「収蔵品展019 相笠昌義」 東京オペラシティアートギャラリー 12/25

東京オペラシティアートギャラリー(新宿区西新宿)
「収蔵品展019 相笠昌義 日常生活展」
10/15~12/25(会期終了)

バルケンホール展と同時に開催されていた、収蔵品展の相笠昌義の展覧会です。タイトルの「日常生活」の通り、何気ない日常が、相笠の強烈な心象風景にて、半ばデフォルメされた形で描かれています。あまり後味の良くない、しかしながら見応えのあることを思わせる展覧会です。

ともかく、前半部分にて展示されている、都会の一風景を切り取って描いた作品が圧巻です。灰色がかった、くすんだ色。そこに見慣れたビル街や、花見の様子などが、気怠く、そして強烈な疲労感を思わせながら描かれています。前屈みになって、猫背を見せながら、覇気なく歩く、後ろ姿のスーツ姿のサラリーマン。「銀座風景」(2004年)では、そんなくたびれた人たちが、社会の重圧に押し潰されるかのように、とぼとぼと歩く様がおさめられています。また、本来なら、華やかな光景であるはずのお花見の景色も、相笠の手にかかると、実に重苦しい気配を漂わせます。「お花見」(2004年)では、「銀座風景」と同じようなくたびれた人々が、全く花を見ることなく、ござの上に車座となって、ビール片手に酒を飲む姿が印象的に描かれます。ワイシャツやネクタイを、ダラッと緩めたオジサンたち。上司の悪口なのか、仕事の愚痴なのか、はたまたヨメサンの悪口なのか。ともかく、大凡、前向きなことが語られていないだろうと思わせる光景です。この強い厭世観。画面からじわじわと伝わってきます。

後半に展示されていた人物画には、いくつか美しいものが見受けられました。「バラをもつ女」(2004年)では、端正な横顔を見せる一人の女性が、手に一輪のバラをもって佇む姿が描かれています。右上からは、彼女を祝福するかのような柔らかな光が差し込み、その顔に生気をもたらしていく。初めに見られたような、くすんだ作品とは味わいが大きく異なります。

一部を除けば、平べったく、奇妙に曲がった人物描写と、相笠の目を通して見た、光の失われた風景。強い余韻を残す展覧会でした。
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2005年 私が聴いたコンサート ベスト5

昨日からいきなり体調を崩してしまって、年末だというのに今日は散々だったのですが(少し回復しましたが。)、これを書かなくては年が明けません。(?)ということで、恒例の企画、まずはコンサートから始めてみたいと思います。(昨年は「ベスト3」でしたが、今年は5つ挙げてみます。)

「2005年 私が聴いたコンサート ベスト5」

1 「フィラデルフィア管弦楽団 2005来日公演/東京」 5/23
   マーラー「交響曲第9番」 クリストフ・エッシェンバッハ指揮
2 「ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 2005来日公演/東京」 2/21
   ベートーヴェン「交響曲第3番」他 ヘルベルト・ブロムシュテット指揮
3 「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン音楽祭2005/東京」 5/1
   ベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」 ダニエル・ロイス指揮
4 「新国立劇場2004/2005シーズン」 1/20
   ヴェルディ「マクベス」 リッカルド・フリッツァ指揮
5 「伶楽舎第7回雅楽演奏会」 10/2
   武満徹「秋庭歌一具」他 伶楽舎演奏

「何を聴いているんだ!」と思いっきり怒られそうな上(世評は芳しくありません。)、自分でも「一体この日の演奏が、私にとって良かったのか、そうでなかったのかは、今をもっても分かりません。」と書いているのに、ここで1位にしたのは、フィラデルフィアとエッシェンバッハのマーラーです。確かにオーケストラは荒く、エッシェンバッハの指揮ぶりも非常に謎めいていたかと思いますが、ともかく今年最も印象の残った、また心を揺さぶられたコンサートには違いありません。今後エッシェンバッハの演奏を追っかけてみようとは思いませんが、聴衆へ挑戦(もしくは無視。)するかのような彼の表現は、あまり他ではないような、予定調和的でない、演奏会の一期一会の緊張感を感じさせてくれたコンサートだったと思います。

2位はゲヴァントハウスとブロムシュテットのベートーヴェンです。長い歴史が生み出したオーケストラの風格と、ブロムシュテットの明晰で安定感のある指揮。それが非常に上手く合わさり、まさにエッシェンバッハとフィラデルフィアの対極にあるような、音楽を聴くことの幸福感をたっぷりと味わえた演奏だったと思います。今年はこの他に、ナガノとベルリン・ドイツ響や、ヤンソンスとバイエルン放送響などの、外来のメジャーなオーケストラの公演を聴きましたが、その中では最も安心して音楽の大きな波に浸ることが出来た、美しいコンサートでした。

3位は「熱狂の日」のコンチェルト・ケルンです。私の苦手なこの「ミサ・ソレムニス」を、透明感のある瑞々しい響きで、この上なく軽快に楽しませてくれた演奏でした。ホールの難を差し引いても十分にお釣りが来るような、コスト・パフォーマンス的にも最高の公演でした。(来年の「熱狂の日」での来日がないのは残念です…。)

4番目は新国立劇場の公演から、フリッツァ指揮の「マクベス」を挙げます。新国立劇場の公演は、他にもアルローの演出が見事な「ホフマン」や、長丁場を手堅く聴かせてくれたレックの「マイスタージンガー」などが印象に残りましたが、ともかく音楽面、特にオーケストラと指揮の面で最も素晴らしかったのがこの公演です。「新国立劇場で初めて生き生きしたイタリアオペラのリズムを聴いた。」(また怒られそうですが。)そう言っても良いほどに、抜群のリズム感にてヴェルディを聴かせたフリッツァ。賛否両論のある野田の演出を吹き飛ばすほどに、小気味良くキレの鋭い音楽を楽しませてくれました。是非、もう一度、新国立劇場に登場していただきたいものです。(ロッシーニやドニゼッティでも大歓迎!?)

最後は、私に雅楽の面白さを教えてくれた、雅楽演奏団体「伶楽舎」のコンサートです。武満徹の「秋庭歌一具」を生で接することが出来た自体、とても貴重な機会だったかと思いますが、伶楽舎は、この自然讃歌を実に優れた演奏技術にて聴かせてくれます。サントリーホールがまるで神社の杜へと変化したような、とても静謐で、穏やかな場が生まれていました。

今年は全部で25回、コンサートに行きました。(前年比+9)不思議と昨年に比べて「当たり」(?)が多く、その分、とても印象に残ったものが多かったように思います。上に挙げたコンサート以外では、新日本フィルから驚くべき「古楽器の響き」を引き出すことに成功した、ブリュッヘン登場の定期演奏会、または、大好きなライヒを初めて生で聴くことが出来た「IEMA」のコンサート、さらには、BCJの格の違いを見せつけた二期会の「ジュリアス・シーザー」などが印象に残りました。

最後になりましたが、今年もまた素晴らしい音楽を聴かせて下さった演奏家の皆様、本当にどうもありがとうございました。また来年も素敵な音楽に出会えることを祈って…。
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