アチキは、夏休みとはいえ、仕事場である名古屋の大学へ行かざるを得ない時がある。そう教授会の日だ。なぜかこの日は全員が集まる。といって懸案次号を黙々と処理して、あとはコロナ対策だ。けっこうこれが大変なんだ。
そうして午後の飛行機で新千歳に戻ると真っ先に空港の札幌ラーメン屋にゆく。暑い季節の、熱々の札幌ラーメンを汗を流しながらすするというのは、サディスティックな快感に近い。
空港から小樽まで1本の電車がありがたい。札幌ラーメンの余韻で寝てゆけるからだ。どうせ寝そびれても終点だし。
札幌を過ぎる頃、「ここいいですか?」
いいよぉー・・・・・。
薄眼をあけるとボケた人物に次第にピントが合ってハッキリしてくる。
「なんだツカモッチャン家の一太郎君じゃないか・・・」
一太郎「はぃ、仕事帰りですぅーー」
「あら!、フォートフォリオケースを持参しているから、クルマのデザインでも考えているのかな?」
一太郎「仲間達と電気自動車第2号のデザインを考えてます」
「あっ、みたい」とおねだり。
フォートフォリオケースからPM紙に描かれた、レンダリングを抜き出した。
一太郎「まだ、デザインが決まってないんですーー。これとか・・・・」
「へーーっ、格好いいじゃん」
一太郎「どうもガソリン車のイメージから離れられなくてねぇー、悩ましいのよねぇー・・。これでもボディの半分はバッテリーを想定しているんですよ。動く乾電池だねぇー」
「今も、パステルとマーカーでドローイングするの?」
一太郎「そうです、デザインの原案を考えるときは手書きの方が早いですから・・・。デザインが固まるとCADに落として。手書きのドローイングをCADにおとせるソフトがあるんですよ。それから形を修正したら、町の工房に持って行ってFRPで三次元成形で立体にして、あとはみんなで磨き上げるとボディが完成するわけ。今は随分と楽になったです」
「そんな風にいろんなパーツをつくるわけね」
一太郎「メカは、ほほでできているんです。まるでゴーカートみたいに骨だらけ。あとは我が社の廃車から部品を調達するんです。結構スホーツカーって乱暴な運転をするから廃車があるんですよ。それで部品再生して、メーターとか椅子を組み込んだら完成ですーー」
「いつごろできるの?」
一太郎「あと一ヶ月ぐらいかなぁー」
「楽しみが増えたね・・・・」
・・・
そんな会話をしながら、列車は恵比寿島をすぎ、遠くに小樽の街の灯りが見える。
小樽の山の端が赤くなっている。夕焼け空だけど、列車からはみえない。