☆別離(Nader and Simin, A Separation)
アスガル・ファルハーディー、うますぎるくらいうまい。脚本もさることながら、演出が上手なんだな。
ファーストカットからしてその演出力は卓越してる。離婚はしなくないが自分と娘の将来を考えれば海外に移住することが最良の選択で、そのほかの道を選択するには離婚するほかないという妻の一方的な主張を、となりの夫が受け入れがたいという姿勢であらがいつつも平行線のまま調停員との話し合いが進んでゆくという主人公の置かれている立場と将来への不安とをひといきに見せてしまう。それも調停員の目線というフィクスで。見事だな。
その後はラストまで脚本の勝利だね。夫の父親の痴呆、介護人のいきなりの不在、新しい介護人の事情つまり靴職人の夫が気難しいために警察沙汰になり収監されたことから生活苦になって朝五時半に幼い娘をつれて仕事に来ないといけないという不安定な事情のために疲れ果てていることから、痴呆の父親が徘徊し、それを家へ連れ帰ろうとしたときのラストまで語られない交通事故がすべての原因になっていること、この事故のために流産したんだけど、それをいえないのが痴呆の父親を外に出してしまったという介護人のミスがあるから真実をいえないという背景が、悲劇を生んでいくという実に巧みな構成はなかなかおもいつくものじゃない。
日頃から庶民の生活をちゃんと観察している姿勢がものをいう、そんな映画だな。
それにしても主演のレイラ・ハタミは気がいかにも強そうなんだけど、上品で綺麗だね。