都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「吉村順三建築展」 東京藝術大学美術館 12/10
東京藝術大学美術館(台東区上野公園)
「吉村順三建築展」
11/10~12/25
東京藝術大学美術館で開催中の「吉村順三建築展」です。建築家吉村順三(1908-1997)の業績を、図面や精巧な模型を用いて、分かり易く紹介します。コンパクトによくまとめられた展覧会です。
吉村氏の建築において目立った点は、建物上部の空間の生み出し方に独自性(?)があること、つまり、上部が下から浮き上がっているように見えることです。一階部分は極力小さな堆積に押さえて、最低限の要素、例えば玄関や水回り等のみを設置し、二階部分には居間や寝室のスペースをたっぷりととる。建物上部は、下部の全てを覆った上に、さらに大きく出っ張って面を作り出す。まるで、小さな箱に、大きな平べったい箱が載っているようです。また、下部は大きな上部を支えるため、コンクリートにて強度が保たれているとのことですが、心なしかどこか不安定です。主に木造にて作られた上部の軽さ、または、上へと向かうような浮遊感を思わせます。
この上部の浮遊感が最も顕著に見られたのは、もちろん「軽井沢の山荘」でした。鬱蒼とした森の中で静かに佇む氏の山荘。周りは一面の木々に覆われ、視界の全て緑に包まれます。その中に、上部が持ち上がったような、浮遊感のある山荘がポツンと一棟。居住部分にあたる二階には大きな窓があり、そこを開け放した時に感じられるのは、森と一体になったような、自然が家の中へ飛び込んでくるような開放感です。一階部分を忘れさせるこの演出は、自分の居る場所の高さをも忘れさせて、木々の呼吸に包まれます。これはなかなか見事です。
もちろん、下部を小さくすることは、そのような演出効果を生むだけではなく、解説にも書かれていたように、防犯性を追求することにもつながります。また、氏の作品は全体的に、あまり建物が外へと繋がるような気配がなく、むしろ閉じているようにも見えました。ただ、その閉じていると言うのは、単に建物が外部を完全に遮断しているという意味ではありません。要は、内と外の境界線がハッキリと分けられた「内」の中(一階の小ささに守られた二階部分など。)で、例えば「軽井沢の山荘」のような、外の自然を大きく取り込む。言い換えれば、基本は内の安心感に包まれて、その上で、内が外を取り込むというような傾向が見られると思います。境界の曖昧さは排除され、あくまでもそれが厳格に区別された中での、外から内への緩やかな動き。私の勝手な思い込みではありますが、非常に興味深い点だと思いました。
最後に紹介されていたのは、比較的晩年の作品である「八ヶ岳高原音楽堂」です。この建物は、それまでに浮遊感を見せていた上部が、思い切り重厚な屋根へと転換して、下部をグッと押しつぶします。大地へ刺さるように、鋭角的な傾斜も見せる屋根は、下部をどっしりと保護する。これまでの氏の建物にはあまりなかったような造形なので、この辺の変化の様子には少し驚かされました。
これまでも、建築の展覧会をいくつか見てきてましたが、いつもその見せ方、つまり展示方法に難しさを感じさせる中で、今回の展覧会は、地味な構成でありながらも、要所を掴んだ上に分かり易い、優れた内容だと思いました。ただ少し残念だったのは、NHKの制作(?)による「軽井沢の山荘」をテーマとした映像です。全体的に「イメージビデオ」的で、あまり建物の素材や構成を見せてくれません。唯一、氏の作品を映像で見ることができるものだったので、もう一歩深いものであればと思いました。今月25日までの開催です。
「吉村順三建築展」
11/10~12/25
東京藝術大学美術館で開催中の「吉村順三建築展」です。建築家吉村順三(1908-1997)の業績を、図面や精巧な模型を用いて、分かり易く紹介します。コンパクトによくまとめられた展覧会です。
吉村氏の建築において目立った点は、建物上部の空間の生み出し方に独自性(?)があること、つまり、上部が下から浮き上がっているように見えることです。一階部分は極力小さな堆積に押さえて、最低限の要素、例えば玄関や水回り等のみを設置し、二階部分には居間や寝室のスペースをたっぷりととる。建物上部は、下部の全てを覆った上に、さらに大きく出っ張って面を作り出す。まるで、小さな箱に、大きな平べったい箱が載っているようです。また、下部は大きな上部を支えるため、コンクリートにて強度が保たれているとのことですが、心なしかどこか不安定です。主に木造にて作られた上部の軽さ、または、上へと向かうような浮遊感を思わせます。
この上部の浮遊感が最も顕著に見られたのは、もちろん「軽井沢の山荘」でした。鬱蒼とした森の中で静かに佇む氏の山荘。周りは一面の木々に覆われ、視界の全て緑に包まれます。その中に、上部が持ち上がったような、浮遊感のある山荘がポツンと一棟。居住部分にあたる二階には大きな窓があり、そこを開け放した時に感じられるのは、森と一体になったような、自然が家の中へ飛び込んでくるような開放感です。一階部分を忘れさせるこの演出は、自分の居る場所の高さをも忘れさせて、木々の呼吸に包まれます。これはなかなか見事です。
もちろん、下部を小さくすることは、そのような演出効果を生むだけではなく、解説にも書かれていたように、防犯性を追求することにもつながります。また、氏の作品は全体的に、あまり建物が外へと繋がるような気配がなく、むしろ閉じているようにも見えました。ただ、その閉じていると言うのは、単に建物が外部を完全に遮断しているという意味ではありません。要は、内と外の境界線がハッキリと分けられた「内」の中(一階の小ささに守られた二階部分など。)で、例えば「軽井沢の山荘」のような、外の自然を大きく取り込む。言い換えれば、基本は内の安心感に包まれて、その上で、内が外を取り込むというような傾向が見られると思います。境界の曖昧さは排除され、あくまでもそれが厳格に区別された中での、外から内への緩やかな動き。私の勝手な思い込みではありますが、非常に興味深い点だと思いました。
最後に紹介されていたのは、比較的晩年の作品である「八ヶ岳高原音楽堂」です。この建物は、それまでに浮遊感を見せていた上部が、思い切り重厚な屋根へと転換して、下部をグッと押しつぶします。大地へ刺さるように、鋭角的な傾斜も見せる屋根は、下部をどっしりと保護する。これまでの氏の建物にはあまりなかったような造形なので、この辺の変化の様子には少し驚かされました。
これまでも、建築の展覧会をいくつか見てきてましたが、いつもその見せ方、つまり展示方法に難しさを感じさせる中で、今回の展覧会は、地味な構成でありながらも、要所を掴んだ上に分かり易い、優れた内容だと思いました。ただ少し残念だったのは、NHKの制作(?)による「軽井沢の山荘」をテーマとした映像です。全体的に「イメージビデオ」的で、あまり建物の素材や構成を見せてくれません。唯一、氏の作品を映像で見ることができるものだったので、もう一歩深いものであればと思いました。今月25日までの開催です。
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