またまた昔々の話です(その3終わり)
そして、その後の話
近付くと小屋の中から、一人の女性が顔を覗かせた。挨拶をすると、人懐こく話しかけてくれた。
ご主人とお二人で、小屋に泊まり続けてゼンマイ採りを続けている。
ご主人が採るゼンマイを「かまど」に掛けた大鍋で茹でて干しては揉んで仕上げているのだ。
土曜日になると、小学生の子供達が、峰を越えて遊びに来る事等を嬉しそうに話す。
やがて、沢の奥から「ホーイ、ホーイ」と呼ぶ声が近付いて来た。女性の顔が輝く。
「帰って来た」と嬉しそうに言う。
御主人は背中に沢山のゼンマイを背負い、カチリ、カチリと足音を立てながら歩いてくる。
「金カンジキ」と呼ぶ、鉄製の金具を足袋の上に履くワラジに付けているからだ。
二人とも、邪気のない笑顔で話しかける。私の祖母の実家があるから来ていて、
当然その家も分かると言う。
こんな山奥の、粗末な小屋でも、話の種にはなるだろう。入ってお茶でも、と勧められた。
しかし、ずぶ濡れの下半身では、入る事はかなわない。入り口で熱いお茶を頂き、別れを告げた。
暖かい林道の両側の、こぶしの花などの景色を眺めながら帰途を急いだ。
やはり祖母の話した川に間違い無かった事を確信しながら。
(終わり)