最近変異株の感染が顕著だ。社会的免疫の獲得が先か、ウィルスの変異が先か、の様相をおびてきた。新しいデータを用い現時点におけるCOVID-19の社会的免疫の獲得時期について、都市計画の専門家の立場から予測してみよう。
1.ワクチン接種回数の日米比較
日米のワクチン接種回数累積値をみたのが図1である。グラフの傾斜をみると米国と比較し日本の傾斜が緩い。米国の1日あたりの接種回数がおおよそ300万回、日本は80〜100万回で推移している。日本は米国の1/3の遅い速度だが、それは人口比があるからだという理由だけではないでしょう。米国、イスラエル、英国は既に大方の接種を終えているので、万事遅すぎる日本の対応の現れとみられる。政府の対応が遅いということは、それだけ感染者と犠牲者を増やすだけであるばかりか、医療への負荷を増加させる悪循環に陥ることになる。
図1. ワクチン接種回数累積値の日米比較
出典:Oxford Univ.Our World in Data、https://ourworldindata.org/covid-vaccinations
2.日本の感染状況とワクチン接種回数の関係性について
図2は、1日の感染者数とワクチン接種回数累積値の推移をみた2軸グラフである。感染者数の急増とワクチン接種回数累積値とが、いずれも増加傾向だから正の相関になる。これが7月の新しい傾向である。つまり変異株による感染者数の急増がある。
そこで1日の感染者数とワクチン接種回数累積値の推移を、半月ごとの相関係数でみたのが図3である。7月の顕著な特徴は、+側の相関である。ワクチン接種が感染者数の増加を抑えてきた6月とは大きく異なっており、ワクチン接種が感染の拡大に追いつかないことを図は示している。
図2. 1日単位の感染者数とワクチン接種回数の推移
出典:厚生労働省:新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について、20201月〜6月4日、https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00254.html
Oxford Univ.Our World in Data、https://ourworldindata.org/covid-vaccinations
図3. 月単位の感染者数とワクチン接種回数の相関係数
3.日本における社会的免疫獲得の時期はいつか?
7月31日時点の日本のワクチン接種回数は、8,776万回である。2回接種に換算すれば4,388万人となる。国民人口の1/3程度である。ただしこのデータは、1回接種者数も含まれるので、メディアが発表している2回接種者値は27.64%と聞いている。大変遅いスピードだといわざるを得ない。
今日時点で65歳以下の接種が始まっているが、予約をいれてもナシのつぶてというのが大方の日本人の姿だろう。変異ウィルスの出現は、手洗い、マスク、うがい、外出自粛につとめていても感染拡大傾向が続いている。従ってもう一つ施策が必要なのだろう。
さて現在の接種速度で進めば、2021年9月25日前後には、国民の60%が1回または2回接種を完了できる事が図4からわかるが、本当にそうかと問えば、疑わしいといわざるを得ない。図1で示した米国のグラフのように高止まり傾向が、日本にも当てはまることを考慮すれば、回帰直線の数値の方が近いだろう。これをもとに考えてみよう。
回帰直線で示した値でみると、日本国民が1回または2回接種を完了する時期、つまり60%の社会的免疫獲得が2022年1月27日、70%獲得が2022年3月17日、80%が2022年5月7日、90%が2022年6月17日の前後だということがわかる。
ふくみを持たせて捉えれば、60%の社会的免疫獲得時は図4から判断し、2021年9月25日〜22年1月27日の間ぐらいだろうとみられる。
米国は、ワクチン接種の開始時期や接種速度が速かったために、変異ウィルスの感染拡大時期をかろうじて避けた格好になる。これにたいして日本は全てが遅い政府の施策あるいは遅策のために、変異ウィルス拡大にもろに遭遇することになる。感染症対策は、早い者勝ちである。
図4.現時点での感染収束時期の予測結果
4.まとめ
感染拡大傾向の現在、取り得る施策は、ワクチン接種の速度をあげることにつきる。すくなくとも従前の倍ぐらいの速度で進めるべきだ。それとて効果が出るのは一ヶ月後からである。そうした施策を日本政府は、今日時点でおこなっていない。
強い感染力で拡大しているので、ベッド数が足りないから自宅療養だとするのは家庭内感染を増やすだけだから、矛盾した施策である。それで個別対応で医者などを各家庭に派遣するというのは、医療資源の使い方としては無駄が多すぎる。やはりホテルの個室を借り切って完全隔離した方が感染拡大を防ぐ点で効果が高く、また医療資源の提供も効率的だ。
こうしたときに「是非うちのホテルチェーンを使ってください」と名乗り出るホテルがあったら、国民は、そうしたホテルの品格や見識、つまりプレステージを今後忘れることはないだろう。
この1年半の日本の経験を顧みると、日本の政府や自治体は、新しい事態への素早い対応、科学的な視点からの施策の判断や実施、共有する意識の欠落と、その全てが苦手であることがわかった。やはり文科系ガバナンスの限界であろうか。といって与党も野党ともに文科系ばかりだから、そこが私達にとっては悩ましいのだが・・・。
都市計画の専門家の立場からみれば、感染症対策はスピードと、医療資源の効率的投下が重要であることがわかる。ワクチンを自前で開発し速やかに承認できる制度がない日本では、遅速でも最大の速度だったのだろう。隔離を徹底させ効率的に医療資源を投下し、早く収束させ、早く経済を回復させる、それが一番被害を少なくする方法であることは多くの人々の共通認識だが、それができなかったというのが口惜しいですね。
追記
自治体がワクチンパスポートを発行するとメディアは報じていた。確かパスポートには電子チップが埋め込まれ、印刷と合わせて使用すれば偽造はされないだろうと私は考えていた。
都内の某区の対応を放映した番組をみて私は愕然とした。接種券の控えを役所に持参すると、時代かがったプリンターでコピー防止用紙に印刷された証明書を発行してくれるというものであった。私は都内某区役所の国際感覚のなさにあきれた。
それを大きさの違うパスポートにはさんで一緒に持ち歩くなんて実に面倒な話だ。紛失したら現地日本大使館で再発行してくれるかというと、ワクチン接種は役所の仕事なので日本政府では再発行できないとなるだろう。それに旅をすればわかるが、持ち歩けば、こすれたり雨で濡れたりしてペーパーの類いはかすれて文字が判読できないことはよくある話だ。そんな危ういペーパーに古プリンターで印字してパスポート!?。
だからパスポート自体に証明書を印刷し、電子チップに情報を埋め込むべきだ。何故、日本はいつも面倒くさく、世話がやける方法ばかりとるのだろうか。それは日本人の体質なのか?。
下記の図版はロシアのビザである。通用期間の切れた古いパスポートなのでアップさせてもよいだろう。偽造しにくいように文様とホログラムが施されている。ビザ申請をすると、これをパスポートに印刷してくれる。ただし少し前の話なので電子チップに記録されているかどうかはロシアの事なので不明だが、私は密かに記録されているとみている。
私がワクチンパスポートとイメージしていたのは、ロシアビザのイメージであった。だから偽造しやすく再発行できない紙ぺらにパスポートなどと紛らわしい名前をつけんといてほしいな。パスポートは国が発行する書類の事を示すが、日本政府発行でもない自治体のペーパーで世界に通用するのだろうか?。
京都市
NikonDf、CarlZeiss Planar50mm/F1.4、フィルムTri-X400