ラジオ放送で觀世流「山姥」を聴く。
現行の能樂に登場する山姥とは、後世で創られた坂田金時の母親となるそれではなく、越中と越後の國境にそびえる山中に棲むそれであり、老婆と云ふより、性別を超越した妖しい存在として、捉へられてゐる。
山姥と聞くと、私などは茫々たる白髪を振り亂した姿を、そして一昔以上前、何かと嫌味ったらしくて好きではなかったヒトと久しぶりに忘所の階段で出くはした時、相手がすっかり総白髪となってゐて、階段を降りて来るその姿がまるで山姥の山下りのやうで驚いた記憶とが、いつも二枚續きで蘇る。
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ヒトは年齢を大いに重ね、仙域に達すると性別すらも曖昧となるやうで、婆さんのやうな爺さんは随分と見てきたが、なぜか爺さんのやうは婆さんには會ったことがない。
さて、あの時に階段で遭遇した“山姥”は、どちらであったか……?