陶芸工房 朝

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雨月物語

2006年08月29日 | 日記・エッセイ・コラム

 BS2で、溝口健二監督の映画「雨月物語」を観た。

 場面1

  思いがけず、男が轆轤をひいているではないか。傍らで女房が、ハンドルのような棒を手に持って、懸命にろくろを回している。父親の手元がアップ、どんぶりのようなものを挽いている。子どもが、轆轤を回す母親に抱きついて、何かをせがむ。「手をとめるな」と父親が叫ぶ。母親は、子どもを抱えて、なお一生懸命に轆轤を回す。父親がどんぶりをシッピキで切り取る。(役者の手つきがちょっと甘いかなぁ、・・・・・)。

 場面2

 窯にうつわを詰めている。小ぶりの登り窯のようだ。もう一人の男がうつわを手渡し、もう一人の男が、窯の中でそれを受け取り、窯に詰めていく。女たちは、うつわを載せた棚板を肩にかついで、運んでくる。

場面3

 窯焚き。女房がせっせと薪を窯に放り込んでいる。焚き口が横についている。傍らにはまきの束、女がそれを取って焚き続ける。男たちは放心したように地べたに寝転んでいる。

 

場面4

藁で編んだコモに焼き物をくるんで、船に積む。船は琵琶湖を渡って都へ向かう。夕もやの琵琶湖は霧で霞んでいる。時には、海賊が出て行く手を襲うという。男たちは死に物狂いで、危険を犯して船を進めてる。

場面5

 街は人であふれている。路上いっぱいに広がる露天市。焼き物は飛ぶように売れる。腰の袋のお金がどんどん増えていく。美しい女が現われる。

 時代は天正11年。戦国の時代である。場所は信楽あたり。(琵琶湖を渡って都に焼きものを売りにいくところから考えて)。

 天王寺の乱で織田信長が切られ、柴田の兵や羽柴の兵と、戦乱が絶え間ない。山奥の窯場も戦乱に巻き込まれる。武器のない農民はただ逃げ惑うばかり。窯の火も消えてしまう。

 雨月物語は、もともとが妖怪ものである。やがて話は「窯」から離れて、戦乱で滅ぼされた一族の亡霊の話に進展する。それが本筋なのだが、私には、この「焼きもの」の場面が興味深かった。作り方、運び方、売り方、などなど。時代考証もよく考えられているし、画面も美しい。平凡な百姓に飽き足りない男たちが、一攫千金を求めて巷にうろうろしていた時代、焼き物も、そんな男たちの夢をかなえる手段の一つだったのだろう、そんな感じを受けた。

 力のある作品である。徹底したリアリズムで画面を構成しながら、そのままの手法で、いつの間にか妖艶な亡霊の世界へと見る人を誘い込む、俳優もなかなかのもの。楽しめた。