the other side of SmokyGitanesCafe
それとは無関係に・・・。
 





GITANESのジ の字も知らぬ頃。
それとは無関係に・・・。

ハタ君の家は、川沿いの道で八百屋をやっていた。
八百屋だけど、いろんなものを売っていた気がする。
私の家からは歩いて走って10分ちょっと。
友達になったのは小学校入学で、同じクラスになったから。
幼稚園のときはハタ君はいなかった。
他の幼稚園に行ってたのか、近くの保育園だったのかはわからない。
いつもニコニコしていたハタ君と、すぐに友達になった。
小学1年生だから、別にどこか遠くへ一緒に出掛けるということも
ない。ただ、たまに向うの家に遊びに行ったり
うちの近くの空き地や裏山で遊んだり、学校で遊んだりする仲だった。
どちらかというと私の方がやんちゃ坊主だったので
きっと一方的に迷惑をかけていたと思う。
それでもハタ君はニコニコしていて、一緒にいろんなところを
走り回ったり探検したりしていた。
教室ではヒステリックな先生にボロクソに叱られた私に
おどけた顔、おどけた動きでなんとか笑わそう・温めようと
していた。いや彼が、誰かが怒鳴られているという雰囲気に
耐えられなかっただけかも知れないが、
『そんな顔しても、オモロないねん・・・』と言う私に
しつこくしつこく構いにくる子だった。


1年生の終業式で先生がハタ君を前に呼び
皆に言った。
「ハタ君は残念ながら引っ越しして転校していきます。
2年生からは他所の小学校に行くことになりました」
ハタ君はにこにこしながら、何やら言っていた。
そうか、ハタ君とはもうすぐ会えなくなるんだ。
そういう経験がなかったから、どうしていいかわからず
私は無駄にテンションが高かったように思う。
ハタ君とは下校ルートが違うのに、ハタ君の家の方まで
なんとなく一緒に帰って行った。
「なあ、いつ引っ越しするん?」
「うん、なんかあさって って言ってたよ」
「そうなんか」
「うん」

その日、一旦ランドセルを置きに帰り
すぐにハタ君の家に誘いに行き、近所の空き地で遊んだ。
次の日は裏山で、他の何人かの友達も一緒にハタ君と遊んだ。

その次の日も、ハタ君の家に行った。
お店はたたまれ、荷物がほとんどなかった。
前にトラックが停まっていた。
ハタ君とお母さんがいた。
お母さんが
「あらあら、さすがに今日はもう遊べないわ」

あ、そうか。引っ越しの当日って、遊べないんだ。

ハタ君のお母さんが、ビスケットを私に持たせた。
普通に市販されているビスケットだった。
ハタ君ちの店の売り物だったのかもしれない。
「今までずっと仲良く遊んでくれて、ありがとうね」
とお母さんが引っ越しの手を休めず言った。
どう返事していいかわからず、黙ったまま回れ右をした。

振り向いたらハタ君はニコニコしたまま
こっちを見ていた。

「ハタ君!!」
「はいよ!」

なんて言ったらいいんだろうか。
お礼かな、なんだろう・・・。

「ハタ君!!バイバイ!!」

ハタ君はなんだかクシャクシャの、それでも
過去最大級のニコニコ顔で

「うん!!バイバイ!!」

と、私と同じぐらいの大声で返した。
周りのオトナたちが少し笑っていた。


また回れ右して、川沿いの道を走った。
ビスケットを落とさないように両手で持って、走った走った。

「なんで、こんなときみんな笑えるんやろなあ・・・。」

家まで走った走った。
土手沿いは桜で白とピンクで染まっていて
それが眩しくてあんまり見たくなかった。
川面も染まっていた。


それから一度も、ハタ君とは会っていない。






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