フルムーンの旅
当時話題になった、高峰美枝子と上原謙のポスターに釣られたわけでもないけれど、
キャンペーンに乗った形で「フルムーンの旅」に参加申し込みをした。
やっと、退職後の気の迷いも晴れ、気分も落ち着いた頃だった。
そして、かりそめにも国鉄職員だった身には、全線グリーン車使用の旅にしては格安に見える費用も魅力で、
しかもタイミング良く目に入った宣伝は「山陰山陽四国の旅」だ。
実は山陰山陽は新婚旅行のコースでも有り、その後なぞりをするような計画でも有ったのだ。
その新婚旅行は苦い思い出も一杯詰まっていた。悪友どもの作戦にまんまと引っ掛かり、
前後不覚になるほど酔ってしまった末の新婚旅行の船出で苦い記憶は忘れようとしても忘れられない生涯の不覚。
しかも、旅が二日目にかかった日に国鉄のストにぶつかり列車は全面運休。
国鉄職員の新婚旅行がストに遭うなど皮肉以外の何物でも無い。
その一日はタクシーを借り切っての旅になったのだった。
そんな色々な思いを載せた旅は、留守番とマックスの世話を娘達に託して出発となった。
上越線の普通電車はもちろん普通車のみ。
しかし、浦佐で乗り換えた新幹線からはグリーン車で有り旅の気分も一気に盛り上がる。
この旅の集合場所は東京駅の八重洲口。集合時刻までの時間に周りを歩き、バスの誘導員と話をした。
「フルムーン旅行に参加したのだけれども格安の料金ですね」と話しかけると、
「いや、そんなものでしょう」と素っ気ない返事。
(続く)