祟り?
聞き間違えたのかと思った
竹丘さんは冗談を言ったのではないようだった
「いったん ここは離れたほうが良さそうだ 」
ちょっと私を見て 周囲を見渡し 考えるふう
「さて 腹が減っては戦(いくさ)は出来ぬー 食料品買い込み 手伝って下さい」
「あ・・・はい」
駅前のスーパーに入り カートにカゴ二つセットしながら
「好きなの 食べたいと思うの 遠慮なく入れて下さい 」
果物・野菜 さっと手に取っては入れて行く
買い物には慣れているようだった
「僕は一人暮らしが長いからー」
気取りなく笑う
かぼちゃ サツマイモ ジャガイモ 人参 キャベツ 白菜 卵 牛蒡 鮭 鯖 豚肉 牛肉 鶏肉 挽き肉 ハム ウインナー ベーコン
蒲鉾 冷凍食品色々 飲み物類 パン 小麦粉 白玉粉 片栗粉 調味料類 蜂蜜ー
あっという間にカゴ二つ 山盛り状態になる
空の段ボールに 意外に几帳面に詰めて行く
一度車に買った品物を積み 今度はティッシュペーパー トイレットペーパー 洗剤類
ポテトチップスやお煎餅 お菓子にあめ玉 ガム
「昔 叔母が 世話してくれた人が よく一緒に買い物に連れて行ってくれた
作る予定の料理を説明しながら 時々相談してくれてー カレーとシチュー どっちがいい?
僕は どっちも!って答える
じゃ 牛肉も鶏肉も買っちゃおう ーって彼女が答える
僕は あの時間が大好きだった
皮むきでジャガイモをむかせてくれたりー」
ああ この笑顔は 寂しそうな 懐かしそうな笑顔はズルいと思う
今日 会ったばかりなのにー
お店ですれ違う客が振り返って見ているのに それっくらい目立つ人なのに 全く意識していない
町を離れる前に 竹丘さんは 他に必要なモノはないか 気にしてくれた
私は何枚か着替えの服と下着と 必要になったら困る品を買った
山を大きく迂回するように道路が作られている
「この山の反対側に本家の屋敷は建っている」
説明しながら 竹丘さんは運転する
町を離れる時に 運転を代わった
麓と言いながら緩やかに道は上っていた
竹林が続いている
「あの松が頑張ってるのが表門 車の出入りに 一々降りないと面倒だから 祖父は自動車用のリモコンで開閉できる入り口を横に作った
裏口にも玄関にも行けて 戸締まりも楽」
エンジン切ると また笑った
日本建築だけど 手が入れてあり 玄関の鍵もカードだった
「祖父は けっこう面倒臭がりだったんじゃないかな」
車から荷物を下ろしながら笑う
十台以上は軽く駐車出来そうなスペースの奥に シャッター付き 屋根付き車庫があり 日産のエルグランドがあった
「亡くなった祖父のだった まだまだけっこう動くんだ
ノートが僕の
レンタカー いつまでの約束で借りた?
良かったらノート 使っていいから
これ 運転しやすいんだ」
エルグランドの奥に ちんまりノートが停めてあった
廊下を進み 台所へ 意外にもシステムキッチンで 特別注文なのか 調理スペースが広い
タイルが一つ15センチと見当つけて数えたら 8枚
120センチあるみたいだ
30×3 三つ ある IHの加熱調理器 脇に30センチのスペース それから 食物庫が並んでいる
流しの横には二段の水切り台 それからオーブントースター コーヒードリップ 炊飯器 これも大きな冷蔵庫と冷凍庫
流しと調理スペースの前には 大きく出窓がある
やたら広いテーブルには 椅子が12脚
パソコンの反対側の壁には食器棚にテレビ
その壁の奥には 予備の収納室があった
「季節のー重箱とか 普段使わない食器とか なんかごちゃごちゃ入ってる 」
ということだった
起きている間中 いられるツクリになっているのだった
買ってきた食料品を手際良く片付けながら 竹丘さんが何処に何があるか説明してくれる
引き出し収納の中は使いやすく片付いている
圧力鍋 フライパン ビタクラフトやル・クルーゼの鍋も幾つかあった
「祖父はー 夢があったんだと思う
このリフォームされた屋敷を見るとね 自分が暮らしやすくも勿論あっただろうけど
高齢者の一人暮らしだったから
いつか全ての問題が片付いて ごくごく普通に家族と暮らせる日をね
僕を守る為に 僕から離れて生きた人だけど」
荷物を片付け終わると 屋敷の中を案内してくれる
「僕は祖父の部屋をそのまま使っているけどー」
竹丘さんの部屋は一階だった
ちょっと考えた竹丘さんが案内してくれたのは 二階
東南に面した部屋だった
「この屋敷は 以前 火事になり 祖父が新しく建て替えた
祖父はずっと一階で暮らしたから 二階に住んだ人間は誰もいない 」
その部屋にはバルコニーもついていた
近くにシャワー室とトイレもある
部屋が決まると 竹丘さんは ベッドに寝具一式運んできて 布団乾燥機をかける
実に こまめな人だった
「あはは・・・ だって一人だと 後回しにしても誰もやってくれないからね」
「お母さんのことは心配いらない
弁護士に頼んでおいた 」
再び一階へ降り 台所のテーブルに落ち着くと 竹丘さんは言った
「いつの間に」
「久保山さんが買い物をしている間に
弁護士は ちょっとは事情を知っているから 便宜をはかってくれる
経費は かかるけどね」
飲み物を飲み 買ってきたケーキを食べ終わると私たちは書斎に移動した
そうして竹丘さんは 「随分とね 長い話になるよ」
私への説明を始めた