今年5月以来の歌舞伎「十二月大歌舞伎・第二部」に出掛けた。
昨年11月以来の今年初の歌舞伎座は前から二列目の花道のすぐ隣の席だった。舞台も花道も近く目の前に獅童がいるだけで少し緊張してしまう。
【みどころ】
一、加賀鳶(かがとび)江戸の粋を感じる、黙阿弥の傑作
本郷界隈では先日、加賀藩お抱えの鳶と旗本配下の定火消の間で大喧嘩が起こりました。今日も日蔭町の松蔵をはじめ、加賀鳶が勢ぞろい。血気に逸る若い者たちを、頭分の天神町の梅吉が留めます。日の暮れた御茶の水の土手際では、按摩の道玄が通りかかった百姓を手に掛け、懐から金を奪い取ります。小悪党の道玄は、訳ありの仲のお兼と共謀して、姪のお朝の奉公先へ強請りに行きますが、そこに土手際で道玄の落とした煙草入れを拾った松蔵が現れて…。 名作者・河竹黙阿弥による本作は、序幕の加賀鳶たちの圧巻の七五調のせりふをはじめ、道玄の図太い本性をあらわす様子や、松蔵とのやり取り、おかしみを交えただんまりなど見せ場が尽きません。どこか憎めない道玄を中心に、江戸の粋な雰囲気のなかで生きる人々の息吹を巧みに描いた世話物の傑作をご堪能ください。
強盗殺人、脅し、家庭内暴力と極悪非道の松緑演ずる竹垣道玄をイヤホンガイドや解説ではどこか憎めないキャラクターと紹介されるのは解せなかったが、雀右衛門演ずる女按摩お兼と共謀した浅はかな脅しは現代の短略的な事件にも通ずる。もしかしてあえてこの時代に上演することに何かしらの意味があるのかも知れない。日蔭町松蔵の勘九郎がまあ御父上そっくりであった。
二、鷺娘(さぎむすめ)儚い恋を描いた、情景あふれる名作舞踊
しんしんと雪の降る水辺に、白無垢姿の娘が佇んでいます。蛇の目傘を差したこの娘は、人間の男との道ならぬ恋に思い悩む鷺の精で、切ない恋心を次々と見せていきます。恋する男と結ばれた頃の昂揚感から、やがて恋の妄執が甦り…。 宝暦12(1762)年に初演された本作は、恋に迷う女性の姿をさまざまに見せていきます。幻想的な美しさのなかで激しく凄まじく踊る幕切れは特に印象的です。歌舞伎の長唄舞踊のなかでも屈指の名作をご覧に入れます。
鷺の精・七之助の舞とたくさんの早変わりが美しいのだが、座席の位置から時々少しだけ早く早変わりが見えてしまったのが勿体なかった。終演後にクリスマスのイルミネーションに飾られた銀座の街を歩く。これもまた師走の歌舞伎鑑賞の楽しみのひとつである。