時間軸には二つの流れしかない。過去と未来とである。これまで未来について語ってきたが、過去についても紹介しておこう。
最近現存しないが古い建築の再生が盛んである。往事の姿を歴史上の文献に従って復元しようというものだ。奈良平城京羅生門の復元がその例だ。
こまではゆかなくても、名古屋城のように戦後の間に合わせで作られた城を、元の木造建築物で復元しようとする動きもある。名古屋城は繊細で焼失したが、それを復元しようというものである。同様のことは首里城にもいえる。
これらの復元は、近年まで建築が存在していたから復元も容易だ。だが数百年前となると、参照できる手がかりが文献と遺構や発掘される出土品ぐらいがてかがりとなり、それだけでは建築上どんな姿だったかはかわらない。そこで創造復元という手法が用いられる。おそらく空間上こうであったのではないか、とする創造だ。
そこで私は、14世紀頃の沖縄県に存在していた巨大グスクの建築郡の創造復元を3DCGで試みている。既に城壁が復元されているが上物建築群がない。
そうしために文献や遺構があるが、特に出土品をみると圧倒的に中国産やヴェトナム産の陶器の破片が出土する。琉球王朝成立以前の按司達の海外との交易の足跡である。そんな交易の歴史から、おそらく建築手法的には、こうだっただろう、空間構成原理からすれば建て方はこれしかない、そうした視点から建築群の創造復元を論文で発表している。
当時から出土品同様に変わらないものがある。それが空間である。空間量も当時のままなのである。考古学の欠点は空間や空間量で物事を考察しないところである。そうなると建築学という視点から歴史をひもとくとする必要性もあるだろう。
歴史をひもとく、それが文献や出土品ばかりに依存する文科系手法では、学問自体が考古学になってしまう。やはり物理量が昔から変わらない空間から、現在の探査技術やGPSなどを活用して往事の生活を描く方法もある。
画像:想像復元した浦添グスク
出典:三上訓顯:建築史上の2つの経験,芸術工学への誘いvol21.名古屋市立大学大学院芸術工学研究科紀要,2016,p3-18.