2016年頃、さる筋から私にスケマティックデザインのスケッチを依頼された。福島県浪江町と南相馬市にまたがる海岸段丘上に、当時の先端技術を集積させた研究技術開発都市をつくりたい、というものであった。それは帰還困難区域から僅かに外れていた。
提案メモをみると日本の先端技術開発のカタログのようであり、むしろ私は、F1の廃炉計画に貢献できる元素分解の研究技術開発のセンターでもつくればよいのにと考えていた。
依頼を尊重し、住宅地区のイメージスケッチを一晩で描いてさしあげた。はて、絵の通りに空間的に実現できるのだろうか?。そんな疑問がありスケッチに基づいて住宅街を3DCGで検証した。
テラスバレースタイルの建築だから、アクセスは前面のテラス側からアプローチする。各住戸のテラスである庭を通り抜け、玄関をはいると大きなリビングルームがある。戸建て感覚のゾーニングだ。そしてキッチンやユーティリティを経てそれぞれの個室にたどり着く。空間としてみれでpublic zoonからprivate zoonへゆるやかに変化してゆくから暮らしに素直に対応できる空間構成だ。
それは現代のマンションの多くが北廊下、北玄関であり寝室などのprivateな居室の間をすり抜け、ユーティリティを経てリビングルームに到達するという難儀なゾーニングに比べれば、こちらのほうがはるかにシームレスだ。
問題は住戸を上層階にゆくほどセットバックさせてゆくと、どうしても低層階後側の空間が余ってしまう。ここを住宅にすると奥行き48mの巨大ウナギの寝床となり大変使いにくい。最もル・コルビジェの集合住宅ではあるが。ここがセットバックスタイルの知恵のだしどころになる。
駐車場をもうけてもスペースは余る。そうなると背後に図書館やコミュニティなどの公共施設をかませれば成立できるだろうということがわかった。だが住戸の規模の方が圧倒的に多く、それでも余るほどバックヤードに課題を残したデザインである。
こうした住棟を並べ、中央には海に向かって開いてゆく空間と水辺のあるモールをつくり商業界隈をいれたいとする考え方も要求にあった。モールの両側は、住戸に暮らす人々のための商店が軒をつらね良好な佇まいを形成できそうだ。これは容易に実現できそうだが、はたして都市でもない福島の河岸段丘上に大規模商業集積が必要なのかとする疑問も立ち上がってくる。
そうした検証をしてゆくと、この土地でこうした提案が実現できる必然性がみえてこない。つまりかなりの確信をもって成立不可能ということがわかった。
実際、この土地は震災慰霊碑が建つことで、落ち着いたようだった。提案の世界はトライ・アンド・エラーなのである。