the other side of SmokyGitanesCafe
それとは無関係に・・・。
 



GITANESがそもそも妄想なのか。
それとは無関係に・・・。

山田八郎の、ささやくような「コロッケ讃歌」に気づかないフリ
をしているうちに、山田八郎は「ごきげんよう」と言い残し
部屋を出て行った。
彼が年中タキシードを着ている理由は、声楽家を自称しているから
なのか、あるいは作曲家としてのスタイルを確立したいのだろうか。
それならばタキシード姿も理解できなくはない。
しかしそれならばバッハのような全方位巻き巻きクリンクリンの
カツラをかぶっていた方が手っ取り早いのに。
またノックの音がした。
「開いてますよ」
山田八郎にこれ以上コロッケを渡すと夕飯のおかずが足りなく
なってしまう。それだけは阻止しようとしたが、幸か不幸か
入ってきたのは山田八郎ではなかった。
私「どなたですか?」
痩せぎすの、長身の男だった。顔色が青黒い。阿修羅男爵の
どっちか半分のような顔色をしている。斬られ役の先生に
似ていなくもない。
私「?」
青黒「ええと、茶柱のオーナーさん?」
私「ええ、そうですけど。あ、入居希望?あいにく、」
青黒「いやいや、そうじゃない。あのね。あなたがね、」
言いながら男は靴を脱いで上がり込んできた。
咄嗟に『靴を脱ぐだけマシかも』と考えた。
ついでにドアも閉めていただきたかったが、どうも話かけにくい
人物だ。
私「ええ。」
青黒「あなたがね、どうも人探ししてるって聞いてね。」
私「あ、あの・・・ちょっと頼まれましてね。」
青黒「写真を持って嗅ぎまわってるってね。それはね。
  やめた方がいいよ。」
私「・・・」
青黒「やめた方がいいな~。うん。その方がいい。」

私「私も事情わからずに、頼まれたもんで・・・。」
青黒「そうみたいだね。で、女が誰だかわかったの?」
私「いえ、全然それがまだ。」

男はタバコを取り出し、吸わずに匂いだけ嗅いで
またタバコの箱をポケットにしまった。
私「あ、灰皿はこっちに」
青黒「いや、吸わないの。医者に止められててね。せめて
   においだけ嗅いでるの。」
私「・・・」
青黒「病院嫌いだからね。だってね、何をされても結局
   痛いでしょ?注射とか点滴とか切るとか縫うとか。
   だから極力世話にならないように、医者の言うことには
   従うのがポリシー。」
少し笑った男の顔は冷たい迫力で満ちていた。

青黒「あ、茶柱さんは痛いの好き?僕はね、自分が痛いのは
   大嫌い。でも他人が痛いのは平気。」
私「・・・」
青黒「ねえ、探さない方がいいと思うよ。あなたに写真渡して
   人探し頼んだの、Aさんだっけ?」
私「そう、だったかなあ・・・」
青黒「そんなところトボケてもダメだよ。もうね、茶柱さんは
   人探しなんかせずに、静かに大家さんやってる方がいいね」
私「そうですかね?」
ずっと立ったままの彼は私を見下ろしている。
青黒「わかってくれるよね?世の中にはね、探されたくない人も
  いるんだよね。」

開いたままのドアの向こうにシルエット。
まだ鉄鍋を両手にひとつずつ持ったままのドジョウひげだった。
どじょう「大家さん、お客か?お?どっかで見たなアンタ。」
青黒「なんだこのなまずヒゲは?邪魔するな。」
どじょう「ナマズって何ダヨ!おれはドジョウひげって
     立派な呼び名があるヨ!」
青黒「ドジョウって、そうか、小柄だからナマズじゃなくて
   ドジョウなのか?」
どじょう「ドジョウは別に小さいナマズって訳じゃないあるヨ!」
青黒「ないあるヨ って、どっちなんだよ?」


どじょうヒゲは両手の鉄鍋を、必殺の武器のようにゆっくり
回転させ始めた。
どじょう「お前、大家さんに何の用か?!怪しい奴め!」
青黒「お前だって十分怪しいじゃねえかよ」
どじょう「知ってるぞ!お前駅裏のXビルに出入りしてる奴らだろ。
     もめ事か?!ええ?」
青黒「それがどうした?」
どじょうヒゲの鉄鍋の回転数はゆっくり上がっていった。
何なのだ?戦いが始まるのか?だとしたら、あの鉄鍋は
どんな攻撃の仕方になるのだろうか。
興味は尽きないが、部屋の中で鉄鍋で戦われるのもよろしくない。
私「まあまあまあ!」
と割って入る。

青黒「なんだよこのナマズはよう。あ、ドジョウか。」
私「仰ることはわかりましたので。」
青黒「あ、そう。じゃあいいや。そういうことで。」
どじょう「帰るのか?!」
青黒「なんだよ、さっきからケンカ売ってるのか?」
どじょう「いや、まあそんなことはないアルヨ。」
青黒「ない・のかよ、アル・のかよ?」

最終的には二人を廊下に押し出した。
青黒「邪魔したね。俺はね、Xビルの『ピンセットのジョー』だ」
どじょう「変な呼び名だネ!」
青黒「うるせえよ、鉄鍋ドジョウ。」
どじょう「リーチーツゥって立派な名前があるヨ!」
青黒「ピンセットだって、使い様によっては痛いんだぜ?」
ピンセットをどう使うのかにも興味津々だったが、もう頭が痛くて
我慢できなかった。
二人には丁重に帰ってもらった。

写真の人物のことはまったくわからないままだったが、いくつかの
ことがわかった。

●ピンセットのジョーという気味の悪い男がいて、ピンセットの
 痛い使い方をするらしい。
●写真の人物は探さない方がいい、と脅された。
●どじょうひげことリーチーツゥは気が短い(なぜ怒ったのかは
 わからない)。

そして、
●なまずの小さいのがどじょうという訳ではない。

」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

そしてストーリーは進まない。




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