受験生にとってはいい迷惑だろうが、新しい「共通テスト」をめぐるすったもんだは、結構興味深かった。安易なリスニング重視の英語、記述式を取り入れるという国語、数学の問題点は、おそらく指摘されるとおりなのだろう。私がなるほどと感心したのは、「虎の門ニュース」(2019.12.12)における有本香の発言(下記映像の1:39:00あたりから)だ。
この映像は、早晩消されてしまうだろうから、要点だけ記しておく。共通一次試験の三期生あたりだった有本香は、マークシート方式で五教科を受験、それを自己採点して、志望する国公立大学を決めた。彼女は東京外国語大学インド・パキスタン語学科を受験し、社会科は世界史を選択した。そのときの試験問題は、一問だけの記述式問題で、千何百字も書かなければならなかったという。この経験から、記述問題は二次試験で各大学が出せばいい、と言う。
何年か前、東京外大の聴講生として佐藤公彦教授(現在は名誉教授、中国近代史)の講義を聴講したとき、入試問題作成に関わる話題が出た。その時点で、東京外大の社会科試験科目は、日本史あるいは世界史のどちらかを選択だったのだが、佐藤教授は、日本史、世界史の枠を取り払って、「近現代史」として出題し、記述問題で思考力を問うようにしたいと考えていると話された。未確認だが、現在はそのように改善されていると思う。
つまるところ、東京外大のようなまともな大学では、共通一次、センター入試を問わず、受験生の能力を総合的に把握しようとする努力がずっと続けられている。もちろん、大学の中の大学・東京大学は言うまでもないことだろうが…。
結局、この度の共通テスト騒動は、民間の教育産業と癒着した文部科学省と、利益優先の私立大が引き起こしたと言えるだろう。私立大学は、推薦入試、AO入試で受験生を確保したうえで、さらに共通テストに相乗りを図った。もともと2~3教科の軽量入試だったうえに、さらに安易な道を拓こうとしたのだから、まことに罪深い。巷間伝えられるように、塾経営者でもあった下村・元文科相などの文教族政治家がこれに絡んでいるのかも知れない。もしかして騒動の背景には、名ばかりの大学をまん延させて、日本国を衰退させようとする、誰かの深慮遠謀があるのかも知れない。
萩生田光一文部科学相は17日の閣議後記者会見で、2020年度開始の大学入学共通テストで導入予定だった国語と数学の記述式問題について、同年度の実施を見送ると正式に表明した。今後、共通テストに記述式を導入するかは「期限を区切った延期ではない。まっさらな状態で対応したい」と説明。導入断念も含めて再検討する方針だ。
20年度の実施を見送る理由では採点ミス解消の難しさなどを挙げ、「安心して受験できる体制を早急に整えることは現時点では困難」と述べた。英語民間試験に続いて記述式の導入も見送りとなり、大学入試改革は抜本的な見直しを迫られる。
萩生田氏は「採点ミスの完全な解消」「自己採点と実際の採点の不一致の改善」「質の高い採点体制の明示」の3点について、現時点では困難との報告が大学入試センターからあったと説明。「課題を解消できる時期を示すのは現時点では難しい」ため、無期限で導入を見送るとした。
今後は年内に設置する検討会議で大学入試での記述式問題の充実策を議論する。「大学の個別選抜で積極的な記述式の活用をお願いしたい」と述べ、同センターが作問して大学に提供する方法も含めて検討するという。
13年以降本格化した入試改革論議などに関わった歴代の文科相や省職員の責任に関しては「見送りを決断した責任は私にある。歴代の文科相はベストを尽くしてきた。特定の人の責任でこういう事態が生じたのではない」と述べるにとどめた。「目指すべき理想と様々なシステムの間の齟齬(そご)を埋め切れなかった」とも語った。
記述式は思考力や判断力、表現力を試す狙いで導入が決まっていた。共通テストを運営する大学入試センターが実施し、ベネッセホールディングスの子会社が約8千~1万人の学生らを集めて採点する計画だった。
しかし、採点者によって採点にブレが出たり、質の高い採点者を確保できなかったりする恐れがあった。さらに、受験生が出願先を決める際に必要な自己採点と実際の採点との不一致が多発することが懸念されていた。
英語民間試験は英語の4技能(読む・聞く・書く・話す)を試す狙いだったが、受験機会に格差が出るといった課題が解消できず、11月に見送りが決まった。文科省は今後1年をかけて検討会議で議論し、24年度に新しい英語入試を実施するとしている。
野党は17日、大学入学共通テストの国語と数学への記述式問題導入見送りをめぐり、政府の責任を厳しく批判した。共産党の小池晃書記局長は記者会見で、「教育現場を混乱させ、高校生を不安に陥れた政府の責任は重大だ。安倍晋三首相が謝罪すべきだ」と強調した。
立憲民主党の安住淳国対委員長は自民党の森山裕国対委員長と国会内で会談し、衆院文部科学委員会の理事懇談会を開いて政府から報告を受けることで合意した。安住氏は「文科委の閉会中審査を行い、萩生田光一文科相に説明してほしい」と話し、一連の経緯を追及する考えを示した。
また社民党の吉川元・幹事長は、「国会を閉じてから駆け込むような決定は、遅きに失した判断と言わざるを得ない」とする談話を発表した。