9月25日、夕方の出発を待つ間に、「台北二二八紀念館」に出かけた。ここには、過去二回訪れているが、今回は一新された展示を見るのが目的だった。
(二二八紀念館=旧・台北放送局) (紀念館・表庭の犠牲者碑)
ここに改めて記す必要はないのかも知れないが、「二二八紀念館」は、1947年2月28日、日本敗戦後の台湾にやってきた中国国民党軍隊が行った台湾人大虐殺事件=「二二八事件」を記念するために設けられた。台湾全土の2万人以上もの指導者層、知識人が、中国国民党軍によって何の法手続も経ないまま虐殺された。蒋介石の「流亡」政権は、この大虐殺事件を45年以上にも渡って「封印」した。この事件を公に語ることも、批判することも、全く許されなかった。この事件が公になるのは、李登輝氏が政治舞台に登場する1990年代になってからである。
今回入手した冊子「台北二二八記念館の常設展示特集」(日本語版 2011年2月 台北市政府文化局編)の裏表紙には、次のような印象的な一文が記されている。
「写真の中で話をするのは白髪の人、実際に語るのは黒髪の人の物語
ずうっと沈黙して40年…
今なお涙が滲んでくる 消えると思っていた歴史は 隠すことしかできない
悲しみのあまり 果てしない恐怖に埋もれている
白色テロは二二八受難の家族を孤立させた
今も記憶に残る、止まったままの一家団欒の夢」
(「台北二二八記念館の常設展示特集」2011.2 台北市政府文化局編)
(紀念館内部の展示)
(「時代交替」の展示)
新しい展示がどのように変わったか。これは「歴史評価」の問題でもあり、政治の問題でもある。政権が民主進歩党から中国国民党に変わった後、初めて展示が一新されるのだから、その内容に注目が集まらないはずはない。
前回、旧展示をみたとき、日本語で解説をしてくださった蕭錦文(しょう きんぶん)さんが、熱心に説明してくださったのが、次の絵だった。
(河畔で台湾人の手首に穴を開け数珠繋ぎにし、銃殺する中国国民党軍兵士)
蕭錦文さんは、映画「台湾人生」※(2010年 酒井充子監督)にも登場している。映画の予告編に、その映像がある。
→→ http://www.taiwan-jinsei.com/ (「台湾人生」予告編)
彼は、上記の衝撃的な絵は、国民党軍兵士の制服が実際にはボロボロだったのを除けば、実際にあった出来事だと私に断言した。「祖国」「同胞」であるはずの中国国民党が、あまりにも残虐で前近代的な連中であることを知らされたのが、この事件だった。今なお、台湾に残る「親日感情」は、日本統治時代が台湾の近代化に寄与した時代であったことを、台湾の人々が覚えていてくれるからに他ならない。
今回の新しい展示にこの絵がのこされているだろうか、と疑念が拭えなかったが、確かにきちんと展示されていた。ただし、従来の展示と比較してみると、次のような傾向が目立つように思えた。
①日本統治時代の記述、台湾総督府の役割に関する記述が、大幅に縮小された。
②中華民国政府及び蒋介石総統の正統性を明示する。
③その上で、台湾人虐殺の悲劇を国際的な悲劇のひとつ(他にはアウシュビッツ)として位置づける。
これまで「二二八紀念館」を訪れると、入り口にはご老人たちがいて「日本から来たのか?」と流暢な日本語で声をかけてくれた。戦前はこうだったと親しげに話してくれたのだが、今回は誰もいなかった。日曜日だったためか、時間がさらに過ぎ去ってしまったためか…。台湾の日本語世代は、消えつつあるのだなと思わざるをえなかった。
そういえば、新展示では、日本語解説用のレシーバを貸し出してくれて、蕭錦文さんのようなボランティア解説員は、誰もいなかった。(レシーバを借りるには、パスポートが必要!!)受付の女性は英語しかできないという。そこで、 私がお会いしたことのある蕭錦文さん、陳萬益さんという二人のボランティア解説員の消息を訊いてみた。そうしたら、何ともうひとりの女性が、陳萬益さんに電話をしてくださった。陳さんはすこぶるお元気で、「今から行くよ!」と言ってくださったのだが、時間がなかったので諦めた。蕭錦文さんも相変わらずお元気で、時折紀念館に勤務しているようだ。それにしても、こういう親切な対応。他の外国ではこんなことはありえない…と思った。
「二二八紀念館」を出た後は、旧・台湾総督府、台湾銀行、台湾博物館などの周囲を散歩。お定まりのコースになったが、偉容を誇る総統府(=旧・台湾総督府)の建物は、光線の具合で、毎回写真のイメージが変わる。それにしても、素晴らしい建築だ。同じような歴史遺産を”爆破”した国もあるのだから、台湾が今もなお、日本統治時代の建物を活用、あるいは保存してくれているのには、感謝するほかはない。
(台湾大学医院=旧・台北帝国大学医学部病院)
(中華民国総統府=旧・台湾総督府)
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