの”一等国”」を制作した濱崎憲一(NHKディレクター)と比べれば、二人が同じ「ジャーナリスト」だとしても、それこそ天と地、月とすっぽんほどの差を感じる。酒井充子監督はジャンヌ・ダルク、濱崎はNHKの小悪党局員という感じだろうか。私は酒井監督に心からエールを送らずにはいられない。

 帰りがけに、酒井監督に「蕭錦文さんはお元気ですか?」と尋ねてみた。「元気ですよ~。」という明るい声がかえってきたときのホッとした気持ちは今でも忘れない。蕭氏は多分、87歳くらいになるはずだ。

 日本人は台湾に大きな忘れ物をしてきた。それは台湾の日本語世代。彼らももう八十歳代半ばとなる。東日本大震災の際に台湾から多大な義援金が寄せられたので、日本人の多くは台湾が「親日国」であることを再認識したはずだ。その根底にあるのは、台湾の日本語世代が「日本時代はよかった」と家族に語り継いだからである。

 酒井充子監督のこの映画は、その日本語世代へのオマージュでもある。


 なお次の映像は、酒井充子監督の映画とは直接関係はないが、台湾の日本語世代の気持ちをよく言い表していると思われる。日本統治時代の台湾を体験した人ならではの、現代日本人への直言でもある。