◎雲のむこう、約束の場所 (2004年 日本 91分)
製作総指揮・監督・脚本 新海誠
◎1999年、ヴェラシーラ、津軽海峡を越える
きわめて好きな世界観と物語なので、もはやくだくだと書いても仕方がない。
青春映画の骨頂はモノローグにある。吉岡秀隆のそれはこの物語に充分抒情性を持たせてくれた。さて、塔がパラレルワールドのこの世界においてさらに別なパラレルワールドの存在であろうと、その塔そのものが眠り姫となっているヒロイン南里侑香の夢のもたらすものであろうと、またそういうパラレルワールドを構築した者が南里侑香の祖父であろうと、そんなことはあんまり関係ない。ぼくはここに展開されている津軽の風物の中で、塔に辿り着きたいという少女の夢を叶えるためにふたりの少年が飛行機ヴェラシーラを作り、しかしその完成も待たず少女は行方知れずとなり、さらには少女が眠り続けていることも最初はわからず、ひとりの少年は少女の夢である塔を見つめることを拒否して上京し、もうひとりはその塔を遙かに望みながらもしかしヴェラシーラと共にあるとかいう設定だけで、もう充分なのだ。
青春の思い出というものはひとつひとつの忘れられない場面が重なり合って出来ているのだろうけれど、それはこの作品では津軽の鉄道の沿線のさまざまな風物と共にあるのだけれども、こういう風景と一体になれる青春の思い出を持っていられるだけこの主役の3人は幸せというほかなく、それを抱えたまま当時の希望すなわち塔への飛行を具現化させるというだけで、かれらの半生は幸福に満ちているとおもえるんだよね。