12で売られた美鈴は体が大きかった事もあり すぐ店に出されることとなった
その店には他の店にない手順があった
初めての娘を ご隠居に試してもらうのだが まったくの生娘は老人相手は怯える
そこで慎之介の出番となる 彼は抱かれ方を指南するのだ
勿論破爪はしない
彼は立たない
女遊びが過ぎたのか 原因は分からないがダメになってしまっている
しかし過去の女遊びで どうやれば女が悦ぶか知り尽くしていた
どうにかしてくれ!と女が思うほど ただただ快感を与え続け 男に抱かれるのが悪いものでない事を 女の体に教える 覚えさせる
「そうよ 触ってみねい 自分に そうして濡らしておかねぃと辛いぜ」
客を悦ばせたら いい思いをさせてやったら てめぇが楽になるのよ 適度に突き放し それでも優しく女に教える 「客がみんな ここまでするとはかぎらねぇ だから てめえで支度しておくのよ」
お仕込みのせいで ご隠居は いたく美鈴が気にいり そのまま身請けの運びとなった
それから十年 ご隠居は死んだ
美鈴は三味線と踊りを身につけ
ご隠居から住む家と家賃の上る長屋を遺された
自由の身となった美鈴は 慎之介の行方を確かめた
十年の間に慎之介は店を離れ 夜泣き蕎麦の屋台をひくようになっていた
この薄倖の娘は 十年 ずっと慎之介を想ってきた
老人に触れられる時 これは慎之介なのだと思い込むことで 耐えてきた
汚れ切った体だけど いつかもう一度逢えるなら!
たった一つの夢
小雨が降り始め 今夜はこれまでだなと 慎之介は 空を見上げる 「お蕎麦いただきたいのですが」
若い女の声に 黙ったまま 慎之介は支度をする 「つっ立ってねぇで座んねぃ」
黙って蕎麦を食べ終わった美鈴は 早口で つっかえながら 思い切ったように尋ねた
「どうして お店やめたんです」
「おめぃ・・・」 慎之介は 呆れた顔で 客を眺め直した
「ふ・・・ん たっちゃいけねぇ商売が たつようになっちまった それだけの事さ」
夜泣き蕎麦屋を勝手に美鈴は手伝うようになり
半年後 押しかけ手伝いの美鈴に押される形で 慎之介はめし屋を開く
押しかけ手伝いは やがて押しかけ女房となり
その頃には めし屋は安くてうまい評判をとるように なっていた
「よりにもよって俺なんざを―」
「怖くてしかたなかった・・・知らないお年寄りに体をいじられることが あたし なんにも知らなかったンですもの
慎さんのおかげで それが怖いもンじゃないと 教えてもらって やり過ごし方も 覚悟もできました
あたしにとっちゃ慎さんは恩人なんです」
「おめぇ・・・」
ひどく変わった形の出会い方ではあったけれど 慎之介は美鈴の初恋の相手であったのだ