この提案は個人的に好きな作品である。
ある機会に島を一つシミュレーションの対象にしたらどうだろうかと思いついた。そこで昔の城郭あとに小さなビレッジをつくるという想定で製作した。
おおよそのゾーニングや景観上の軸線を最初に設定し、小さな個々の建築は成り行きでつくりながら、リゾート環境をつくっていった。その結果、全体をみると素晴らしく島全体の景観がまとまとまっているし、軸線が大階段を経て教会の屋根に届いたり、横町の先とか路地階段の先に海が見えるといった具合に、風景を発見できる面白さがある。それは計画的ではなく、その場その場で全体の骨格に合わせてつくっていった偶然の産物だろう。そんな偶然の発見が実在の街を歩いているようでが面白い。
建築は、敷地の形状(ここでは城壁)によって建築の形態や空間が決まっててくる。敷地の形状が意味的であれば、その上に起てられる建築空間も相当に意味的な配置になってゆく。だから敷地の形状が建築空間を決めてゆくといってもよい。もちろんこんなことを建築家は口が裂けても言わないし、認めないだろう。でも事実なのである。
といってこんなプロジェクトが世の中にあるわけではないから、ここではヴァーチャルアイランドだけど。こんなことをコンピュータ企業系の人間に相談すると、じゃあケームの舞台に使おうと心外な事をいいだすので、彼らには教えなかった。
といって日本にそんな城壁はなく、せいぜいあったとしても地中海ぐらいだろう。
大学院でデザイン専攻院生に、この城郭だけを与えリゾートをつれと、と課題をだしたら結果としてできなかったという経験がある。従来からの建築空間をつくるという計画論的手法では通じなかった。そこが面白い。そう、これは建築ではなく環境をつくるという大きな考え方が必要なのだろう。例えば自分でこの環境の何処までを利用し、そして切り捨てるか、そういった大なたを振るうところから始め、自分の内に制作のルールをつくらないと完成できない計画方法なのである。
もう一つ、これは画像からはまったく読み取れないが、層状の環境なのだ。城壁の地下内部には、コンベンションホールや劇場やカジノやコージェネ施設が設えられ、その上部は異質のリゾートという性格の異なる環境を積み重ねている。こうした層状に異なった空間をつくる考え方は、オランダの建築家集団MVRDVの提案にあった。
提案はヴァーチャルだけど実現可能な内容を持っている。これが現実的提案であることを理解するためには、創造力が必要だけど。