「天王山」は、京都府の西部にある標高わずか270mの山である。
昔、織田信長を討った明智光秀とその仇討ちを果たそうとする羽柴秀吉が戦った山崎の戦い。その時、この山を制した方が天下を取ることになるとして「天下分け目の天王山」という言葉で表現されたという。
今でも勝負の世界では、よく雌雄を決する戦いの際などに、標高の低いこの山の名前が出てくる。
天下を取るための戦いに「天王山」はよく使われるようになったとわかる。
しかし、昨日行われたサッカーJ1新潟-松本の戦いは、「裏天王山」だと呼ぶ人がネット上で見られた。
15位新潟と降格圏16位松本との勝ち点差は3。
覇権を制するのが天王山。
天下を取るわけではないが、きわめて重要な一戦。
松本が勝てば、勝ち点で新潟に並ぶ。
負けた場合は、下のJ2が近づく。
そういう意味でも、「裏」の天王山。
会場のビッグスワン新潟の駐車場に着くと、近頃になく多い車の数。
松本から多数のサポーターが応援にかけつけたのか?
それとも、J1残留の願いを込めて、新潟の応援に県内から多数が詰めかけたか?
いつものゲートから入る時、あれっと思った。
今日は、JAサンクスデーで、新米のおにぎりがもらえるはず。
ところが、もらえなかった…。
ということは、入場者数が多くて、おにぎりはもう配り尽くされたということか?
スタンドに入ると、確かに観客は多い。
南側の1階スタンドは、ビジターに押されて、幅が極めて少なくなっていて、2階スタンドからの観戦。
4000人も松本からは応援に来ていたらしい。
熱心な松本の応援の声が響き渡っていた。
しかし、今日の新潟のゴール裏のNスタンドは、松本に負けず気合が入っていた。
選手入場時には、「アイシテル ニイガタ」のコレオグラフィを見せる。
そして、試合が始まると、「アイシテル ニイガタ」を歌い上げる。
オレたちがついてるさ 新潟
やけどさせてくれ このゲーム
そう、やけどするくらい熱い思いのあふれた試合を見たい。
試合は、前半互角で進む。
ただし、ナビスコ杯も天皇杯も先週敗退してしまい、もう残るは残留争いしか残っていない新潟は、気合が入っているのがわかる。
水曜日の天皇杯の試合に出場せず、今日の試合にかけてきた選手たちの動きはすこぶるよかった。
相手のエースにボールを持たせない。
徹底的につぶす。
決定的な場面では、新潟の方が多かったが、シュート数では松本の方が多い前半であった。
そして後半へ。
今季を象徴するような、チャンスに決めきれない展開か?
そうこうしているうちに、ワン・チャンスを決められて負けてきたのが、今季の試合。
だから、こんな下位にいる。
ボール支配率は高いのに。
今日も、選手たちは相手のエリアには迫るのに、シュートが打てない。
…そう思っていた時、突然、シュートが決まった。
強化指定選手として、来季に正式入団の予定の端山のシュートだった。
けが人が多い新潟で、9月からの数試合、ずっと先発出場していた。
慶応大学4年。FC東京からドイツ・マインツへ移籍した日本代表武藤の後輩だ。
さわやかなイケメン顔の彼が、見事に決めてくれた。
その3分後、今度はセットプレーから、主将であるDF大井のヘッドから追加点が決まった。
2-0。
久々に空席が少ない場内全体が、大揺れになった。
来場者数の発表では、31,324人。
今季初めて、3万人を超えた。
見たかったのは、こういう試合。
新潟が、攻守にわたってイニシャチブを握り、試合を支配する。
焦ってきたのだろう、松本の攻めが雑になってきた。
油断せずに守れば大丈夫。
決定的に危ないような場面はなく、タイムアップの笛が鳴った。
勝った!
新潟、裏天王山に勝利!!
残り3試合で、松本に対し、勝ち点6の差になった。
そして、順位では、神戸を勝ち点1上回り、鳥栖と勝ち点では並びながら得失点差で上回り、順位は13位に上昇。
だが、ヒーローインタビューでも、責任感の強い主将大井の表情に笑みはなかった。
オレたちは、もっとできたはずだ、というプライドがにじむ。
そう。われわれもタイトルを期待していた。
だが、もう残るは、J1リーグ戦の3試合しかない。
タイトルはもう望みは絶たれている。
ただ、“PRIDE OF NIIGATA”…選手たちの誇り…をもっと見たい。
残り3試合、勝利で2015シーズンを締めくくろう。