先日、柳人の中野文擴さんを通して小林康浩さんから戴いた川柳句集『どぎまぎ』(2020年発行)。です。
巻末のプロフィールを見ると、1957年のお生まれ。
そして33歳の時に時実新子さんを知り川柳を始めると。
その後、2003年に 週刊朝日「川柳新子座」大賞など数々の受賞歴をお持ちだ。
新子さんに認められた実力者なのですね。
2006年に初句集『道化師』を出し、この『どぎまぎ』は第二句集とのこと。
大きさがいいですねえ。ソフトカバーの新書版。
ページ数も100ページに満たないのでポケットにも入る。
そこがねらいだったとあとがきにある。
265句が載っている。
この背後に「数多の没句が鬱然と樹海を形成している」とのこと。
ということで、数多の自句の中から厳選されたもの。
でもね、全て紹介するというわけにもいきませんので、わたしの独断でいくつか。
章分けがしてあって、「つべこべ」、「じたばた」、「どぎまぎ」、これだけで川柳ですね。
押したドア軽過ぎて乱入となる
誠実で百万人に嫌われる
◎落ちぶれた鬼なら追ってみたくなる
セレモニーの鳩そそくさと帰りゆく
村人が息を殺している帰郷
野辺を行く花嫁の手に脈がない
帰り道さてこんな道だったっけ
たくさんの駅を飛ばして幸せか
◎照れるなあ低額所得者だなんて
花子ちゃんは花が嫌いでイジワルで
一度だけ母を叱った日の小雨
鳴るものはみな風鈴になりたがる
釣り上げた魚が海を振り返る
見ましたねポストの前の合掌を
臆病って病気なのかと問う烏
ともだちの生る木があったその昔
華やいだ街へと帰る見舞客
犬もまた遠い目をする川の風
コンパスで描かれて月は怒り出す
◎誰が知るみどりのおばさんの孤独
忘れたいところに貼っている付箋
訃報欄が好きだとどなたにも言えず
極楽の絵もじゅうぶんに恐ろしい
◎やわらかいナイフのような「お大事に」
罵られた言葉を辞書で確かめる
気付かない 切り離された一輌に
深々とお辞儀をすれば草千里
された事していただいた事も夢
◎エンドロール 鐘が響いているばかり
いろんな角度からの視線が感じられて、多様な趣の句が楽しめます。
人生経験が豊富なんですね。人間を見る眼が深く鋭いです。
そうでないとこれだけの作品を創ることはできないでしょう。
そこを新子さんはしっかりと見ておられたということ。
小林さん、ありがとうございました。