「キアロスクーロ展」 国立西洋美術館 12/10

国立西洋美術館(台東区上野公園)
「キアロスクーロ -ルネサンスとバロックの多色木版画- 」
10/8~12/11(会期終了)

上野の西洋美術館で、先日まで開催していた「キアロスクーロ」展です。イタリア語で「明暗」を意味し、16世紀のドイツで生まれ、ルネサンス期のイタリアで発展したキアロスクーロ木版画、その約110点にて構成された展覧会です。比較的地味な印象は受けましたが、版画の技法なども詳細に解説され、歴史も概観することが出来ます。なかなか見応えのある内容に仕上がっていました。

さて、このキアロスクーロの興味深い点は、会場でも述べられていたように、日本の浮世絵の技法と極めて類似していることです。もちろん、出来上がった作品の印象は、浮世絵とキアロスクーロで、全くと言って良いほど異なりますが、洋の東西、または時代を超えて、このような技法による作品がそれぞれにあったことに、俄然、関心が湧いてきます。ただ、残念ながらこの展覧会では、それぞれの技法の類似点や相違点についての、詳細な比較展示がありません。一つのコーナーにでもそのような展示があれば、さらに面白くなってくるのではないでしょうか。

作品の中で最も魅力的だったのは、16世紀後期のイタリアのキアロスクーロ版画として紹介されていた、アンドレア・アンドレアーニによる、「カエサルの凱旋」の連作です。ローマの英雄、ユリウス・カエサルの凱旋。捕虜や戦利品をたくさん抱えたローマ市民が、華々しくローマ市内を行進していきます。メインはもちろん、「戦車に乗って凱旋するユリウス・カエサル」(1593-99)。勇壮さよりも、むしろ気品に満ちたカエサルの姿は、木版画の温もりにも包まれて、目を釘付けにさせます。その場の雰囲気が伝わってくるような、当時のローマの賑わいすら感じられる作品でした。

キアロスクーロ木版画の味わいは、各版の色の差異によって大きく変わってくるようです。茶色や黄色系を組み合わせた作品には柔らかな温もりが、また、褐色系が浮き上がってくるものには、そのメタリックな光沢が、どこか石の質感をも思わせて、少し冷たい感触をイメージさせる。明暗や陰影に関しては、色の違いよりも、各画家の違いによるものが大きいかと思いましたが、版の色の違いと作品の味わいが、これほど直に結びついてくるとは、少々意外に感じました。

東京で数多く企画される美術展の中でも、西洋版画のみに焦点を当てたものは少ないかと思いますが、今回のように企画に優れた、日本ではまだニッチ的とも言える芸術を紹介する試みは大歓迎です。版画をしっかりと定期的に見せてくれる、国立西洋美術館ならではの展覧会でした。
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