神奈川縣立金澤文庫の企画展「江戸当世図上旅行」を觀る。
關所や通行手形に象徴される如く、道中(旅)について法的にやかましかった江戸時代、庶民にとって旅は“抜け参り”などの手段をとる以外には容易なことではなく、
(※當企画展に限り展示物の撮影可)
細やかに綴られたその記録は、それ以上に生涯數少ない經験をした記念──“思ひ出”として殘しておきたいものでもあったらう。
現代は旅先でもスマホひとつであらゆる事が足りる時代であり、私も大いにその恩恵に與ってゐる一人だが、地図については、私はやはり“紙もの”にこだはる。
スマホで検索する地図(マップ)はあくまで紙の地図の補助にすぎず、紙の地図ならば、その旅先で見たこと、聞いたことをすぐに書き留められ、結果的に地図を超える情報の詰まった臨場感あふれる資料となる。
さうして使ひ込んでヨレた地図に、私は一緒に旅をした記念──“友情”をも覺へて、旅のいちばんの思ひ出となるのである。
懐中用に小さく折りたたまれた大判の道中繪図の折れ線には、そんな旅人たちの様々な思ひ出が、たくさん刻み込まれてゐるのだ。